表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス
63/156

第63話 選択

挿絵(By みてみん)




 第三回廊区。長い一本廊下が続く場所。


 中は妙に明るくて、左右に扉が六枚ずつ。


 正面には、白い十字架が描かれた扉が一枚。


 そこに人の気配はなく、静けさに満ちていた。


 入口の門付近には影が差し、複数の足音が響く。


「扉が十三枚……。この中のどれかが正解、ですかね」


 ジェノは足を止め、素直に思ったことを口にする。


 これはあくまで可能性の一つ。考察材料に過ぎない。


 合ってるかもしれないし、間違っているかもしれない。

 

 だからこそ、ここは議論して、答えを絞る必要があった。


「入り口も含めたら十四枚だね。……どれが本命だと思う?」

 

 応じたのは、隣に立つパメラ。


 内容を付け加えた上で、尋ねてきた。


(そっか。入り口が正解の発想はなかったな……)

  

 ジェノは意見に関心しながら、頭を回す。


 ここは、鏡面世界や地下世界と似たような場所。


 分霊室には主がいて、その心象風景を具現化している。


 恐らくだけど、扉ごとに別の世界に繋がってると考えていい。


 今まで通った場所も、区画ごとに世界観が変わったから間違いない。


(まぁ、選択肢が増えたところで、問題の本質は変わってないか)


 自身の経験則を元に、ジェノは考察を膨らませる。


 なんだかんだ、これまで色々なところを旅してきた。


 そのおかげか、全く見当がつかないってわけじゃない。


(鏡面世界と同じような空間なら、術者の思い入れが強い場所が正解かな)


 思い出すのは、ドイツでの出来事。


 鏡の間で起きた、魔術師ローラとの対決。


 鏡面世界は、年老いた術者本人の理想の具現化。


 若い美貌を保ちたいという欲求が生んだ、空想の世界。


 実際に、鏡面世界の中には若返った状態の術者の分身がいた。


 強い思い入れがないと不可能な芸当だ。力の源は意思の力だからね。


 そこから逆算すれば、この扉の中でも、思い入れが強いものが正解のはず。


(術者の情報が少ないけど、継承戦を仕組んだ人だ。そう考えれば、恐らく……)


 限られた情報の中から、仮説を立て、答えを探る。


 設置されている扉を一通り見て、ジェノは指を差した。


「この扉ですかね」


 そこには、イギリスの国章が描かれた扉。


 王位継承戦と、最も因果関係がありそうなものだ。


「理由は?」


 対して、パメラは慎重に話を掘り下げる。


 当然の疑問だった。思いつきだと話にならない。


 進路の選択は、生死がかかってくる。適当は許されない。


「意思の力は、思いの強さに比例して、力が増します。恐らく、この扉は別世界に通じ、術者の強い思い入れによって能力が成立しているはずですが、その中でも強弱があると思われます。弱い思いで作られた扉が順路とは考えにくいため、思いが最も強いものが正解の道。つまり、王位継承戦の舞台がイギリスであることから、イギリスの国章が描かれた、この扉が正解だと考えます」


 ジェノは、今まで考えたことを整理し、話す。


 直感ではなく、経験に基づき、筋を通した答えだ。

 

 合っているかは不明だけど、それなりに自信があった。


「妥当だし、いい考察だね。ただ、正解を選ぶのが毎回正しいとは限らない」


 パメラは、褒めた上で、話を濁す。


 他に何か案があるような口振りだった。


「禅問答ですか? それなら得意ですよ。なんでも聞いてください」


 意思の力には『禅』という修行法がある。


 問いかけに対し、自分なりの答えを出すものだ。


 そこで自分を掴み、思い入れがあるものを能力に選ぶ。


 これは、意思の力を覚える前から、かなり得意な部類だった。


「……少し聞き方を変えようか。あんた自身が入ってみたい扉はあるかい?」


 パメラは肯定も否定もせず、問いかける。


 これが修行なのかはともかく、興味のある問いだ。


(入ってみたい、か……)


 趣旨が変われば、扉を見る目も変わってくる。


 新鮮な気持ちで、ジェノはもう一度、扉を観察した。


 すると、ふと目に留まり、興味がそそられる場所があった。


「これですかね。理由は……」


 そこは帝国と関係が深そうな扉。


 どうせ、訳を聞かれるに決まってる。


 聞かれる前に、理由を答えようとした時。


「――」


 ガチャリという音と共に、扉が開いた。


 視線は吸い込まれるように、中にいた人物を見る。


 見えたのは、金髪のCAと、黒いロングコート姿の銀髪の少女。


(なんで、ここに……)


 ジェノは一瞬、言葉を失った。


 時間を忘れて、思考に没頭しかけた。


(いや、そうじゃない。そんな場合じゃない……)


 すぐに、愚かな行為だと気付き、やるべきことを思い出す。


 それは、生きていた理由であり、相手をわざわざ復活させた理由。


「リーチェ――ッッッ!!!!!」


 ジェノは叫び、腸が煮え返るような思いを乗せ、拳を振るう。


 望まれなかった結末の成れの果て。八度目の世界改変が及ぼす余波。


 反転されてしまった意識の先で、こうして、二人は運命の再開を果たした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ