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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第78話 嘘

挿絵(By みてみん)




 打ったのは、あてずっぽうの左拳。


 ルーカス戦の経験を踏まえた、直感。


 読みは的中。位置はドンピシャだった。


 だけど、速さは相手が上で間に合わない。


 爪が両腕に食い込み、赤い血が生じている。


 痛くはなかった。痛さを感じなくなっていた。


 気にすべき問題ではあった。でも、今じゃない。


 それよりも、気にしないといけない問題があった。


「私は君の元弁護人だ。……あの時は、すまなかった」


 ガルムは動きを止めて、語り出した。


 短い言葉だったけど、すぐに理解できた。


(ガルム・アンダーソン……)


 狼男と元弁護士の名前が一緒だった。


 名前を聞いた時は、偶然だと切り捨てた。


 彼は足が不自由だった。想像がつかなかった。


(なんで、もっと早く言ってくれなかったんだ……っ!)


 彼と過ごした期間は約6か月。


 決して、短いとは言えない時間だ。


 だからこそ、こいつは止めてやらない。


「……っっ!!」


 ジェノは自らの意思で左拳を振り抜いた。


 捉えたのは、ガルムの頬。体はズシンと沈む。


 白銀の手甲。その左手が有する能力は、重力操作。


 対象に拳を当てるという条件付きで、能力は発動した。


 推定数十倍ほどの重力が、ガルムの体に襲いかかっている。


(嘘つきばっかりだ……。マルタもガルムもリーチェも……っ!)


 悲運にも重なるのは、嘘の連鎖。


 隠しておきかったのは、理解できる。


 誰だって、自分の汚点を晒したくはない。


 理由は色々あるけど、面目を保つのが大半だ。


(ちゃんと最初から話してくれれば、全部、許していたはずのに……)


 だからこそ、言って欲しかった。


 信用して、初めから言って欲しかった。


「…………ッッ」


 その思いも虚しく、元弁護人は屋根を突き破り、落ちていく。


 殺すつもりはない。加減して打ったから、きっと助かるはずだ。


 ただ、すぐには戻って来れない。それぐらいの感覚で力を使った。


「その力……。益々、欲しくなってくるねぇ」


 一部始終を見ていたのは、マルタだった。


 体には、薄っすら紫色のセンスを纏っている。


 何がなんでも力尽くで手に入れる。そんな印象だ。


 肩にかけた大弓を構え、一本の矢を番えて、弦を引く。


(基本は遠距離。戦闘スタイルは変わらないか)


 弓と矢を使うのは、パメラだった時の情報。


 マルタがどのような戦闘スタイルなのかは不明。


 ただ、少なくとも現段階では遠距離で貫くみたいだ。


(だったら、接近戦でケリをつける)


 プランを脳内で組み立て、両手の手甲を構える。


 内容は至ってシンプルだ。余計なことは一切考えない。


「あげませんよ。欲しいなら無理やり奪い取ってみたらどうです?」


 ジェノは態勢を整えた上で、挑発を飛ばす。


 今さら謝ったところで、もう相容れることはない。


 相手の底は全く見えてないけど、ここは徹底抗戦一択だ。


「あぁ、そうさせてもらうよ。怪我しても文句言うんじゃないよ!」 


 マルタは挑発に応えるように、十分に引き絞られた矢が放たれた。


 ◇◇◇


 第四小教区。時計塔広場。


 辺りに満ちたのは、黄金色の光。


 展開されていた影が、解除されていく。 


 発動したのは、正常の魔眼。異常を正す能力。


 効果範囲は、ソフィアの半径20メートル程度に及ぶ。


 判定は彼女の主観的判断を天秤として、無差別に修正する。


 能力を全て無効にするわけではなく、自然な状態に戻すが正しい。


 現実との乖離が基準。だけど、彼女の主観がズレた場合、適用されない。


「……」


 リーチェは警戒し、周囲を見る。


 真っ先に目線を送ったのは、メリッサ。


 再会した中で、違和感が最も大きかった相手。


 彼女に異常があったなら、反応を見れば大体分かる。


「あぁ……なるほど。そういう能力っすか」


 肝心のメリッサの反応は、グレーだった。


 魔眼の能力のことか、もしくは別の能力か。


 操られていたかどうかは判断がつかない状況。


「今ので洗脳は解けた? 私に恨みはないはずでしょ」


 すかさず、リーチェは踏み込んだ質問をする。


 話を掘り下げる以外に、今は確認する手段がない。


 どちらに転ぶのだとしても、結果を知る必要があった。


「あんたに恨みはないっすよ。……ただ」


 メリッサは不穏な空気を醸しながら、語り出す。


 異常は認めた。でも、洗脳の件は肯定も否定もしてない。

 

「ただ?」


 リーチェは静かに聞き返す。


 恐らくだけど、次の返答で分かる。


 彼女とこの場で戦うかどうかが確定する。


「そのまま死んでくれるとありがたいっす」


 発したのは、敵意のある言葉。


 それにしては、他人事のような反応。


 戦う気はないけど、死んで欲しいって印象。


(たぶん洗脳は解けた。その上で出てきた言葉。でも、これって……)


 反転の魔眼のことを考えれば、言い分は分かる。


 事象を書き換える存在は、綿密な計画を台無しにする。


 恨みがなくとも、不穏分子は消えて欲しいと言う意味のはず。


「――」


 その時、背後から濃い殺気が生じた。


 思考を回したせいで判断が数瞬、遅れる。


(洗脳を解いたことで、元の因縁に戻った。恐らく、相手は……ラウラ)


 相手を予想しつつ、振り返り、確認する。


 少し後手に回ったけど、今からでも対処できる。


「――」


「――」


 ガキンという甲高い音が鳴り響く。

 

 衝突したのは、刃と刃。刀と裁ちばさみ。


 競り合うのは、婦警と身を呈するラウラだった。


(なんで……私は彼女の父親を殺したのよ……)


 親を殺され、恨み、復讐に走る。


 彼女にはそれを行う権利が十分あった。


 ――それなのに。


「お前に恨みはもうねぇよ。これでチャラだからな」


 その瞳に曇りはなく、真っすぐ前を向いている。


 彼女の親を殺した。その罪が一つ浄化された気がした。

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