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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第86話 聖遺物

挿絵(By みてみん)




 第四小教区。時計塔広場より北の通路。


 左右には住宅街が並び、王子連合は前進を続ける。


 行く手を阻む悪霊の姿はなく、地面には斬撃の跡が残っていた。


(どうやら、本格的に始まったようっすね)


 メリッサは最後列で奥の気配を感じ取る。


 挑戦者が三人。最奥で待ち受けるのが一人。

 

 先行者が初代王を封じれば、その時点で終了。


 アルカナ陣営は二人欠けて、王子含めれば二人。


 一方、ミネルバ陣営は王子含めて三人が残ってる。


 人数的に考えれば、別の陣営が勝つのが順当な展開。


(ここらが潮時ってところっすか……)


 競合相手は、出来るだけ少ない方がいい。


 アルカナを王にするためにも、手段は選ばない。


「――動くなっす」


 メリッサは密かに動き出し、言い放つ。


 信頼関係を構築し、心の隙間を狙った、裏切り。


 ミネルバ陣営は虚を突かれ、一斉にこちらに振り向いた。


「くっ……」


 声を上げたのは、王子ミネルバ。


 競合相手は侍従ではなく、他の王子。


 背後から首を絞め、頸動脈に爪を当てる。


「へぇ……ここで裏切るんだ。無駄だと思うけどなぁ」


「悪あがきはやめておけ。お前じゃ俺たちには勝てない」


 ソフィアとダヴィデは焦った様子もなく、反応を示す。


 今からでも対応できる。そんな二人の余裕が垣間見える。


 実際、あの二人はかなり厄介。体術勝負なら、あっちが上。


 能力勝負に持ち込もうにも、相手には能力封じの魔眼がある。


 ただ、それを加味した上で、どうしても試したいことがあった。


「さっきの魔眼……。能力を完全に無効にするものじゃないっすよね」


 その取っ掛かりとなる部分をメリッサは尋ねる。

 

「だったら?」


 ソフィアは小首を傾けつつ、応じる。


 肯定も否定もしない。どちらとも取れる反応。


 それを見定めつつ、頸動脈に当てた手を慎重に動かす。


 中指と親指を合わせ、ミネルバに害意がないように見せかける。


「……」


 空気がぐっと引き締まっていくのを感じる。


 一挙手一投足が注目されて、相手は出方を伺う。


 冗談で済むのはここまで。ここから先は、敵対行為。


 何か不審な動きをすれば、すかさず、鎮圧してくるはず。


「――うちらの勝ちっすよ」


 全て承知の上で、メリッサは中指をパチンと鳴らす。


 敵対宣言の合図。それと同時に、全員が一斉に動き出す。


 ミネルバは裏拳を放ち、ダヴィデが迫って、ソフィアは警戒。


 その間にアルカナは前に走り出し、分霊室の最奥を目指していく。

 

 ここまでは、当初の予定通り。アルカナを先に行かせるのが、マスト。


(さぁ……ここからが正念場っすよ)


 メリッサは裏拳をかわしつつ、上空を見る。


 住居の屋上から現れたのは、一匹の黒い蝙蝠こうもり


 未来のジェノから継承することになった聖遺物レリック

 

 飛翔しつつ、小さな口を開き、真下に向けて放つ。


「――」

 

 キィンという音と共に発するのは、衝撃波。


 高い周波数を用いた、音の波をぶつける異能力。


 狙いは、警戒し続け、動きを止めるソフィアだった。


「無駄だって、言ってるでしょ」


 ソフィアは左目の魔眼を煌めかせ、上空を見る。


 黄金色の光が彼女を中心に、円形に広がっていく。


 やがて音の衝撃波も光の範囲に触れ、干渉が始まる。


「そっちの王子は返すっすよ」


 その隙に、メリッサは王子を引き渡す。


 背中をポンと優しく押し、解放していた。


「……っ!? なんのつもりだ」


 すぐにダヴィデはミネルバを受け取り、前進を止める。


 目的は王子の身柄。戻ってきたなら攻める理由がなくなる。


(これで一対一。魔眼さえクリアできれば、ワンちゃんあるっす)


 すぐさま見るのは、音の行く末。


 魔眼の光を前に、衝撃波は消えていく。


 ただ、耳が痛くなるような高音は残ったまま。


(やっぱり……。反応するのは、現実から乖離したものだけっぽいっすね)


 メリッサは、魔眼の能力に、おおよその当たりをつける。


 音の衝撃波を飛ばす。これは普通の蝙蝠にはできない芸当。


 ただ、高音域の超音波を飛ばす。これは普通の蝙蝠でも可能。


 消せたのは普通じゃない部分だけ。能力の無効は完全じゃない。


「持たざる者よ、等しく首を捧げて、慚愧の至りで朽ち果て、

 燦爛と輝く命の煌めきよ、幽々たる深淵に覆われ、虚空の闇へと堕ちよ」


 メリッサは確信を持って、二重の詠唱を果たす。


 一つは、上空にいる蝙蝠の聖遺物レリックカマッソソの文。


 もう一つは、内に秘める聖遺物複製体レリッククローンメリッサの文。


 異能力に次ぐ、異能力。あくまでここは、異能で通す。


「――――」


 メリッサの手に纏うのは、白と黒の手袋。


 そして、両手には白と銀の短剣が握られる。 


聖遺物レリックの二重起動……。可能なの、そんなことが?」


 ソフィアは驚き、ほんの一瞬、動きが停止している。


 魔眼のインターバルがあるのか、すぐに消え失せていない。


(ここまで来たら、後は……)


 地面に左手の黒手袋を当て、メリッサは影の能力を展開。


 周辺一帯を覆い尽くし、あからさまな異能力を発動していく。


「わーっと、感心してる場合じゃなかった。正常に、正常に……」


 すぐさまソフィアは魔眼を使い、能力に干渉する。


 みるみるうちに黒い影は、黄金色の光に打ち破られていく。


「――っ!!」


 その瞬間、メリッサは前方に駆けていた。


 異能を消す光に、あえて突っ込む形で、進み続ける。


 影は解け、左の黒手袋は消え、右手の白手袋さえ、消えかかる。


(届けっす……っ!)


 ただ、右手に持った白の短剣だけが生き残る。


 それを思い切り振りかぶって、ソフィアに打ちつける。


「――おっと」


 ソフィアは左手にセンスを集め、刃を受ける。

 

 肌に深く切りつけられることもなく、勢いは停止する。

 

「忘却の彼方!」


 しかし、受け止められるのは、狙い通り。


 刃を受けた衝撃で、音を共鳴させるのが発動の条件。


 キィンという音が鳴り響き、敵の記憶を忘却する能力が発動した。

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