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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第65話 それぞれの戦い

挿絵(By みてみん)




 第四小教区。大小様々な墓石が並んでいる。


 歴史に名を刻んだ支配者や、王家の血筋の墓。


 静謐な空気に満ちて、辺りは白い霧に包まれる。


 目の前には黒いバーテン服を着た男が立っていた。


 恐らく、これから歴史に名を刻むジェノの未来の姿。


 呼び名はいくつもあるけど、しっくりくるものがある。


「どうして、わたしの記憶を消したの? ――お兄ちゃん」


 サーラは、前後関係から辻褄を合わせる。


 定義上は、兄。どの時間軸かは問題じゃない。


 問題は妹だと分かってて、なぜ記憶を消したのか。


 相手に敵意がないなら、真意を探れるいい機会だった。


「そうですね。今は大いなる目的のため、とでも言っておきましょうか」


 すると、兄は煙に巻くように、思惑を語り出す。


 受け取り方によっては、いくらでも解釈可能な表現。


 あまりにも曖昧で、動機の取っ掛かりさえ見えてこない。


「意図があったのは分かってる。知りたいのは具体的な内容なんだけど」


 とにかくここは掘り下げるしかなかった。


 先に進むためにも、見て見ぬ振りはできない。


 話さないなら、実力行使も辞さない覚悟で言った。


「言いたいのは山々ですが、残念ながら言えませんね」


 兄は肩をすくめながら、首を振る。


 向こうから雑談を振っておいて、この対応。


 まともに話すつもりなんてなかったのかもしれない。


(言いたいけど、言えない。何かワケがある……?)


 ただ、妙に発した内容が引っかかる。


 仕掛けるつもりなら、とっくにやってる。


 怒りを買うための挑発にしては、煽りが弱い。


 兄とは全く別の陰謀が絡んでいるような気がした。


「言える範囲が制限されてる……。もしかして、そういう縛り?」


 実力を行使することは、最終手段。


 サーラは、少ない情報を元に考察する。


 相手は、未来の兄であることは間違いない。


 問題は霊体でもあり、呼んだ人が別にいること。


 意思の力が源なら、無条件で高度な霊体は呼べない。


 何かしらの縛りがないと、普通は成立しない能力だった。


「さすがは我が妹。その前提の上で、答えを知りたい場合、どうします?」


 兄は教え導くように、会話を進める。


 そこでようやく、彼の思惑が見えてくる。


 次にやるべきことが、浮き彫りになってくる。


「勝負は組手。先にダウンを取った方が勝ち。時間制限は白い霧が晴れるまで。わたしが勝てば、目的を話す縛りを結んでもらう」


 言えない縛りがあるなら、言わせる縛りもある。


 分が悪く、達成困難な状況だからこそ、成り立つ縛り。


 問題は引き受けるかどうかだけど、答えはきっと決まってる。


「エクセレント。では、勝負を始めましょうか」


 兄は何一つ文句を言わず、期待通りに拳を構えていった。


 ◇◇◇

 

 第四小教区。中央付近。時計塔広場。


 時計塔から現れたのは、六腕六眼の白猿はくえん。 


 霧を操る主であり、倒さないと先に進めない。


 状況を理解した上で、仕掛けたのは刀を握る女性。


「――」


 アミは、上段に構えた刀を振り下ろす。


 上段の打ち込み。示現流における基本の型。


 朝から晩まで倒木に刀を打ち込み、型を覚える。


 型はたった一つだけ。刀技は全て打ち込みから放つ。


 そのせいで動きは読まれやすく、相手に対応されやすい。


 ただし、型が多い流派に比べて、一つだけメリットがあった。


 ――動きに一切の迷いが生まれないこと。


 上段打ち込みというたった一点に特化された斬撃。


 他の選択肢を考える必要がなく、緊張で技が曇ることはない。


「示現流――【如来】」


 そうして、放たれたのは高速の打ち込みの連打。

 

 効率的に計算された刃が、白猿に襲い掛かっていた。


「……」


 しかし、六本の腕を盾に白猿は受け止めきる。


 刃の切り込みは浅く、皮膚の表面を軽く裂いただけ。


(やはり、一筋縄ではいかない相手……)


 普通の人間が相手だったら、六度は殺している。


 この程度で済んでいるのは、頑強な肉体があったから。


 加えて、腕にセンスを展開して、局所的に防御しているせい。

 

(これでこそ、負け甲斐がありますね)


 白猿の反撃を警戒して、アミはすぐさま後退する。


 目的は、他の人に気付かれぬよう自然に敗北すること。


 技を放ち、受けられ、隙が生じ、反撃を食らい、気絶する。


 そんな誰が見ても分かる、明らかな敗北は避けないといけない。


「……無事?」

 

「はい。なんとか」


 広島と合流し、集団戦が始まる。


 後続の両陣営のメンバーが立ち向かう。


「あの皮膚、相当硬そうじゃの」


「ええ。……ですが、私に考えがあります」


 その間に、情報を共有し、作戦を密かに伝える。


 本番はこれから。ここからが八百長の見せ所だった。

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