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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第54話 それぞれの道

挿絵(By みてみん)




 第一商業区。かつて、大門があった場所の近く。


 奥には暗い森。第二森林区が丸見えになっている。


 そこに、ヒールを鳴らし、颯爽と現れる女性がいた。


「道中の安全は確保されました。参りましょう、リーチェ様」


 エミリアは、呆然と立ち尽くす少女に手を伸ばす。


 仕事を完璧にこなし、清々しい気持ちで客人と接する。


 客室乗務員の端くれとして、一皮むけた。そんな気がした。


「……殺したの?」


 しかし、リーチェから向けられるのは鋭い殺意。


 褒められることはあっても、責められることはない。


 そう予想していただけに、がっかりする気持ちが大きい。


(平常心です。平常心。気が動転なさってるだけ)


 私情を出すようでは、プロ失格。


 目的地まで安全にお客様を案内する。


 今は、それだけを考えていればよかった。


「暴漢は『撃退』致しました。殺してはおりません」


 エミリアは安全を優先し、さらっと嘘をつく。


 右腕を蹴り飛ばし、あの拳に打ち勝ったのは確か。


 ただ、生死をこの目で直接確認したわけではなかった。


 死んでいるかもしれないし、生きているかもしれない状態。


 断言するのは、証拠不十分。とはいえ、確認しに行くのは危険。


 だからこそ、こう言う他なかった。案内できるなら恨まれてもいい。


「はぁ……今は信じてあげる。その代わり、彼が死んでたら、あなたを殺すから」


 リーチェは差し出した手を握り、冷たく告げる。


 あの少年、ジェノとリーチェの関係性は分からない。


 分かるのは、修羅場を二回かいくぐったという事実のみ。


(生きて、帰れるのでしょうか……)


 先行きが不安ながらも、エミリアは職務を全うするため、歩みを進めた。


 ◇◇◇


 第二森林区。北端に位置する場所。


 土を踏みしめ、歩みを進めるのは男二人。


「どういう風の吹き回しだ……? あの少年を殺すんじゃなかったのか……?」


 ふと尋ねたのは、ベクターだった。


 元はと言えば、少年を殺すのを止める。


 そのために戦って、その途中で色々あった。


 謎の霊体の乱入。二人一組で臨んだ、組手遊び。


 それも落ち着いて、元の敵対関係に戻るはずだった。


「気が変わった。口を封じるには、俺っちの荷が重すぎるんでな」


 言葉を受けたルーカスは、毅然とした態度で答える。


 表情は引き締まり、嘘で誤魔化しているようには見えない。


(死線を越えて、変わったか……)


 共に歩みを進めながら、ルーカスの変化を察する。


 付き合い自体は長くない。ただ、一度は拳を交えた仲。


 そこからの差異は感じ取れる。戦う前なら、出ない回答だ。


(いや、変わったのは俺も同じか……)


 相手を分析するも、自分にも当てはまることに気付く。


 タイマンこそが至高。共闘なんてあり得ないと思っていた。


 ただ、今となっては、手を組んでみるのも悪い気はしなかった。


「だったら、ここから先、何のために戦うつもりだ……?」


 その上で、ベクターは質問を重ねる。


 今までは手を組めても、これからは別の話。


 目的が異なるなら、これ以上同行する必要はない。


 相手の回答次第では、道を違える必要も出てくるだろう。


(ここらが潮時、だろうな……)


 今となっては、敵対する展開は考えにくい。


 かといって、この先を同行する理由も乏しい。


 関係の自然消滅。それが一番妥当な結果だろう。


「あぁ、そんなの決まってる」


 ピタリと足を止め、ルーカスは振り返る。


 その挙動から考えて、動機は容易に想像ついた。


(元々あいつはエリーゼ陣営……。敵対するのが道理か……)


 ベクターは考えを整理し、静かに拳を構える。

 

 属する陣営が違う。それだけで、戦う理由は十分。


 そんな単純なことに、今さらながら気付いてしまった。

 

 共闘のせいで、毒気が抜かれてしまったのかもしれないな。


「あんたを王にする。そっちの方が、楽しめそうだ」


 しかし、ルーカスは予想外の回答を口にする。


 理由は『楽しめそう』。という浮ついた情報だけ。


(命を懸ける理由としては、軽すぎるな……)


 ハッキリ言って信用できない。あまりにも怪しすぎる。


 それに手を組めば、一人で王を目指すという信念に反する。


 これまでの一時的な関係は良くとも、王位継承戦は全く別の話。


「…………よろしく頼む」


 ただ、思いに反し、ベクターは拳を前に突き出した。


 信じてみたくなった。騙されてもいいと思える相手だった。


 理由はそれだけだ。裏切られたなら、その時にまた考えればいい。


「じゃあ、これからも頼むぜ、相棒!」


 ルーカスは小気味のいい返事と共に、拳を突き出す。


(これも、悪くはないか……)


 不安と高揚が入り混じった、初めての感情。


 それを肯定的に受け止めながら、拳は合わさった。


 ◇◇◇


 第三回廊区。怪異の城。最上階。


「まってくれ……おや、じ……」


 ラウラは半目を開き、ぐっと手を伸ばした。


 その先にあったのは、包帯が巻かれた右腕のミイラ。


 ネクロノミコン外典。親父が生前、所有をしていた物だった。


「目が覚めたみたいっすね」


 ひょいと右腕を取り上げられ、声が聞こえる。


 取ってつけたような敬語。独房の中で聞き慣れた声。


(あぁ……最悪の寝覚めだ)


 ラウラは数度まばたきして、意識を覚醒させる。


 気分は最悪。体はだるくて、反動でセンスが出ねぇ。


 メリッサに起こされたのもあるが、体調はすこぶる悪い。


「よく勝ったな。どんな手を使った」


「僕も興味あるねぇ。今後のためにも教えてよ」


 そこに声をかけてきたのは、ミネルバとアルカナだった。 


 他の連中もすでに起きていて、少しばかり寝坊しちまったようだ。


(みんな、無事か……。体張った甲斐、あったかもな……)


 ほっと胸を撫でおろしたくなる気分だった。


 ただ、王位継承戦はまだ終わったわけじゃねぇ。


 第三区でこれなら、第四区はもっと苦戦するはずだ。


「やなこった。企業秘密だよ」


 つまり、能力の詳細は言えない。


 今後のことを考えれば、それが一番だった。


 ◇◇◇

 

 第四小教区。終点に位置する場所。王墓所。


 棺桶に座っているのは、白い修道服を着た霊体。


 片手には白い杖を持ち、細い目を少しばかり開いた。


「君が一番乗りか。これは予想外だったかな」


 初代王マーリンは、侵入者を歓迎する。


 これは継承戦。王子が来なければ意味がない。


 視線の先には、期待を超えてきた王子が立っていた。


「えぇ……なにここ……。暗いし、怖いし、辛気臭いし、じめじめしてるし、幽霊出そうだし、服はボロボロだし、手は焦げ臭いし、前後の記憶がないし、目の前にいるの絶対ラスボスじゃん。……というか、なんでわたし一人なのぉ!?」


 金髪碧眼の黒いワンピースを着る少女。


 王位継承権第五位というダークホース的存在。


 辺りを見回しつつ、心の内を正直にぶちまけている。


「……来たからには、相手させてもらうよ。エリーゼ・フォン・アーサー」


 想定外を楽しみつつ、マーリンは白い杖を構える。


 事情はどうあれ、足を踏み入れたなら加減はできない。


 勝てれば、王。負ければ、霊体。という結果が待ち受ける。


 こうして、王位継承戦は奇怪にも大詰めを迎えようとしていた。


 ◇◇◇


 バッキンガム宮殿内。分霊室前にそびえたつ大門。


 門の一部が砕かれ、大理石の床に一人の少年が倒れていた。


「あ、れ……? 何がどうなって、こうなった?」


 高い天井を見つめながら、ジェノは心境を口にする。


 視界はぼんやりして、頭の中は霧がかかったようだった。


 状況がよく分からないまま、ひとまず、立ち上がろうとする。


(……ん? なんだこれ)


 すると、後頭部に些細な違和感があった。


 柔らかいような、ゴツゴツしたような奇妙な感覚だ。


(もしかして、パメラさんが介抱してくれたのかな?)


 薄っすら思い出すのは霊体パオロとの戦い。


 恐らく、倒すのに苦戦して、気絶してしまった。


 結果は不明だけど、近くにはパメラとガルムがいた。


 今までの成り行きを考えれば、それ以外に考えられない。


「――助かりました。あの後、どうなったん、で……す…………」


 右手を支えに起き上がり、ジェノは振り返る。


 でも、言葉を失った。思わず目を疑ってしまった。


(不可能じゃない……。条件は満たした……。でも、こんなことって……)


 ジェノは、ぼやける頭で状況をまとめる。


 冷静に、合理的に、客観的に、現状を分析する。


 だけど、いくら考えても、浮かぶ答えは一つしかない。


「リーチェ、さん……?」


「おはよう、ジェノ。寝覚めはどう?」


 復活を待ち望んでいた師匠リーチェ。


 静かに立ち上がり、優しい声音で尋ねた。


 長い銀髪に、尖った耳に、黒のロングコート。


 紛れもなく本物だ。あの頃とまるで変わってない。


「あの……体はもう大丈夫なんですかっ!!」


 質問を忘れ、ジェノは彼女の肩を掴み、言った。


 人を心配できる心がまだ残っていて、本当に良かった。


 あのまま神格化が進めば、気を配ることもできなかったはずだ。


「あぁ……それなら問題なし。それより、事の経緯を聞かせてくれる?」


 リーチェは腕を上げ、健康をアピールする。


 服は汚れていたけど、体は問題なさそうだった。


 もしかしたら、霊体を倒してくれたのかもしれない。


「もちろんです! 日が暮れるまで話してあげますよ!」


「それは、困るわね。せめて、夕飯前までにしてちょうだい」


 変わらないやり取り。当たり前だった光景。


 それが手に入った。失ったものを取り戻せた。


「分かりました! じゃあ、まずは適性試験の話から――」


 意気揚々と、ジェノは語り出そうとする。


 しかし、目に入ってきたのは、予想外の光景。


 頭が貫かれ、血が弾け、大理石の床を赤く染める。


「……」


 わざわざ確認するまでもなく、即死だった。


 経緯を聞かせる暇もなく、リーチェは死に至る。


(なんで……どうして……こんなひどいことをするんだ……)


 その視界の端には、見慣れたものが映る。

 

 空中を自由に動き回ることができる木の矢だ。


 そこから犯人が分かる。やってきた者たちが分かる。


「パメラぁぁぁぁぁあああっ!!!!!」


 大門の前に立っていたのは、パメラとガルム。


 ジェノはかつて否定した感情。復讐心に駆られ、声を荒げた。

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