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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第46話 条件

挿絵(By みてみん)




 第二森林区。西端に位置する場所。


 剣を振るい、付着した血液が払われる。


 地面には、赤い雫が花びらのように広がる。


 立っているのは、黄金の鎧を纏った霊体パオロ。


 剣身に刻まれた呪文が赤く光り、怪しく輝いている。


 直後、倒れたのは少年。左肩から右下腹部にかけ、裂傷。


 四肢に損傷こそなかったものの、心臓の鼓動は止まっていた。


「あぁ、清々した。こいつは一度、この手で殺しておきたかったんだよな」


 霊体パオロは、恨み節を吐き捨てる。


 殺意の出所は不明。経緯も見えてこない。


 ただ、並々ならない出来事が未来で起こった。 


 そう思われてもおかしくない、発言と行動だった。


「……さて」


 ガシャンと足音が鳴り、黄金の鎧は後ろを振り返る。


 その先にいたのは、矢を番えた女性と巨大化した狼男。


「操られた方がマシだったかね……。構えな、ガルム。応戦するよ」


 パメラは大弓の弦を引き、指示を飛ばす。


 顔色に余裕はなく、表情は強張りを見せる。


 足先は軽く震えており、恐怖が見え隠れする。


「……仰せのままに」


 一方、隣に立つガルムは両爪を尖らせる。


 震えも怯えもなく、命令を忠実に守っている。


 そんな両者と霊体パオロの距離は決して遠くない。


 直剣を少し伸ばせば、届いてしまう距離に立っていた。


 どちらかが動けば、戦いが始まる。そんな張り詰めた状況。


「せっかちなやつらだな。主役の登場を待ってやったらどうだ」


 そんな中、霊体パオロは肩をすくめ、言い放つ。


 力を抜いた状態で、地面に目線を向け、待っている。


「ガルム……。言いたいことは分かるね?」


 パメラは、ぞっとした表情で尋ねる。


 思い浮かんだ言葉を、口に出したくない。


 言えば夢が覚めてしまう。そんな様子だった。


「……」


 すかさず、ガルムは地面に耳を当てる。


 警戒しながらも、神経を聴覚に集中させる。


 目的は一つ。倒れた少年。ジェノの心音の確認。


 止まった心臓が、動き出すかどうかを見定める所作。


「……っ!? パメラ様、心音がっ!」


 ぴくんとガルムの大きな耳が揺れる。 


 声は上擦り、上向きの感情が言動に現れる。


「まったく……。冷や冷やさせてくれるね」


 報告を受け、パメラは軽く微笑んだ。


 表情の強張りはなくなり、安堵した様子。


 その上で、思い至った展開を待ち望んでいた。


「――――」


 要望に応えるように、少年は起き上がる。


 すでに傷口は塞がり、致命傷は完治している。


 顔は俯き、表情は髪で隠れ、感情を読み取れない。


 ただ、空気が弛緩し、パメラとガルムは高揚していた。


「さぁ、これで三対一だ。覚悟しな。霊体パオロ!」


 その思いの丈を、パメラは強くぶつける。


 正体を察した上で、意気揚々と宣戦布告する。


 数の有利は絶対ではない。ただ、この状況では別。


 期待以上の力を発揮した、ジェノの戦線復帰は大きい。


 パメラとガルムは、掛け値なしに彼の実力を評価していた。


「確かに、三人がかりなら僕に勝てるかもな。……だが、そうはならない」


 霊体パオロはパメラの発言を切り捨て、語る。


 起き上がるジェノの肩に親しく手を置き、告げる。


 パメラは何も言わなかった。口を閉ざしたままだった。


 次第にどんよりとした空気が満ちていき、場は煮詰まった。


 そんな空気を読み、見計らったように霊体パオロが口を開いた。


「負けたら、あなたに協力します。……だったな、ジェノ・アンダーソン!」


 ジェノは、霊体パオロと戦う前に、提示した条件があった。


 勝てば、相手に協力してもらう。負ければ、相手に協力する。


 そんなフェアで対等で律儀な条件の下、始まったのが殺し合い。


 決着は一瞬だった。霊体パオロが直剣を振るい、ジェノは死んだ。


 条件が成立したか曖昧なまま、ほんの数秒で勝負がついてしまった。


 それを霊体パオロは指摘した。縛りは明文化した時に効力を発揮する。


 曖昧な状態を放置すれば、曖昧な関係は続く。ただ、確認を取れば、別。


 イエスかノーか。言わざるを得ない状況に持ち込めば、縛りが表面化する。


 認めれば、服従。認めなければ、破った条件の程度の応じた罰則が科される。


「……誰に口を利いていらっしゃるの。不敬ですよ」


 そんな縛りを堂々と破るように、少年は動き出す。


 黄金の鎧の胴体をたやすく穿ち、右腕が貫通していた。


 そこから仮想の血液が一気に溢れ、辺りを赤く染め上げる。


「お、まえ……っ!! くそっ、ぼくと、したことが……」


 胸を貫かれながら、霊体パオロは状況を理解する。

 

 条件は、ジェノ・アンダーソンとの間に結ばれていた。


 別人の場合は当然、無効。今回のケースは、それに近しい。


 別人格が現れた場合でも、無効。ジェノとの条件は白紙になる。


「穢らわしい殿方だこと。余と契りを交わしたいなら、慎ましさが足りませんよ」


 少年は右腕を振り払うと、霊体パオロは消滅する。

 

 丁寧で柔らかい物腰。少年とは思えない艶やかな声色。

 

 横暴なようで、そこはかとなく謙虚で繊細さを感じられる。


 別人格というよりも、別神格。身を潜めていた、神話級の存在。


 宿主の神格化に伴い表出した意識。()()()()()()()()()()()()()()

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