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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第90話 対話

挿絵(By みてみん)




 バタンと扉が閉じる音が、無機質な空間に響く。

 

 見えるのは白い廊下と、時代感が異なる無数の扉。


 扉は入り口と出口の分も含めるなら、全部で十四枚。


 純粋に攻略できる世界は十二。その内の一つは見れた。


 強くなるには、残る十一か所を見て回らないといけない。


「……」


 ジェノは一人、白い廊下で立ちすくむ。


 リーチェを倒すには休んではいられない。


 悠長に立ち止まっている暇なんてなかった。

 

 ――それなのに。

 

「このままで、いいのかな……」


 突如、襲ってくるのは虚無感だった。


 胸の中にぽっかり穴が空いたような感覚。


 やりたいのに、やりたくない。矛盾した思い。


 リーチェを殺したいほど憎んでいるわけじゃない。


 妹の件でついた嘘を認めさせたい。動機はそれだけだ。


 認めさせる手段として、師匠よりも強くなることを望んだ。


 それが正しいと言い聞かせてきたけど、間違っている気がする。


 よく回る歯車を別の歯車に変えられ、噛み合わせが悪くなった感じ。


 思想を無理に歪められてしまったような、気持ち悪さと違和感があった。


『その違和感の正体。教えて進ぜましょうか?』


 そこで頭に響いたのは、聞き覚えのない声。


 だけど、妙に親近感があったし、懐かしい感じもした。


(ついに接触してきたか……)


 その正体は、言われるまでもなく理解できた。


 いくら察しが悪くても、声の方向先ぐらいは分かる。


 心の内側だ。そこに無断で居座ってるのは一人しかいない。


「――――白き神」


 ジェノは初めて神と対話を果たす。


 神格化が進行してきた、何よりの証拠だ。


 事前情報を知ってたおかげか、焦りはなかった。


『二度は言いませんよ。お返事は如何いかがでしょうか?』


 白き神は肯定も否定もせず、話を続ける。


 利己的で自分勝手。喋りは丁寧だけど、不敬。


 少ないやり取りだけど、相手の性格が見て取れた。


(本質的には、あの人と同じだ)


 ジェノは会った人の中から、一番近い人物を思い浮かべる。


 レオナルド元大統領。外面はいいけど、中身は最悪だった大人だ。


 第一印象で相手を判断するのは失礼だけど、今のところ適切な気がする。


(生半可な返事は体の主導権を渡すことになる。言葉は選ばないとな)


 身も心も引き締まっていくのを感じる。


 反面教師とは、本当にいい言葉だと思えた。

 

 おかげで最初から心理戦と認識した上で挑める。


「アドバイスは求めてない。俺は俺の思うようにやる。引っ込んでくれ」


 ジェノはキッパリと断りを入れる。


 敬語を使わないのは、敵対する意思表示。


 強敵だと認めた上での、せめてもの反抗だった。


『その手甲と鎧の因果関係を教える。と言ってもでしょうか?』


 すると、白き神はさらに条件を追加する。


 さっきよりは、耳寄りな情報のように思える。


(交渉材料にしてくるってことは、関係があるってことなんだよな)


 違和感の正体と、手甲と鎧の因果関係。


 口振りからして、どちらも裏があるのは確実。


 白銀の鎧を呼び出せない理由が分かるかもしれない。


「それは……そっちの条件次第だね」


 言葉を選び、慎重に話を掘り下げる。


 白銀の鎧は、恐らく、神の本質的な部分。


 知れば、体から神を切り離せるかもしれない。


 リスク次第で十分なリターンはあるように感じた。


供犠くぎ。そう一言だけ、余に向けて発して頂きたい所存でございます』


 白き神は下手に出た上で、条件を提示する。


 供儀とは、神仏に生贄や供物を捧げることを差す。


 神に関する情報を調べるうちに、身についた知識だった。


(ハメる気満々だな。言ったが最後……)


 この身を捧げます。と神に宣言するようなもの。


 約束は縛りとなり、二度と元に戻れないかもしれない。


「まさか、乗っ取るつもりじゃないよね」


 ジェノは意味を理解した上で、釘を刺す。


 断るのは簡単だ。安全を取るなら無難ではある。


 でも、早合点は良くない。ラインを見極めれば有用だ。


 相手の言い分によっては、譲歩できる可能性は十分にあった。


『…………お答え、できかねます』


 しばしの沈黙が流れた後、白き神は語り出す。


 都合の悪いことはだんまり。嫌な政治家みたいだ。


「……有効期限はいつまで?」


『いつまでもお待ちしております』


 念のため掘り下げると、すぐ回答が返ってきた。


 欲しいものには食いつきが良い。少し人間っぽかった。


「分かった。……でも、今は頼るつもりないから黙って見てて」


 しかるべき時には使うかもしれない。


 だから、未来の可能性の一つに残しておく。


 今はそれが一番いい落としどころのような気がした。


(……結局、何も解決してないな)


 ただ、状況は全くと言っていいほど進展してない。


 別の扉を攻略するか、先に進むかさえ決まってなかった。


(さて、ここからどうしようか…………)


 白き神は沈黙をして、再び静けさが戻っていく。


 残ったのは無数の選択肢と、ほんの些細な違和感。


 前に進むためにも、思考をまとめようとしていると。


「…………?」


 バタンと遠くから音が聞こえた。


 北側。正面に当たる扉が開いた音だ。

 

(あれは……)


 ジェノは視線を向け、現れた人物を確認する。


 茶色のショートヘアに、セーラー服を着た女性。


 後ろ髪が外側に跳ね、活発そうな印象を受ける人。


「あっ! 広島さ――」


 ぐんとテンションが上がっていく。


 暗い気持ちが、明るくなるのを感じる。


 短い間だったけど、ある意味で師匠の一人。


 もしかしたら、悩みを相談できるかもしれない。


「――――何も聞かんで、うちと殺し合うてもらえる?」


 そんな淡い望みは、易々と断ち切られる。


 嘘でも冗談でもないのは、一目見て分かった。


 これは、撤退を許されない、避けられない死闘だ。

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