第57話 前進
第三回廊区。白く長い廊下が続く。
今までの場所と比べて、やけに明るい。
天井には光る鉱石がはまり、廊下を照らす。
左右と正面には、多種多様な扉が連なっていた。
「時代感が違う扉……。門番を探せってところか……」
中に足を踏み入れたベクターは、考え込む。
今までの傾向から考えて、門番を倒すのは必須。
この中から門番がいる場所を探し当てて、討伐する。
それで、次の場所。第四区画へ進めるようになるはずだ。
「いや……そうとも限らねぇぜ」
隣に立つルーカスは、反対意見を述べた。
視線を落としながらも、顔つきは真剣そのもの。
強気な発言から考えても、期待しても良さそうだった。
「妙案があるなら、ぜひ聞かせてくれ……」
昔なら、他人に判断を仰ぐことはあり得なかった。
ただ、こいつの発言なら信頼できる。聞く価値はある。
出会って数時間にも満たないが、そう思える時を過ごした。
タイマンで勝てなかった実力者に、こいつは勝ったわけだしな。
「俺っちたちは、恐らく後入りだ。戦闘が長引いたからな。すでに、先行した王子たちがいたと踏んでる。それも、実力者揃いだ。すでに第三区の門番を討伐し、攻略していても、おかしくねぇ。……つまり、この中のどれかが当たりだ」
つらつらとルーカスは、思考を述べていく。
十分、あり得る話だ。森林区では連戦が続いた。
混乱に乗じて、先を越されていても不思議じゃない。
鹿の門番を倒したせいで、第二区の門は開いていたしな。
「仮にそうだとして、どう見分ける……。十三分の一だぞ……」
扉は左右正面、合わせて十三枚。
中に入らなければ、確かめようがない。
加えて、広大な別の世界に繋がっていそうだ。
かなり高い確率で、二度手間を踏む可能性があった。
「いや、扉が最初から十三枚だったとは限らねぇ」
神妙な顔つきで、ルーカスは語る。
すでに、目星があるような言い方だった。
「そうか……。門番を倒して、新たに扉が増えた……」
そこまで言われれば、おおよそ察しがつく。
ここは、独創世界と同じようなルールの部屋だ。
条件を満たすことで、扉の数を増やすことも可能。
門番討伐が条件なら、追加されていてもおかしくない。
「あぁ。討伐前は、左右均等の左に6枚、右に6枚の配置が自然」
「つまりは……」
「不自然な正面の扉が順路だ。ここまで苦労した分、楽してやろうぜ」
そこで会話はまとまり、二人の視線は前を向く。
そこには、十字架が描かれた白い扉が見えていた。
◇◇◇
第四小教区。教会を中心に発展した区。
建物が密集し、迷路のように連なっている。
その道中には、白い修道服を着た悪霊が蔓延る。
先手を切ったのは、二人。アルカナ陣営が誇る戦力。
ポリス服を着た紫髪の女性とセーラ服を着た茶髪の女性。
「示現流――【明王】」
「超原子拳――ッッ!!!」
アミと広島による、互いの必殺。
紫炎を纏う斬撃と、赤光を纏う破壊拳。
空気は爆ぜ、建物は砕け、悪霊は一掃される。
余力を残した二人を中心に第四区の攻略は始まった。
「……見事なもんだな。こいつが本家本元ってやつか」
ラウラは二人を褒めつつ、広島を見る。
あの技は、ジェノが使っていた技と同じだった。
帝国で学んだと言っていたし、恐らく、師匠はあいつだ。
「あぁ、あの子と知り合いじゃったか。見比べてどーかいの」
落ち着いた様子で、広島は尋ねた。
同じ技を使う同士なら、比較しやすい。
ジェノの方は何度も見たし、違いは分かる。
弟子との実力差を間接的に計りてぇんだろうな。
「あんたの方が三倍ぐらいすげぇよ。威力も範囲も段違いだ」
ラウラは感じたままのことを述べる。
なんの忖度もねぇ。ありのままの事実だ。
さすがは、ジェノのお師匠様ってところだな。
「……」
しかし、広島は黙り込む。
表情は暗く、下を向いている。
明らかに嬉しくないって印象だった。
「三倍じゃ不服か? 十分だと思うんだがな」
ラウラは念のため、フォローを入れる。
一時的とはいえ、協力関係がある間柄だ。
関係を維持するには、機嫌は取らねぇとな。
「あの子も随分……。いや、気にせんで……」
広島は、含みがある言い方をして、歩みを進める。
訳アリって感じだ。当人同士しか分からねぇんだろうな。
(詮索はしねぇ方が良さそうだ……)
ラウラは空気を読み、そこで会話は終了。
アミと広島が先導し、小教区の果てを目指した。




