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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第73話 目的

挿絵(By みてみん)





 

 約一週間前。地下世界。黒龍の巣。最下層。


 谷底のさらに下には巨大なクレーターがあった。


 至るところに穴が作られ、魔物の洞窟が形成される。


 その洞窟の行き着く先の先。穴の底に位置している場所。


 そこでは、人と黒龍との御前試合が行われ、人側が勝利した。


「あの、マルタさん……。いくつか質問があるんですけどいいですか?」


 勝者であるジェノは、問いかける。


 目の前には、御前試合を見届けた人。

 

 灰色の着物を着て、長く白い髪の女性。


 聖女マルタ。彼女は、そう名乗っていた。


「別に構わないけど、少し待っとくれ」


 マルタは返事をしながら、倒れた黒龍の元へ駆け寄る。


 そうして、懐から取り出したのは、黒い鉱石。黒鋼だった。


(……なんに使うんだ? ただの貴重な石、だよな?)


 あれは御前試合で勝ち取った景品と同じもの。


 前情報では、世界最硬を誇る鉱物と言われている。


 ここでしか採れないものらしく、それ以上は知らない。


「天地開闢を遂げし、創世の主よ。我に力を与え給え」

 

 すると、マルタは黒龍の頭に鉱石を当て、呪文を唱える。


 黒龍は度重なる頭部への攻撃を受けて、ようやく気絶した。


 それぐらいの威力と衝撃があった。脳に損傷が出るレベルだ。


 治そうとしているみたいだけど、まじない程度じゃ無理なはず。


「――――ウゥゥ」


 しかし、低く唸るような声と共に、黒龍は起き上がる。


 軽く頭を振って、何事もなかったように立ち上がっている。


(あれは……ただの鉱石じゃない。魔術的な触媒でもあったのか)


 一目見て分かるほどの、異常な回復力。


 あれは、マルタ本人が持つ能力じゃない。


 意思の力で、物質が秘める力を引き出した。


 いわゆる魔術。家電に電気を通すようなもの。


 例えるなら、外付けのハードディスクに似てる。


 鉱石にある情報を読み解いて、通電させた感じだ。


 内臓された脳の容量を消費せずに、力を行使できる。


 読み解く技術はいるけど、訓練すれば、できるはずだ。


「それで、聞きたいことってのはなんだい?」


 起き上がる黒龍の頭を撫でて、マルタは尋ねる。


 本題は魔術じゃない。知ったところで意味はない。


 それよりも、ここでハッキリさせたいことがあった。


「あなたとよく似た人物に、俺は会ったことがあります。名前も同じ、着ている服も同じ、喋り方も同じ。容姿や年齢はあなたの方が若そうだけど、とても他人には思えません。何か心当たりはありませんか?」


 色々と質問は考えたけど、これが一番適切だ。


 だって、マルタと聖女マルタは同じに見えない。


 別人の前提で話を進めた方が、手っ取り早かった。


「なるほどねぇ。それで、あんたの反応がぎこちなかったのか」


 マルタは得心がいったように、何度も頷いている。


 声に出した覚えはないけど、表情で読み取られたみたいだ。


「……」


 別に驚くようなことじゃなかった。


 それは、よく知るマルタでもできたこと。


 それよりも、気になるのはこの後に出る台詞だ。


「そいつはきっと……未来のあたいだよ」


 語られたのは、分かるようで分からない話。


 そこからは、何を聞いても答えてくれなかった。


 ◇◇◇


 第三回廊区。屍天城。屋根上。


 継承戦を経た、今ならよく分かる。


 分からなかったことが今は理解できる。


「マルタおばさんは霊体だった……」


 ジェノは認めたくなかった真実を口にする。


 実際に、霊体は知っている人を参考にしていた。


 実在した人間の未来の姿だったのは、この目で見た。


 聖女マルタの発言が、今になって繋がってしまったんだ。


「だろうね。霊体を操る初代王が絡んでるのは、ほぼ間違いない」


 当然のように、マルタは語り出す。


 恐らく、知った上でここに乗り込んだ。


 いや、彼女の興味が継承戦までこぎつけた。


「そうか……。あなたの目的は、未来の自分を呼び寄せた相手の威力偵察」


 ジェノは提示された情報を元に、答えを出す。


 彼女が地下世界で、何を企んでいたかは知らない。


 ただ、未来の自分となれば、脅威に感じたはずなんだ。


 だから、見に来た。最前線で確認するため、王子に化けた。


「まぁ、半分はそうだね。もう半分は、白き神を宿したあんただよ」


 マルタは聞かれたことに付け加え、答える。

 

 恐らく、威力偵察に来たら、思わぬ収穫があった。


 だから、威力偵察をしつつ、面倒も見てくれていたんだ。

 

「……」


 今までの言動から、嘘じゃないことは分かる。


 パメラの目的ではないけど、マルタの目的だった。


 ただそれだけ。中身が違っても、方向性に変化はない。


「どうする? こっちにつくなら、悪いようにはしないよ」

 

 沈黙に対し、マルタは選択を迫ってくる。


 猜疑心を見抜いての対応。断れば、戦闘だ。


(どうする……。俺の症状を任せられるのは彼女たちしか……)


 こっちは、いつ正気を失うか分からない状態。


 中身が違っても、勝手を知ってる相手なのは確か。


 白き神の堕天に協力してくれる関係も変わらないはず。


 それに、体の秘密や白き神について、色々と教えてくれた。


 こっちがまだ知らない情報を、提供してくれる可能性もあった。


「――早まった考えは、おやめください」


 次にガルムは、引き止めるように語りかけた。


 彼には、ルーカス戦で一度助けられた恩義がある。


 借りはまだ返せてないし、腕っぷしも人並外れて強い。


 仲間でいた方がいいのは分かってる。誰よりも理解してる。


「……あなたたちを信用できません。残念ながら、ここでお別れです」


 だけど、この人たちは、初めから嘘をついていた。


 敵対するには、拳を構えるには十分すぎる理由だった。

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