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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第71話 胸の内

挿絵(By みてみん)




 王墓所を包む白い霧は、次第に晴れていく。

 

 目の前には、胴体を切断された男の霊体がいる。


 出所不明の攻撃から守ってくれた、未来の兄がいる。


 すぐに駆けつけた。敵なのに、身体は勝手に動いていた。


「かは……っ。霊体でも……痛いものは、痛いですね……」


 まだ息があった。言葉を発していた。


 吐血をして、人間のような反応をしていた。


 もう助からない。後は消えるのを待つだけの状態。


「……なんで、かばったの?」


 その上で、サーラは聞いた。


 疑念を解消するためだけの質問。


 自分勝手な行為だって、分かってる。


 それでも彼の口から聞いておきたかった。


「制限時間は、白い霧が晴れるまで、でしたよね……」


 兄が苦しそうに語るのは、ルール。


 組手をする際に指定した、タイムリミット。


 言ってることは分かる。だけど、説明になってない。


「だから? 敵をかばう理由にはならない」


 兄に残された時間は少ない。


 尋問するように、言葉を重ねていく。


 感情のままに、本能のままに、真相を求める。

 

(こんなこと聞いてどうするの……。もし、感情移入してしまったら……)


 その一方で、理性が知るのを拒んでいた。


 未来の兄が、記憶を消した目的を知るのは大事。


 でも、助けた理由は大事じゃない。どうでもいいこと。


 内容次第では、今後の生き方を変えてしまう危険性があった。


「家族だから……。それ以上の説明が必要ですか?」


 返ってきたのは、ありきたりな反応。


 予想の範疇だったし、なんの捻りもない。


 しかも、そもそも、家族としての記憶がない。


 一方的な感情の押し付け。こんな言葉は響かない。


 だからこそ、どうしても言ってやりたいことがあった。


「じゃあ、なんで、娼館でわたしを殺そうとしたの!!!」


 敵として抱いた印象が、あまりに悪すぎる。


 何を言われたところで、後付けにしか感じない。


 記憶を消した以前に、こいつには一度殺されかけた。


 それがサーラとしての初対面。今ので許せるわけがない。


「まったく……。困ったものですね……。こっちは死に体だと言うのに……」


 すると、兄の体が光となって消えていく。

 

 時間がない。タイムリミットが近づいていた。

 

 このままこの世を去っていくつもりかもしれない。


「早く、答えて!」


 もっと他に知りたいことがあったはず。


 それなのに、貴重な時間を浪費して迫った。


 取るに足らない疑問の解決を最優先にしていた。


「因縁を作り……ここに導くため……。殺す気はなかった……」


 兄は、端的に理由を説明していく。


 確かに、あれが一つのきっかけにはなった。


 あの事件がなければ、一生地下にいたかもしれない。


「じゃあ、その先は……っ! わたしに何を求めてるの……っ!!」


 だとしても、納得できない。


 そこまでする理由が見えてこない。


 未来からわざわざ来た目的には繋がらない。


「一国の王、ではなく……。世界を統べる王……。そこを目指しなさい」


 兄が見据えていたのは、継承戦よりもさらに先のこと。

 

 一つスケールが上がった段階。現在では存在しない概念。


 恐らく、未来で起こるイベント。今の延長線上にある事柄。


「なにそれ……。それが、大いなる目的ってやつ……?」


 心は不思議と落ち着きを取り戻しつつあった。


 兄が敵に回っていたことよりも、興味が勝っていた。


 動機の核心に迫ってる。知りたかったことの一部が分かる。


 今までの立ち居振る舞い。それら全ての辻褄が合う気がしていた。


「いいえ……。私が目指すのはもっと……」


 その口火を切ろうとしている。


 秘めていた胸中を晒そうとしている。


 時間的にもこれが最後。これ以上先はない。


(早く言って……早く……)


 言われてどうするかは問題じゃない。


 単純に知りたい。気になって仕方がない。


「……っっっ」


 しかし、続く言葉はやってこない。

 

 突如現れた白い杖が、兄の頭を貫いた。


 今度こそ即死だった。体は光に変わっていく。


「――駄目だよ。与えられた役割の領分を超えちゃ」


 すると、背後から飄々とした声が聞こえる。


 白い杖が引き寄せられ、主の元へと返っていく。


 肩書きは知っている。すでに名前は墓標で見ている。


 先のことは分からない。でも、少なくとも現在の障害物。


「初代王マーリン……っ!」


 継承戦の親玉。一度は逃げてしまった相手。


 正直言って、あの時は戦う理由も動機もなかった。


 ただ、今はちょっと違う。ほんの少しだけ気が変わった。


「また逃げてもいいけど、どうする? 第五王子」


 マーリンは白い杖を構え、余裕面を見せていた。


 これもどうせ演出。こうなるように仕向けられた。


 敷かれたレールを歩いているだけ。自由意志はない。


「お前はここで祓う! 存在した歴史も、継承戦もこの世から抹消してやる!」


 それでもいい。この憤りをぶつけられるなら、誰だって良かった。

 

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