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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第51話 混沌

挿絵(By みてみん)




 分霊室。第一商業区。崩れた大門の前。


 そこで相対するのは、二人の似て非なる少女。


 商業区の廃墟の大半は粉砕され、赤レンガが飛び散る。


「……」


「……」


 そこで戦っていた、渦中の二人。


 リーチェと霊体リーチェは手を止めた。


 示し合わせたように、お互いに距離を取った。


(何か、来る……)


 リーチェは異変を感じ取り、大門を見る。


 気を配るべきは、崩れた外装よりもっと奥。


 奥には森が見える。広大なバトルフィールド。


 そこで、立て続けに聞こえた爆音と風を切る音。


 尖った耳をピクンと動かしながら、状況を鑑みる。


(あいつも察した。奥で何かあったのは間違いない) 


 敵の警戒を怠らず、リーチェは考えを巡らせる。 


 休戦は一時的。相手は同じ人間だからよく分かる。


 異常を察知し、不測の事態に備えることを優先した。


(問題は何が起きるか。先んじて、どう行動を取るべきか)


 事態が収束すれば、戦闘は再開される。


 それを考慮に入れて、思考をまとめていく。


「あわわわ……。爆撃……。B-29……」


 そこで聞こえてきたのは、金髪のCAの怯えた声。


 客室乗務員というヴェールが剥がれ、心神喪失状態。


 本来の業務を怠り、子供のように膝を抱え、震えている。


 今の状態で注意を促しても、大した変化は期待できないはず。


「――」


 リーチェの足は、即座に動き出す。


 向かうのは、震えているCAがいる場所。


 大の大人を横向きに抱えて、門から飛び退く。


 CAは抱えられたことにすら気付かない様子だった。


(打算もあるけど、見殺しは後味が悪いのよね……)


 跳躍しつつ、リーチェは在りし日を思い出す。


 鮮明に浮かぶのは、ブラックマーケットでの騒動。


 とあるマフィアが、露店の店主に暴力を振るった光景。


 助けられたのに、事情を優先して、見殺しにしてしまった。


 あんな思いはもう二度と御免。これは、あの時の禊でもあった。


「……」


 それと同時期に霊体リーチェも後方に跳ぶ。


 その視線の先にあるのは大門じゃなく、こちら。


 事態が収まり次第、戦闘を再開しそうな勢いがある。


(優先度は私が上……。裏を返せば、門側は警戒に値しないということ)


 状況から、リーチェは敵の胸中を探る。 


 自分基準で考えるなら、考察は容易だった。

 

(ただ、あくまで敵の事情。鵜呑みにするのは危険ね……)


 しかし、リーチェは安易な判断をしない。


 同じ人間でも、生きた時間軸と目的が異なる。 


 価値観も命令も判断基準も、きっと同じじゃない。


 秤はいつだって、自分の中にある。判断軸は曲げない。


(本命は門。あいつは後回しでいい)


 リーチェは敵から視線を外し、大門の方を向く。


 自分ならこの隙を見逃さない。襲われる可能性は十分。


 そのリスクを承知した上で、門側の方が危険だと感じていた。


「――」


 直後、かすかに風を切った音がする。


 足音は消してるけど、衣擦れ音は消せない。


 すなわち、霊体が迫ってくる音。隙を狙ってきた。


(敵に意識を割きたいのは山々だけど、今じゃない……)


 自分の判断に従い、リーチェは門側を警戒する。


 あと少しで何か異変が起きる。そんな予感があった。


「受けないと、死ぬよ?」


 すると、不意にそんな声が聞こえる。


 横目で見えたのは、回転がかかった右拳。


 脇腹狙いの一撃。あれはガードじゃ防げない。


 同じ回転を乗せた拳で迎撃するのが、適切な行動。


(最悪、死ぬのは私だけ。それなら問題ない)


 リーチェはそれでも、考えを曲げない。


 致命傷になる覚悟を決め、門を見つめ続ける。


 その間にも右拳は迫り、接触まで0.1秒もかからない。


「馬鹿だなぁ。そんなんだから、周りを不幸にするんだよ」


 そこで相手は心に刺さる一言を添える。


 そうかもしれない。今までずっとそうだった。


 誰かを幸せにした覚えはない。不幸にさせてばかり。


「今まではそうでも、これからは分からない」


 リーチェはその間に言い返す。


 圧縮された時間の中で意見を述べる。


 その視線に迷いはなく、前だけを見ていた。


 無謀すぎる行動。なんの根拠も戦術性もない発言。


 空気は張り詰め、緊迫した状況が続く中、それは起きた。


「――」


「――っ!!?」


 大門は吹き飛び、それに連なる第一区画の壁は崩壊する。


 瓦礫と破片が飛び散り、山崩れのように襲い掛かってくる。


 リーチェは適切な回避を選択。霊体リーチェは巻き込まれた。


(やっぱり……。命令を優先するからそうなるのよ……)


 瓦礫に埋もれた哀れな敵を見つめ、リーチェは破片を避ける。


 劣勢を覆した。自分の判断に従ったおかげで、危機回避ができた。


 ほんの少し、心が上向きになるのを感じながら、冷静に対処し続ける。


(大きい……)


 そんな中、一際大きい瓦礫を察知する。


 大門を丸くえぐり取ったような、でかい塊。


 ただ意識していれば、どうってことはない規模。 


「――」


 リーチェは慎重に回避し、塊を避けた。


 金髪のCAを抱えたまま、瓦礫を対処しきった。


(ふぅ……今ので最後……)


 安堵し、リーチェは気を抜いた。


 ほんの少しだけ、隙を作ってしまった。


「あぁ、世界の癌細胞がこんなところにも……」


 そんな隙をついたのは、少年。


 瓦礫に紛れた人物が拳を振るった。


(え……?)


 目を疑った。頭が理解を拒んだ。


 拳を振るったのは、かつての弟子。


 ジェノ・アンダーソンだったのだから。

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