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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第80話 可愛がり

挿絵(By みてみん)




 第四小教区。王墓所。


 金装飾の棺桶が最奥にある。


 周囲一帯に他者の墓石は見えない。


 普通の墓地とは一線を画する特別な空間。 


 祀られる人物の権威の象徴であり、神聖な領域。


 そこでは、罰当たりな幾多の鈍い音が鳴り響いていた。


「――これならっ!」


 サーラは一歩踏み込み、右拳を勢いよく放つ。


 手の甲は下を向き、敵の腹部をえぐるように迫った。


「……無駄無駄。それじゃあ何万回やっても意味ないよ」


 マーリンは余裕をもって、白い杖で受け止める。


 ここまで体術勝負が繰り返されるも、進展はない。


 相手の体に薄っすら纏われるセンスは、氷山の一角。


 問題は体の内。潜在センス量を攻略しないといけない。


(内側をへし折る気持ちで打ったんだけど、駄目か……。この感じだと、どの部位を狙っても、厳しそう。純粋な殴り合いじゃなくて、もっと別の何か。表面的な部分というより、内面的な部分を攻めないといけないのかな)


 サーラは今までの結果を見て、分析を重ねる。


 収穫は、外側への攻撃が無意味と分かったこと。


 逆説的に考えれば、次の狙いは自ずと内側になる。


(肉体じゃなく、精神……。そうか、あの手なら)


 頭の中で要約すると、ふと頭に浮かぶ。


 仮説に過ぎないけど、試す価値はあった。


 息を吸って、肺に空気を送り、準備は万端。


 こいつに勝つためなら、恥なんか捨ててやる。


「バカ! アホ! 間抜け! 根暗! 唐変木! おたんこなす! 王位継承戦なんてもの主催して何が楽しいの? 子供たちが苦しんでるところを眺めてるだけなんて、精神歪み過ぎ。可哀そうとか、怪我させたらどうしようとか、自分がもし参加者だったらとか、相手に寄り添える心はないわけ? それってある意味、病気だよ。病状を教えてあげようか? 反社会性パーソナリティ障害。通称ソシオパス。自分の快楽や利益を第一に考えて、他人が持つ権利を尊重しようともせず、踏みにじって楽しめるやつのこと。おめでとう! 完全一致だね!! 一生、誰にも迷惑をかけず、分霊室で引き籠ってたら良かったのに!!!」


 サーラが選んだのは言葉責め。


 肉体が駄目なら、精神を責め立てる。


 そんな単純な発想から生まれた手段だった。


(効くとは思ってないけど、何かのきっかけになるかな)


 効果がある確証なんかない。


 探り探りの中、試した手の一つ。


 正直、そこまで期待はできなかった。


「ソシオパスはひどいなぁ。いくら僕でも傷つくよ」


 しかし、マーリンは落ち込んだ様子で語る。


 表情はどんよりと曇り、眉をややひそめている。


(……え、効いた? いやいや、演技の可能性もある。ここは慎重にいかないと)


 ある意味で予期しない展開。


 ただ、体術よりは手応えがある。


 一歩前進と言っていいかもしれない。

 

「事実でしょ。子供をいじめて何になんの。体罰で厳しく躾けられた方が人格が引き締まって、良い大人にでもなると思ってるわけ? 王子は全員未成年なんだよ? 社会に出る前に、こんな後ろ暗いイベントに参加させられたらトラウマになるわ! 将来、良い影響は及ぼさないだろうし、人格はこれを機に絶対歪んでいく。王位継承戦ならぬ、ソシオパス継承戦だね。そうなったら責任持てんの?」


 サーラは事実を元に悪態をついていく。


 論点は、マーリンの度を越した可愛がり。


 言うなれば、子育て方針の全面否定だった。 


「………………なるほど。そういう発想もあったのか」


 対する相手は、変に納得している。


 傷ついているというより、感心に近い。


(あー、駄目だ。まともに接してたら、心が腐る)


 相手は道徳心も共感性も欠如している。


 彼の判断基準は、損をするか、得をするか。


 間違いを指摘したところで、大して効果はない。


 むしろ、利益に繋がることを見いだされた気がした。


(……仕方ない。どうせ通用しないだろうけど、試すしかないか)


 言葉責めに見切りをつけ、次のプランを考える。


 今までの挙動を考えれば、成功する確率は極めて低い。


 ただ、万が一にでも当たりさえすれば、一気に攻略へ近づく。


「もういいや。話してても埒が明かない」


 サーラは右手を前に突き出して、構える。


 バレバレの戦闘態勢。敵はこちらを見ている。

 

 それでも、センスを右手に集中させ、言い放った。


「――空触是色」


 放たれるのは言霊と、白い無数の右手。


 対象に触れることで、相手の詳細を知る能力。


 身長、体重、血圧、能力、資質など幅広く知れる。


 中でも特筆すべきなのは、過去の記憶を読み取れること。


 触れることさえできれば、突破口を見つけられる可能性は高い。


「そんな三流能力が通用するとでも?」


 ただ、マーリンは能力の弱点を見抜く。


 白い杖を振りかざし、迫る手を撃退していた。


(はいはい。潰されて終わり。ワロスワロス)


 あの手は、パオロでも潰せるほどの強度。


 彼も決して弱くはないけど、マーリンの方が格上。


 そんな相手に真っ向から放って、通用するわけがなかった。


(これも駄目なら、次の手を考えないとか……)


 成功を得るためには、失敗が付き物。


 頭では分かってても、気が滅入ってくる。


「なんてね。そいつの能力は一流だよ。当たりさえすればね……」


 しかし、マーリンはニヤリと笑い、両手を上げた。


(はぁ……? ちょ、ちょっと待って、何考えてんの?)


 予期せず訪れてしまった、好機。


 残る最後の白手が、無防備な敵へと迫る。


 手放しに喜べるわけもなく、不安が勝ってしまう。

 

 今なら止められるけど、止めたくない気持ちも正直あった。


(あぁ、もう! 見せるつもりなら、隅々まで覗いてやる!)

 

 サーラは無理やり自分を納得させる。


 白い手を操って、自分の意思で選択する。


「いってらっしゃい。戻ってこれるといいね」


 マーリンは不穏な言葉を残し、手は体を通過した。


 後戻りできない回想の始まり。敵を知るための時間旅行。

 

「――――ッッ!!!!!」


 そうして、サーラの脳内には、相手の膨大な過去が流れ込んだ。

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