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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第48話 神との交渉①

挿絵(By みてみん)




 第二森林区。西端に位置する場所。


 黄金の鎧と、銀の直剣が地面に落ちる。


 鎧の胴周りは貫かれ、剣は赤く輝いている。


 その装備を纏った霊体は、もうこの世にいない。


 立っていたのは少年。蘇り、勝ち残ったのはジェノ。


 ただし、中身が異なっている。神格が表に出てきている。


(……白き神が自我を持った。情報は正しかったようだね)


 パメラは、その現象を前向きに受け止めていた。


 起こるべくして起きた事態。早いか遅いかの違い。


 むしろ、好都合。白き神と直接契約を交わせる好機。


 仮に契約が実現した場合のメリットは、計り知れない。


 王位継承を諦めたとしても、余裕でお釣りが返ってくる。


(まぁ、浮かれてばかりもいられないか。成功確率は高く見積もっても1%)


 ただ、それは死と隣合わせのリターン。


 失敗すれば、霊体パオロと同じ末路をたどる。


 最高のスリルを味わった上で、初めて得られるもの。


(百回やって九十九回は死亡する計算の交渉……。こいつはヒリつくねぇ……)

 

 王位継承戦で最大の難所と言い切ってもいい。


 一国の王子なんて比較にもならない、格上の存在。


 白教が信仰する唯一神。信徒は、世界人口の半数以上。


 顕現した白き神を前に、パメラは密かに胸を躍らせていた。


「下心が見え透いていますね。始終は中で見ていましたよ」


 白き神は、へりくだるように敬語を使う。


 尊大な振る舞いをする空想上の神とは、真逆。


 俗物的で、どこにでもいる、手の届きそうな存在。


 それがむしろ、等身大な神としての質感を高めていた。


(堕天の件は筒抜けか。立場も状況もすこぶる悪い)


 一方で、立ちはだかる壁は高い。


 神を堕天させ、人間側に引きずり込む。


 それが、継承戦よりも優先したい目標の一つ。


 計画を知られた上で、達成するのは困難極まりない。


(……でも、上等だね。その上で口説き堕としてやるよ)

 

 だからこそ、余計にやる気が引き立てられる。


 登る山が高ければ高いほど、頂きの景色は格別。


 青写真を頭に浮かべて、パメラは交渉を開始する。


「よもやま話を覚えてくださるとは、恐悦至極でございます……白き神」


 語り過ぎず、欲を出し過ぎない。


 敬意を前面に出し、白き神を立てた。


 ただ、パメラは、ギリギリを攻めていた。


 本来であれば、神に対し、膝を折るのが礼儀。


 機嫌を損ねて、殺されないための作法とも言える。


 ただ、無難な振る舞いでは神を攻略できないと踏んだ。


「…………」


 白き神の視線が突き刺さり、沈黙の間が流れる。


 パメラとガルムを交互に睨みつけているように見える。


(ガルムには悪いけど、これで神の怒りを買うなら一緒に死んでもらうよ)


 パメラが行ったのは、立ったまま神と接すること。


 主人の命令に忠実なガルムも、巻き添えになる形だ。


 普通に考えれば、無礼で、不遜極まりない行為だった。

 

 ただ、常軌を逸した存在に人間の常識なんて通用しない。


 頭のネジを外さないと、1%の先にはきっと手が届かない。


「名乗りもせず、欲も見せず、敬意を払いつつも、立場は弁えない……」


 起きた状況を一つ一つ咀嚼するように、白き神は語る。


 全くもってその通り。一言一句間違ったことは言っていない。


(ここを越えられないようなら、お先は真っ暗。喜んで命を捧げるよ)

 

 不穏な空気が流れる中、パメラは瞳を逸らさない。


 命を捨てる覚悟を決め、白き神と目と目を合わせ続けた。


 そのいたたまれない間が、どれぐらい続いたのかは分からない。


「……面白い奥方ですね。面の厚さに免じ、ゆるしましょう」


 ただ、結果として、白き神に赦された。


 交渉の土台にすら立てないが、生き残った。


(ふぅ……。前途多難だけど、首の皮一枚で繋がったかね……)


 パメラは胸中で安堵し、次の選択肢を模索する。


 気に入られた。とまでいかなくとも、機嫌は取った。


 幸先が良いとは言えずも、決して悪くはない状態だった。


「ただし、黙秘を貫く、合成獣は別ですが」


 しかし、白き神の怒りの矛先は、ガルムに向いた。


 霊体パオロを屠った右手を伸ばし、ゆるりと迫らせる。


(あぁ……。ガルムを助ければ、不敬とみなされ、恐らくだけど、こちらにヘイトが向く。見殺しにすれば、現状は維持できるかもしれないが、計画に支障が出る。あちらを立てれば、こちらが立たずだね……。どうする……っ!)


 その間にパメラは二択に絞り、思考を回す。


 ガルムを助けるか、それとも、見殺しにするか。


 限られた時間の中で、どちらか選ばないといけない。


(神は人の常識で計れない。張るなら分が悪い方、だね……)


 パメラは即断即決し、ガルムの方に手を伸ばす。


 相手が本気だったなら、恐らく、間に合わなかった。


 ただ、相手の動きは遅い。おかげで先に接触を果たした。

 

遺伝子ジーン……」


 すかさず、神に対抗するための文言を唱える。


 通用するかは分からないが、何もしないよりはマシ。


 それぐらいの感覚で、パメラは、意思の力を高めていった。


「――――っ!!?」


 直後、鳴り響いたのは、轟音。


 近くで爆弾が起爆したような音だった。


 当然、技は中断し、無防備な隙を晒してしまう。


(まずったねぇ……。このままだと、最悪……)


 パメラの脳内には、最悪のケースが浮かぶ。

 

 機嫌を損ねた白き神に、一瞬で殺される未来。


 今から唱え直しても、まず反撃は間に合わない。


「…………」


 ただ、意外にも、白き神は手を止めた。


 視線と興味関心は、音のした方へ向いていた。

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