第50話 神と魔人
暗い森の地面に、無礼者はうつ伏せで倒れ込む。
惹かれ合うように、視線を交差させたのは、二人。
少年と少女。兄と妹。ジェノとエリーゼ。神と魔人。
複雑に絡まり、解けた因果の糸が、再び重なり合った。
「その風貌……。低級の魔人ですか。現世には不要な存在ですね」
白き神は、ジェノを通して、意見を代弁させる。
本来、神は人間程度には認識できない高次元の存在。
だからこそ、宿主、天使、御神体などを通す必要がある。
現段階は、その延長線上にあるもの。いまだ、不完全な状態。
姿形を人間に認知させる。見神の領域には、程遠い状態にあった。
「ハァァ……フゥゥ……」
対する魔人もまた不完全な存在。
意識がなく、力を御しきれていない。
自在に力を制御する魔人とは、格が劣る。
理性がない動物と同じ。取るに足らない相手。
(馳走とは言えずとも、据え膳。供物を捨て置くのは勿体ない)
低級とはいえ、魔人は魔人。
人間に比べれば、歯応えがある。
神格化を進めるには、ちょうどいい。
「……粗削りな魔人の味。堪能させてもらいましょうか」
親指を舐め、白き神は拳を構える。
体には銀の光を纏って、視線を送った。
まずは、味見。素材の味をしゃぶり尽くす。
「――アゥウウッ!!!」
誘いに乗る形で、魔人は地を駆ける。
猪突猛進。なんの策もない本能任せの攻撃。
(迎撃は容易……ですが、それでは味気がありません)
白き神は、あえて右腕を差し出して、受けに回っていた。
獰猛な犬に腕を噛ませるような愚行。不遜極まりない行為。
しかし、神であれば許される。愚行も不遜も我儘も何もかも。
相手が人類に仇名す者であれば、全てに箔がつき、賞賛される。
「――ッ!!!!!」
その挑発に乗り、魔人は両腕を伸ばす。
健気に細い腕を伸ばし、殺意を込めている。
(さぁ……まずは、余を召し上がれ)
白き神は、高い視座から敵を見下す。
見る見る伸びる手を、愛おしく見つめる。
そして、差し出した右腕に食らいつく、刹那。
「ア、ガゥウゥウッ!!!」
魔人は寸前のところで軌道を変化。
動きを変え、狙いを変え、両腕を伸ばす。
魔人の両腕は首にまで到達し、喉を締め上げる。
そこに、白いセンスが集約。紛れもない能力の前触れ。
(これは……活きがいい。愛でて差し上げましょう)
白き神は、慈愛の心を持って、相手に接する。
魔人の頭を撫でながら、能力の発露を優雅に待つ。
「ウガッッッ!!!!」
直後、白い光が走り、首元が爆発。
体は森林区を一直線に突き進んでいく。
やがて壁に到達し、区画の概念を破壊した。




