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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第74話 異常か正常か

挿絵(By みてみん)




 第四小教区。中央に位置する時計塔広場。


 塔は砕け、白い霧は晴れ、視線が一点に集まる。


 南方から現れたのは、リーチェとエミリアの姿だった。


「……リーちん、復活したのっ!!?」


 真っ先に反応を示したのは、見知った顔。


 組織に属する代理者。ソフィア・ヴァレンタイン。


 組織内でもトップクラスの実力者。


 フィジカルと機転の良さと意思の力の精度。


 どれをとっても比類ない。


 その中でも特筆すべきは、彼女の左目にあるもの。


(正常の魔眼。いまだ顕在のようね)


 あらゆる能力や性質を、正常の状態に戻す。


 異能も魔術も魔法も奇跡も彼女には通用しない。


 半強制的に、フィジカル勝負へ移行される形になる。


(それより問題は、彼女以外の他の陣営……)


 リーチェは返事をせずに、辺りを見る。

  

 見知った顔もいれば、見知らぬ人もいる。

 

 顔色を見る限り、歓迎ムードではなかった。


 確かに、こっちは王位継承戦には不要な存在。


 敵対されても、文句は言えない。ただの邪魔者。


 状況は十分理解できるけど、妙に違和感があった。


(見知らぬ人に疎まれるのは分かる。でも、見知った人にここまで……)


 そこまで考えると、空気が変わった。


 重くのしかかってくるような、殺意の念。


「……まさか、こんなところで仇敵に出会うとは思わなかったっすね」


 中でも、特に濃い感情を向けてくる女性がいた。


 黒のバニースーツが良く似合う元死刑囚。メリッサ。


 他人では済まない関係性。因縁があるのは、理解できる。


 彼女とは一度、本気で殺し合った仲。恨まれても仕方がない。


(何か、おかしい……)


 今は確信に至れるほどの根拠と自信はない。


 ただ、胸の内の違和感はさらに膨れ上がっていた。


「温かい歓迎をどうも。再開のハグでもする?」


 リーチェは皮肉を飛ばし、様子を見る。


 冗談なのか本気なのかは、どのみち次で分かる。


「燦爛と輝く命の煌めきよ、幽々たる深淵に覆われ、虚空の闇へと堕ちよ」


 その期待に応えるようにメリッサは詠唱を果たす。


 聖遺物レリックの起動。両手に纏われるのは、白と黒の布手袋。


 左手を地面に置き、暗闇より色濃い影が時計塔を包み込む。


「死の抱擁なんてのは、いかがっすか」


 そして、決定的となる台詞を吐き捨て、敵対するのが確定した。


(洗脳……心情変化……記憶の改ざん……。どれもしっくりこない)


 戦わざるを得ない状況になったのは分かる。


 ただ、脳内は生じた疑問の解決を優先していた。


(恨みを買うような出会いじゃなかったはず、なんだけどな……)


 元々、メリッサは標的の一人だった。


 彼女の死を偽装し、見逃したのが、出会い。


 殺し合うのは演技。それは結果で理解できたはず。


 実際に、彼女は生きている。恨まれるような覚えはない。


「最高ね。望むところよ」


 考えがまとまらないまま、リーチェは構える。


 相手の真偽は不明。戦いながら、考えるしかない。


「お客様。案内中の妨害は……」


 そこで口を挟むのは、エミリアだった。


 彼女なら、能力も条件も無視して勝てる。


 戦わずして、先に進むことが可能ではある。


「これはただのスキンシップよ。旅先での交流も妨害する気?」


 だけど、そういうわけにはいかない。


 断れない理由を提示して、納得させる。


「承知しました。……ですが、危機が迫れば、その時は」


 ひとまずエミリアは納得し、引き下がる。


 これで邪魔は入らない。一対一に集中できる。


 そのやり取りの中で、メリッサの真意を見定める。


「待たせたわね。空気を読んでくれてありがとう。いつでもどうぞ」


 リーチェは相手に感謝を述べ、先手を譲る。


 お膳立ては終わった。後は本番を迎えるだけ。


「じゃあ、まずはオードブルから……いかせてもらうっすよ!」


 メリッサは威勢よく、右手を振り下ろす。

 

 白手袋の指先から生じたのは、白い五本の糸。


 肉を縦に切り裂くように放たれた、殺意ある一撃。


(加減した様子はない。実力を信頼してるのか、それとも……)


 思考を巡らせながら、リーチェは踏み込む。


 白い糸の攻撃をかいくぐり、相手の懐にまで迫る。


 至近距離。この距離だったら、回転を利かせた拳が届く。


「――」


「――」


 リーチェは拳。メリッサは糸。


 互いに得意とするもので、歓迎する。


 少なくともこれで、殺意があるかが分かる。


「こいつは僕の恩人だ。……その辺にしとけ」


 そこで聞こえたのは、渦中の外にいた人の声。


 間に入ってくるとは、とても考えられない人物。


 手には裁ちばさみを持ち、メリッサの首に当てる。


(ラウラ・ルチアーノ……)


 予想外の人物に、足が止まる。


 彼女とは、少しばかり因縁がある。


 どう考えても味方になる間柄じゃない。


 それなのに、明らかに加勢してくれていた。


(思った以上にややこしいことになっているようね。……でも)


 メリッサは両手を上げて、場は膠着状態。


 ただ、複雑化した因縁を読み解けば、何か分かる。


 ――そう思った時。


「ふーん。よく分からないけど異常だね。正常に戻すよ!」


 現れたのは、傍観していたソフィア。


 左目が輝くと、影の空間は黄金色に染まった。

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