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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第84話 予定調和

挿絵(By みてみん)




 分霊室。第四小教区。王墓所。


 金装飾の棺の前で対峙するのは二人。


 さっきまでいた場所と、何も変わってない。


「……」


 サーラは手を握り、感触を確かめる。


 程よい体温と、確かな肌触りを感じる。


 霊体の時には感じなかった、熱があった。


 人を間接的に握り潰した感覚が残っていた。


(まだ確定してない。まだ……)


 ただ、断定するには早い。


 夢や幻を見せられた可能性もある。


 見てきたものが、全て噓かもしれなかった。


「おかえり。約束はちゃんと守っただろう?」


 マーリンは嫌味ったらしく声をかけてくる。


 同じ時間を共有してないと、知り得ない情報。


 認めたくなかった冷たい現実を突き付けてくる。


 嫌な汗が体中から一気に噴き出し、ようやく悟る。


(他人事じゃない……。わたしが一番の当事者だったんだ……)

  

 リーチェを育てた。異世界人を殺した。分霊室を作った。


 それらは全て事実。王位継承の歴史を自ら作り上げてしまった。


「……どれぐらい、こうしてた?」


 サーラは正気を装い、尋ねる。


 体感してきた時間は、おおよそ数十年。


 ただ、現実がそこまで経過してるとは思えない。


「ほんの数秒だね。ずっと待ちわびていたよ、この時を」


 すると、マーリンは知ったような口を叩いてくる。

 

 読み通りと言わんばかりに、下卑た笑みを浮かべている。


 それが妙に引っかかる。過去の経験を通すと、違和感があった。


(ここでわたしと敵対し、技を受けて、過去に干渉するまでが歴史の一部。分かっていたから、殺さなかった。わざと加減して、追い込んで、技を打たせた。色触是空の回想能力に干渉し、わたしとマーリン自身の霊体を送り込んだ。過去に飛んだタイミングは同じで、わたしだけが現在に戻り、マーリンは過去に留まった。千年の時を棺の中と分霊室で過ごした。でも、それだけだと辻褄が合わない。ここに何も知らなかったわたしを呼び寄せるのは、困難。現在時間軸の記憶を持っていた霊体であろうと、分霊室より外の情報は知りようがなかったはず。それなのに、事前に手を打って、わたしはここに立っている。読みにしては、あまりにも鋭すぎる。霊体を作る能力だけだと、説明がつかない。恐らく、わたしをおびき寄せるために使った、別の能力が存在する)


 サーラは現実から目を背け、反応から能力を考察する。


 そうしないと正気を保てなかった。自分でいられない気がした。


「未来を見通す魔眼。それで結果を知り、わたしを誘い込んだ。そうでしょ?」

 

 濃厚な時間の中で得た経験をもって、答えを導く。


 こいつとは長い付き合いだけど、いつも懐が見えなかった。


 霊体を扱う能力を隠れ蓑に使って、本命の能力をずっと隠していた。

 

「よく分かったね。まぁ、こうなることは全部知ってたけど」

 

 マーリンは細い目を開き、黄金色の瞳を見せつける。


 最悪の展開だった。


 これから、未来を知る相手と戦わないといけないことにある。


「何をしても、無駄ってこと?」


 遥か昔に言い放った、マーリンを葬る宣言。


 継承戦を終わらせようとした思いが霞んでしまう。


 正直言って、未来を読める相手に勝てる気がしなかった。


「いいや、君の守護霊が僕を倒して、王位は継承される。決して無駄じゃない」


 再び目を閉じると、飄々とした様子でマーリンは語る。


 守護霊で倒せば、彼はまた封印されて、王位は継承される。


 それ以外の手段だったら葬れるはずだけど、勝てる気がしない。


(予定調和か……。わたしが頑張っても何も変わらない……)


 懐から取り出すのは、王霊守護符。


 守護霊を呼び出す装置。制作者は不明。


 分霊室が作られた後に作られた、システム。


「わたしが王になった後は、どうすればいいの?」


 今は何も担保にされていない。


 裏切ろうと思えば、裏切られる。


 それなのに、思考は染まっている。


 マーリンに従うことを選択している。


 反抗する気なんて、すでに失せていた。


 自我を貫くにはあまりに長い時間だった。


「追って指示するよ。君は何も考えずに守護霊を呼べばいい」


 マーリンは淡々と次の行動を誘発する。


 余計なことを考えないように命令してくれる。


(あぁ……。もう、なんでもいっか……)


 深く考える余裕も気力もなかった。


 分霊室での出来事はついさっきのこと。


 彼に逆らえるほど、真っ当な人間じゃない。


 このまま従えばいい。言う通りにすればいい。


 考えは楽な方へ楽な方へとずるずる流れていく。


「――召」


 大した迷いもなく、終わらせための言葉を口にしようとした。


「話は聞かせてもらった。後は俺っちたちに任せな」


「元々、こいつを封印するつもりはないんでな……。ここで葬る……」


 現れたのは、ルーカスとベクターの二人。


 王霊守護符はルーカスに奪われ、前に立っている。


 感情が追いつかない。頭の中が渦巻いて理解が及んでない。


 止める理由はいくらでも浮かんでくる。無駄だと声をかけてあげたい。


「……お願い」


 サーラは、思考に反して、二人に後を託す。


 これで未来が変わることを、ささやかに願いながら。


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