表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/156

第47話 異変

挿絵(By みてみん)




 第二森林区。中央北に位置する場所。


 暗い森が不気味に揺れ動き、空気が淀む。


(……妙だな。決着がついたか?)

 

 森の異変と状況をパオロは察していた。


 その呼吸は荒く、額には汗が浮かんでいる。

 

 独創世界は、玉鏡星による認識の入れ替え圏外。


 万全の状態の武道家と、サーラが戦ったことにある。


(サーラが最後に放った技……。あれは八極拳だったな。見様見真似にしては様になっていた。武術の心得があるようには見えなかったが、手の内を隠していたか? いや、仮にそうだとして、あの武道家に勝てるほどの腕前なのか?)


 パオロは思考を進め、様子をうかがい続ける。


 いくら悩んだところで、答えは見るまで分からない。


 頭では分かっていたが、どうしても考えを巡らせたくなる。


(正直、八極拳が奥の手だとしても、サーラが勝つビジョンが見えない。それぐらい、あの武道家は武術という一点においては抜きん出ている。真っ向からやり合って勝てる気がしない。玉鏡星をもろともしないやつなんだぞ)


 直接、手合わせたした上での、不安。


 力量が分かるからこそ、嫌な思考が回る。


 肯定したいのは山々だが、その材料が少ない。


 正直、悪い方に転がったとしか考えられなかった。


(さらに言えば、あの武道家は未来のベクターだ。独創世界が同じだった上に、体術が段違いに成長していたから、間違いない。道具に頼っていないことから見ても、単身で聖遺物レリッククラス。最悪に備えた方が良さそうだな)


 パオロは頭の中で思考をまとめ、結論を出す。


 サーラの敗色は濃厚。その上で手を打たないといけない。


 タイマンの決着条件は、生死か勝敗かは不明だが、そのどちらか。


 仮にサーラが死んでいたとしても、それを受け止め、仕掛ける必要があった。


「……来る」


 荒い呼吸を整え、パオロは前を見る。


 これといった根拠はない。ただの直感だ。


 異変を感じても、いつ来るのかは分からない。


 それでも、こういう時の勘は当たる気がしていた。


(呼吸が……。おいおい、こいつは……)


 すると、急に肺が軽くなる感じがした。


 玉鏡星の能力が継続している何よりの証左。

 

 生死が世界の閉じる条件なら、勝者は武道家だ。


「…………っ」

 

 そう考えていると、突如、目の前の空間が歪み、湾曲する。


 一度、同じ独創世界から戻ってきた瞬間を見たから、分かる。


 決着がついた。世界が閉じた。中にいた二人が戻る前の前兆だ。


 ただ、それにしては不自然な挙動。想定外の何かが起こった印象。


(なんだ、この嫌な感じは……)


 体を通し、伝わってくるのは武道家の感触。


 鳥肌が立ち、毛が逆立って、悪寒が走っていく。


 玉鏡星は、心や視界まで入れ替えることはできない。


 現時点では、方向感覚と体の認識限定。表面的なものだ。


 その上で感じる。体に残っている感覚が、何かを恐れている。


(あの武道家が怖がってる? そんなことがあり得るのか? というか、決着がついたなら、怖がる必要なんてなくないか。勝者は武道家だ。独創世界が閉じて、呼吸が入れ替わったままなら、ほぼ間違いないはず。例外なんて……)


 パオロは思考を進める。


 与えられた情報は、限定的。


 不確実なノイズの混じりの断片。


 どれだけ考えても予想の域を出ない。


 ただ、出来事を想像するぐらいはできた。


(世界の法則が捻じ曲がった、のか……?)


 独創世界は、条件に特化した空間だ。


 発生させる条件が厳しい分、世界は強固。


 内部から壊れることは、普通なら考えにくい。


 ただ、問題が普通じゃなかった場合、話が変わる。


 仮に、核兵器規模の爆撃が起きたら、世界は崩壊する。


 非現実的すぎて考えもしなかったが、それだったら可能だ。


(成長した守護霊、卓越した武術……。それだけでは説明がつかない……)


 サーラの持ち得る武器を思い浮かべ、考察を進める。


 ただ、分からない。見通しが立たない。想像ができない。


 サーラは記憶を失っている。潜在意識はブラックボックスだ。


(あいつの体には、何が秘められている……っ!!)


 想像の行き着く先は、エリーゼが秘めた力。


 独創世界を壊すなら、それ以外に考えられない。


「…………っ!!?」


 そう考えついたと同時に、空間が捻じ曲がる。


 捻じれは円形状に広がり、内と外は交じり合う。


 そこで見えてきたのは、我が目を疑うものだった。


「…………」


 ボサボサの金髪。黒いワンピースを着た少女。


 それは変わらない。それだけなら普通のサーラだ。


 ただ、身体的特徴が違う。想像を凌駕した変化がある。


「……っっ。……お前は、何、者だっ」


 武道家の苦しがる声が響いた。


 その喉輪は両手で絞められている。


 華奢な体からは、想像もつかない膂力。


 圧倒的な力の差が二人の間には生じている。


 変化というよりも、進化と表現した方が適切だ。


(こいつは……この現象を形容するものは……)


 二本の黒角、黒い尻尾、コウモリのような黒い羽根。


 おおよそ人間の常識を逸脱した体躯。人ならざる者の証。


 パオロは脳内で、類似する情報を無意識的にかき集めていた。


「ハァァァ……」


 耳を焼かれるような吐息と共に、轟音が鳴り響く。


 空気が震え、耳鳴りがして、一瞬、脳の意識が飛ぶ。


 爆発した。目の前にいたはずの武道家は爆発四散した。


 あれだけ手こずった相手を、たった一撃で、葬り去った。


 あまりに鮮烈な光景に唖然としていると、言葉が浮かんだ。


 目の前にいる異形を、たった一言で表現できる便利な言葉だ。


「魔人……エリーゼ……」


 人であって、人ではない。


 魔と人が交じり合った存在、魔人。

 

 これ以上に適切な言葉は見当たらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ