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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第75話 reborn

挿絵(By みてみん)




 第四小教区。分霊室の果て。王墓所。


 墓石がひしめく場所で、対するのは二人。


 一方が拳を放ち、もう一方は杖で受け止める。


 閃光がほとばしり、密着の状態で互いは睨み合う。


「――」


「――」


 サーラとマーリンの衝突。センスの拮抗。


 技や魔術ではなく、意思の強さの押し付け合い。


(体術で押し切れるほど、簡単じゃないか……)

 

 本来の目的は、マーリンの封印。


 王霊守護符を用い、棺の中で眠らせる。


 それを行えたものがイギリスの国王になれる。


 ただ、サーラは守護霊に頼らず、葬るつもりだった。


 封印ではなく除霊。初代王の消滅と継承戦の破綻を望んだ。


(でも、わたしより、センスが少ないのに、どうして……)


 相手が手強いのは分かっていた。


 だって、相手は分霊室を支配する存在。


 ここにいる悪霊たちより、相対的に強いはず。


 その前提の上で気になったのは、センス量の少なさ。


 体の表面だけを覆ったような、微弱な光。薄紅色のセンス。


 見るからにしょぼいのに、巨大な樹木を殴っている感覚があった。


「どうして、そんなセンス量で受けられるのかって顔だね」


 マーリンは、心を見透かすように語る。


 目を丸くして、驚くようなことでもなかった。


 能力のない人間でも出来ること。表情を読んだだけ。


 いや、心が読めても、驚きはない。できてもおかしくない。


「どうせ手品でしょ。亡霊が上から目線で語らないで!」


 サーラは拳を弾いて、距離を取る。


 問題は全く押し切れる気がしないこと。


 恐らく、何かしらの能力を行使してるはず。


(力関係の逆転か、威力を弱める魔術か。いずれにせよ、めんどくさい……)


 怒り狂っただけで勝てる相手なら苦労しない。


 表面は激情を振る舞うも、内面は冷静に頭を回す。


 能力を見抜き、攻略する。それがセンスの戦闘の基本。


 戦闘経験は浅いけど、それぐらいはさすがに分かっていた。


「センスには体外に放出する顕在量と、体内に備わる潜在量の二種類が存在する。能力だと思ってるようだけど、目に見える顕在量だけが全てじゃない。僕の言いたいことは分かるね?」


 マーリンは聞く耳を持たず、上から目線で語り続ける。


 話を聞かない。知識をひけらかす。肝心の答えを言わない。


 何もかもが鼻につく。少し長く生きてるだけのクセに、生意気。


(敵の言葉を真に受けるなら、外見じゃなくて、中身。潜在量が半端じゃないって感じか。……確かに、樹の強度は表面の皮じゃなく、内面に位置する幹に依存する。皮が薄く見えても、幹が頑強なら、大抵の攻撃は耐えられる)


 サーラは、敵を警戒しつつ、頭を回す。


 ムカつくとはいっても、考察の材料にはなる。


 真偽は不明だったけど、納得できる理由ではあった。


(問題は、分かったところでどうにもならないってとこなんだよな。目に見えない巨大樹が目の前にあるってだけ。大きさも規模も分からなければ、なぎ倒す有効手段もないときた。……いや、あるにはあるけど、出来れば使いたくない)


 思考を重ね、頭に浮かんだのは王霊守護符の存在。


 あれには一度、殺された。それはなんとなく覚えてる。


 なんとか生き返ったみたいだけど、その力の出所は未知数。


 理解が及ばない力に頼るより、自分の力でどうにかしたかった。

 

「格下相手にマウントを取って、楽しい? こっちは反吐が出そうなんですけど」


 ひとまず会話を転がし、時間を稼ぐ。


 敵が仕掛けてこないなら、攻略法を探す。


 そのためにも、場を繋げるのが効率的だった。

  

「楽しいよ。今の情報を元に攻略してくれたら、もっと楽しい」


 マーリンは白い杖を構え直し、言い放つ。


 今度は、向こうから仕掛ける気満々のご様子。


 能力以前に、まずは体術で勝ってみろって感じだ。

 

 裏を返せば、今の実力でも攻略できるのかもしれない。


(あぁ、胸糞だし、腹立つけど、ちょっとだけ燃えてきた……)


 サーラは意図を読み取って、拳を構える。


 今はがむしゃらに手を動かして、答えを探る。


 泥臭いやり方だけど、それ以外に手段はなかった。


 ◇◇◇


 第三回廊区。屍天城。屋根上。


 赤い三日月の下で瓦を踏む音が響く。


 矢が飛び交い、爪が煌めき、拳が放たれる。


「――くっ」


 宙には、微量の赤い血液が飛び散っている。


 ジェノの左腕は、ガルムの爪に軽く切り裂かれる。


 たまらず距離を取ると、立っていた瓦に矢が食い込んだ。


(二対一はさすがに厳しいな。何か手を打たないとこのままじゃ……)


 近距離はガルムの爪。中遠距離はマルタの矢。


 人数で不利な上に、隙が見当たらない完璧な連携。


 相手の目的が生け捕りじゃなかったら、殺されていた。


 少なくとも今のままじゃ勝てない。それぐらいの練度の差。


(既存の戦術に頼るか、新しい戦術に挑戦するか……)


 ジェノは懐に手を伸ばす。


 体術だけでは勝てないのは確か。


 どう考えても武器に頼るしかない状況。


 問題は、どれをどういう組み合わせで使うか。


「……」


 取り出したのは、〝悪魔の右手〟と木彫りの脇差。


 ジェノは脇差を鞘走らせ、白い刀身を露わにしていく。


(アザミさん。俺に力を貸してください)


 邪遺物イヴィル神授刀カムイランケタム』。


 帝国出身のアザミの所持品。


 北海道で伝承される儀礼用の刀剣。


 刃は鈍らながら、魔族に特攻を持つ代物。


 適性試験で譲り受けて、肌身離さず持っていた。

 

 今までは使う機会がなかったけど、今が使いどころだ。


「見知った武器に、見知らぬ武器か。使うのは勝手だけど、血は足りるのかい?」


 マルタは戻ってきた矢をキャッチしつつ、冷静に指摘する。


 〝悪魔の右手〟の物質分解能力を使用するには、血が必要だ。


 一回あたりおおよそ200CCの血液を使用し、三回ぐらい使った。


 加えて、斧や爪や剣で出血しまくって、一度死んでしまっている。


 安全ボーダーは1200CC。六回分相当だけど、次使える保証はない。


 そんなものは言われる前から分かっていた。承知した上での選択だ。


「恐らく、足りないでしょうね。……だから、こうします!」


 ジェノが試すのは、一か八かの賭け。


 退魔の小刀を、悪魔の小手に突き刺した。


 矛盾した二つの力。相容れるはずのない能力。


 小刀は小手を浄化して、小手は小刀を蝕んでいく。


 失敗すれば、両方が反発し合って終わる。武器を失う。


 ただ、狙いは反発の後。その先にある可能性に賭けていた。


「…………」 


 ジェノの両手には白い煙が生じている。


 煙が邪魔で、目で感じ取ることはできない。


 だけど、伝わってくる。手に取るように分かる。


(成った……)


 悪魔の力と退魔の力の融合。


 相反する二つの力を備えた武器。


 イメージの中にあった、最強の異能。


 物理の法則に反し、両腕に装着される物。


「そいつは白き神の……いや、白銀の手甲……っ!!」


 マルタは声を大にして、名をつける。


 白銀の鎧。その力の一部はここで生まれた。

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