表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/156

第61話 五里霧中

挿絵(By みてみん)




 暗い森の中、ゴトンと重たい物が落ちる。


 金の鞘に納まった剣。伸縮性のある紐が備わる。

 

 その柄を握り、抜き放った少年がそこには立っていた。


「剣か……。武術じゃないなら、役に立てるかもな」


 パオロは、赤い刀身を眺めながら、静かに言い放つ。 


 目には疲労感がありながらも、その瞳は死んでいなかった。


 ◇◇◇


 第四小教区。白十字架の扉を抜けた先。


 白一色の建物が複雑に入り組む、石造りの街。


 悪霊ひしめく土地に、足を踏み入れたのは、男二人。


 四方から襲い来る、修道服を着る僧侶の悪霊と戦っていた。


「こいつで、ラスト……」


 ベクターは横蹴りを放ち、悪霊の顔面を捉える。


 断末魔を上げる暇もなく、粒子へと変わっていった。


「……やるねぇ。武術は誰に習ったんだ?」


 一息つき、ルーカスは尋ねる。


 敵の数は二十体程度。戦果は7対3。

 

 称賛と嫉妬が入り混じる顔をしていた。


 思ったような活躍ができず、ご不満の様子。


 負けた明確な理由を探してるといったところか。


 期待に添える師匠の名を上げれば、納得するだろう。


「残念ながら我流だよ……。基本、他人は信用してないからな……」


 ただ、いないものはいない。 


 師がいなかったからこそ、今がある。


 嘘をつけば、自分を否定してしまう気がした。


 だから、正直に話した。自分の価値は下げたくない。


 適当な嘘で相手の期待に応えるよりも、重要なことだった。


「過去になんかあったのか?」


 すると、ルーカスが食いついてきたのは、そうなった理由。


 他人を信用できるのが普通で、信用しないのは普通ではない。


 普通とは逸脱しているからこそ、生じた疑問。少し、面倒だな。


「話してもいいが、継承戦に必要なことか……?」


 体のいい理由を盾に、やり過ごす。


 意味がないことは、極力話したくはない。


 手を組むのは、先へ進む目的が一致したからだ。


 心を洗いざらい話せるような仲になったわけじゃない。

 

「あぁ、忘れてくれ。誰でも話せないことの一つや二つはあるわな」


 ルーカスは納得しつつ、折れる。


 これで不要な会話はなくなるだろう。


 そっちの方が目の前の事柄に集中できる。


 関係性をこれ以上掘り下げる必要はなかった。


「…………」


 しかし、ピタリと足が止まる。


 妙に頭に引っかかることがあった。


「ん? どうかしたか?」


 異変に気付いたルーカスは振り返り、尋ねる。


 気が変わって、雑談に花を咲かせるのを望んでいる。


 そんな印象を声色から感じるが、今はそれどころじゃない。


「同じ道だ……。さっきから一歩も進んでないぞ……」


 辺りには白い霧が満ち、背後には白十字架の扉があった。


 ◇◇◇


 第四小教区。中央付近に位置している場所。


 第一王子と第二王子の連合チームは駆けていた。


 その目の前には、区内にある住居の壁が立ちはだかる。


「はぁ――!」


「もう一枚っ!」


 先頭を走るアミと広島は、斬り刻み、ぶち破る。


 壁は容易く突き破られて、開けた場所にたどり着く。


 白い時計塔がそびえ立つ広場。周囲は広場になっている。


 東西南北。それぞれに通路があるも、白い霧に包まれていた。


「結界の類……。強制エンカウントですか……」


「みんな、ここは突っ切れんよ。背後には気ぃつけんさい!」


 真っ先に声を上げたのは先頭にいる二人。


 滅葬志士所属の臥龍岡アミと、毛利広島だった。


 自ずと緊張感が張り詰め、各々が背後を警戒している。 


「――」


 そんな中、上空から現れた異形がいた。


 六本の腕を持ち、六つの瞳を持った化け物。


 その体は猿のように毛むくじゃらで、毛は白色。


 体躯は三メートル弱。瞳は赤色で、手では印を結ぶ。


(魔族の類ですね。それもかなりの大物。恐らく、霧の発生源……)


 敵の力量を察し、柄を握る手に力がこもる。


 毛が逆立っていくのを感じる。生理的な嫌悪感。


 人ならざるものと対峙し、内に秘められた血が滾る。


(葬りたいのは山々ですが……当たりは強く。後は流れでお願いしますよ)


 アミは内なる衝動を抑えながら、思い、願う。


 目的のための、命を懸けた八百長の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ