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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第67話 最後尾

挿絵(By みてみん)




 

 第三回廊区。白い一本廊下に扉が連なる場所。


 第二区画に通じるものも含めれば、全部で十四枚。


 その中でも特に異質な雰囲気を放っていた、正面の扉。


 白い十字架が描かれていたものが、バタンと閉じていった。


「……」


 ジェノは静かにそれを見つめる。


 口を閉ざしたまま、師匠を見送った。


「果たし合い、か……。事情を聞くのは野暮ってもんかね」


 すると、傍観していたパメラは淡々と語り出す。


 話してもいいし、話さなくてもいい。そんな空気感。


 黙っててもいいように、気を遣ってくれているんだろう。


「あの人は、俺の妹に手を出した。理由はそれだけです」


 気遣いに内心で感謝しながら、簡潔な事実を述べた。


 詳しい事情を話す必要はない。これで十分伝わるはずだ。


 黙っておく選択肢もあったけど、話しておいた方が都合がいい。


 むしろ、今後のことを考えれば、共有しておいた方がプラスだった。


「動機は家族愛ってところか。一応、辻褄は合うね」


 そこでパメラは、引っかかるような物言いで反応する。

 

 内容に矛盾があるかどうかを、試されているような感覚。


 こっちが知り得ない何かを基準に、分析されている感じだ。


「茶化すのはやめてください。こっちは、こう見えても真剣なんですから」


 心を見透かされているようで居心地が悪い。


 口論をするつもりはないけど、少しモヤッとした。


「分かってるよ。……で、この後、どうするつもりなんだい?」


 パメラはすぐに話を切り上げ、話題を変える。


 あくまで、主導権はこっちが握っているみたいだ。


(本題はここからだな)

 

 こうなることは、読めていた。

 

 相手の目的は、白き神を支配すること。


 王位継承戦よりも、優先度は高いと踏んでいる。


 こっちは白き神の依り代だから、無視はできないはずだ。


「俺は強くなりたい。継承戦を遠回りしてでも、ここにある全ての扉を攻略して、もっと成長したい。これは、俺の我がままなのは分かってます。だけど、こんな恵まれた機会は滅多にありません。どうか協力してもらえませんか?」


 頭を下げ、ジェノは胸中を打ち明かす。


 このために、言いたくない過去を晒した。


 遠回りしてでも強くなりたい動機を伝えた。


(勝算は五分ってところかな……)


 ただ、パメラのことは分かってないところが多い。


 白き神で何を企んでいるかは不明だし、過去も知らない。


 確実だと思えるのは、遺伝子を操る能力を持ってることぐらい。


 交渉できるカードはあるとは思うけど、成功する確率は未知数だった。


「つまり、あんたの我がままに付き合って、王位は諦めろってことだね」


 パメラは、瞬時に発言の本質を見抜く。


 扉全てを回り、継承戦もきちんと攻略する。


 そんな都合のいい話はない。無理に決まってる。


 先行するパーティがいる以上、破綻する確率は高い。


「否定はしません。ただ、正解を選ぶのが毎回正しいとは限らないんですよね」


 それでもジェノは、相手の言葉を引用し、食い下がる。


 交渉は、互いの要望が釣り合って、初めて成立するもの。


 相手の要望を理解し、提示した上で、やっと対等になれる。


 今は探り探りの状況だけど、答えは会話の中にある気がした。


「急がば回れ……。いや、二兎を追う者は一兎も得ずとも言うね」


 パメラの反応は、どちらともいえなかった。


 良いようにも見えるし、悪いようにも見える。


「二兎を追って、二兎を得る可能性もあるかもしれませんよ」


 王位継承戦の熱量が不明な以上、ここは無理にでも押し切る。


 気休めでも、確率はゼロじゃない。遠回りがプラスに働く可能性もある。


「机上の空論だね。中身がない。こっちが納得できる根拠は示せるかい?」


 一方、パメラは淡々と内容の粗を指摘してくる。


 今の発言だと、相手には刺さらなかったみたいだ。


 主観的ではなく、客観的な情報の提示を求めている。


(これは……悪くない反応だな)


 ただ、収穫がなかったわけじゃない。


 裏を返せば、根拠を示せば納得するということ。


(ハッタリだけど、試してみる価値はあるか)


 ふと頭に浮かんだのは、仮説。


 数多く存在する可能性の中の一つ。


 また中身がないと言われるかもしれない。


「扉はギミック。攻略した数だけ、初代王が弱体化する可能性があります」

 

 それでも、ジェノは思ったことを素直に口にした。


 恥をかくのを怖がって、黙っていたら何も変えられない。

 

 我がままを通すためにも、自分の意見を伝えるのは必須だった。


「仮に事実だとして、先行した陣営の手助けをすることにならないかい?」


「適用されるのが、扉を直接攻略した人だけなら、その恩恵は独占できます」


「仮定に仮定を重ねてくるか……」


「それでも、ちゃんと中身はありますよ」


 やり取りを重ね、遠回りするメリットを提示する。


 腹の探り合いだったけど、ここまでくれば見えてくる。


 継承戦と強くなることの両立。互いにウィンウィンの関係。


「あぁ……分かったよ。ここは継承戦の最後尾。誰も期待していない大穴だ。せっかくだし、観客を沸かせる、ダークホースになってやろうじゃないか!」


 そこで、パメラは納得し、交渉は成立。


 互いの心は一致した状態で、和風の扉に手をかけた。

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