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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第89話 ロールプレイ

挿絵(By みてみん)




 あわわわ。どうしよう。喧嘩が始まっちゃった。


 相手はミア博士の面影が残ってる、紫髪の女の子。


 メリッサ・ナガオカ。被検体008。同じナンバーズ。


 血が繋がってないとはいえ、正直言って戦いたくない。


 かといって、ここで負けたくないし、手を抜けない状況。


 だけど、どう動くかより、もっと深刻な問題があったんだ。


(……なんで、メリメリと戦ってるんだっけ?)


 ソフィアは辺りを眺めて、観察する。


 真っ暗な空間に白い住居が左右に並んでる。


 地面は石畳で、エゲつない斬撃が走った跡がある。


 そばには、ダヴィちゃんと、知らない女性が倒れていた。

 

(あー、よく分かんないけど、身内に手を出されたなら、やるっきゃないか!)


 状況をどうにか呑み込んで、ソフィアは戦闘態勢に入る。


 体をリラックスした状態での仁王立ち。言わば、不動の構え。


「まるで隙がないっすね。さすがは、うちのお姉ちゃん!」


 メリメリは右手の白い短剣をぎゅっと握り、駆けてきた。


 短剣を振りかぶり、なんの工夫もない攻撃を繰り出そうとする。


(隙だらけだし、遅いし、何より愚直。まだまだ未熟だな)


 上から目線で戦況を眺め、余裕をもって後手に回る。


 それぐらいの実績の差はあるし、戦ってきた歴史が違う。


 その間にも、メリメリは迫り、白い刃を振るおうとしていた。


「えい!」


 ソフィアはここぞとばかりに、蹴り上げる。


 メリメリの軌道を予想して、先に潰すような感覚。


 言わば、モグラ叩き。それと同じ要領でやればいいだけ。


 ――そう頭の中では思ってた。


「…………あれ?」


 だけど、ぐるんと目が回って、世界は一回転。


 蹴りは的外れな方向に逸れ、ドスンという音が鳴る。


 自分の足に引っ張られて、すっ転んだ。遠心力ってやつだ。


(おっかしいな。完璧に捉えたはずなんだけど……)


 そう考えた直後、頭上ではブンという物騒な音が鳴る。


 転んだおかげで助かった。典型的なドジっ子属性特有のやつ。


「なんすか、それ……ふざけてるんすか……」


 それを見たメリメリの反応は、驚くほど冷たい。


 いや、手加減されて怒ってるって言った方が正しいかな。


「あっはははっ。バレちゃったかぁ。まずは小手調べってね」


 ソフィアは立ち上がりながら、盛大に嘘をつく。


 今の攻防だけでも、さすがに理解することができた。


 これは異常だ。知識はあるのに、体が全くついてこない。


 全身に重りをつけ、海中散歩させられているようなイメージ。


 経験値だけをゼロにされ、レベル1の状態に戻されたような感覚。


 言わば、弱くてニューゲーム。できるのにできない自分がもどかしい。


(デバフを食らったもんはしゃーない。実戦で調整あるのみ!)


 ソフィアは全ての事象をポジティブに受け止め、前を向く。


 経験はなくなったとしても、これまで培ってきた膨大な知識がある。


「――――」


 目を閉じ、己と向き合い、思いの源を探る。


 禅。意思の力を自在に操るための修行法の一つ。


 潜在しているセンスを呼び起こすための、通過儀礼。


 普段なら必要のない工程だけど、使えなくなっちゃった。


 体術だけで倒したいところだけど、能力者相手には自殺行為。


 ――気付かれる前に、習得する。


 使えなくなったなら、一からやり直せばいいだけのこと。


 ただ、ダラダラやる時間はない。一発で根っこを掘り当てる。


 何事もなかったように見せかける。姉の面目だけは意地でも保つ。


(最強で在りたい。その思いは今も昔も変わらない)


 動機を言語化して、胸の内に火を灯す。


 燃え盛るような思いの丈を意思の力に変える。

 

 辺りは緋色の光に満ちて、漲るような活力が溢れる。


「ようやく、エンジンがかかったようっすね」


 メリメリは反応し、正常なのがよく分かった。


 一歩前進。最強で在ろうとする意思は未だ顕在。


(よっし! この調子でお姉ちゃん頑張っちゃうぞ!)


 そんな上擦るような気持ちは、戦いの中に溶けていった。


 ◇◇◇


 第三回廊区。屍天城。一階。畳の間。


 一帯が畳で構成される、シンプルな部屋。


 天井は突き破られ、木片があたりに散らばる。


 頂上での戦いは終わり、静謐な空気に満ちていた。


 そこにフワリと降り立つのは、白衣を着た白髪の女性。


「まだ息はあるかい、ガルム」


 マルタは流れるように、地面に横たわる狼男に声をかける。


 動作も仕草も表情も壮健そのもの。戦いの疲れは感じられない。


「……面目ありません。私が不甲斐ないばっかりに」


 一方で、ガルムは疲労困憊の顔を見せ、謝罪する。


 目立った外傷はないが、しばらく動けないといった様子。


 治療を施せば、すぐに参戦可能だろうけど、問題は別にあった。


「あぁ、気にしなくていいよ。元々やられる予定だった。それより――」


 マルタは入り口付近に目線を向ける。


 息を潜めて、機をうかがっていた観戦者。


 屍天城八階で、会話を盗み聞きしていた王子。


「まさか、王室に鼠が入り込んでいたとはな。……第四王子をどこへやった」

 

 赤い刻印が施される剣を抜き放ち、パオロ・アーサーは糾弾する。

 

(次から次へと……。年長者は気苦労が耐えないねぇ……)


 ある意味では、予想通りの展開だった。


 とはいえ、こうも連戦が続くと骨が折れる。


 見た目は若く保ってるが、心はそこまで若くない。


(ま、これも何かの縁だ。あの子と同じように手解きしてやろうかね)


 弱者を教え導くのは、聖女としての務め。


 これも役目だと割り切り、矢を番え、言い放つ。


「あたいを倒せたら答えてやるよ。どうせ無理だろうけど」

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