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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第45話 似て非なる者

挿絵(By みてみん)




 分霊室。第一商業区。崩れた大門の前。


 ひび割れた地面をタタッという足音が響く。


 銀色の光が灯っては消え、それが繰り返される。


 戦うのは同じ顔で、似た格好をした銀髪の少女二人。


 二人の唯一違う点は、眼鏡をかけているかどうかだった。


「戦況は二勝二敗で、五分と五分。防衛組の霊体二人は消滅。攻略組の二人が死亡。お互い痛み分けの結果だね。……どうする? 私の『反転』なら元に戻してあげることもできるよ。そっちが、諦めるのが条件だけど」


 眼鏡をかけていない方の少女。


 霊体リーチェは拳を振るい、語る。


 拳にはセンスと回転が乗り、空を穿つ。


 回避されたにもかかわらず、衝撃波が発生。


 背後にある廃墟を、豆腐のようにえぐっていく。


 通常攻撃の一発一発が必殺級。桁違いの強さを誇る。


(この口振り……。反転の魔眼のデメリットを克服した……?)


 その攻撃を容易くいなすのは、眼鏡をかけた方の少女。


 リーチェは与えられた情報を元に、淡々と考察を進める。


 反転の魔眼は、願ったことを反転させる能力を持っている。


 心から願ったことじゃないと実現せず、無意識も反映される。


 その力を制御するには、特殊な眼鏡。大罪伝世鏡が必要だった。


 それなら無意識の願いを抑制でき、意識的な願いの反転もできる。


 ただ願いの代償として、大罪伝世鏡の一部が欠けてしまう諸刃の剣。


 意識して目を使うほど、無意識が抑制できなくなるジレンマがあった。


「……馬鹿言わないで。反転じゃ元には戻らない。世界が歪むだけ」


 リーチェは反撃に転じ、回転が乗った踵落としを放つ。


 空振りを見せるも、空を縦に裂き、廃墟を真っ二つにした。


 異次元の戦闘。それを息をするようにこなし、会話劇に興じる。


「えー、次の行き先はぁ、地獄でございます……」


 その片隅では、金髪のCAがガタガタと震える。


 王位継承戦における一番の被害者がそこにはいた。


 今は気を回せるけど、お互いに本気を出せば、話は別。


 力の奔流に巻き込まれ、見るも無残になる姿が想像ついた。


「散々、エゴで世界を歪ませたクセによく言うよ」


「人のこと言える立場? あなたも同じでしょ?」


 拳と拳が衝突し、言葉をぶつけ合う。


 銀光が迸り、大地が揺れ、空気が震える。


 力は拮抗していた。体術での決着はつかない。


「……はぁ。攻略組の誰が死んだか、教えてあげようか?」


 拳を合わせながら、霊体リーチェは語る。


 体術ではなく、言葉で勝負を仕掛けてきた形。


(ゆすり、か……。思考回路は未来の私でも同じのようね)


 相手は未来から来た存在。それは拳を交えて分かった。


 喋り方や態度に変化はあるものの、本質は変わってない。


 目的のためには手段を選ばない。そのためには何でもする。


「言ってみたら。どうせ、私には効かない」


 リーチェは相手を理解した上で、話を振った。


 下手な嘘はつかないだろうし、内容も恐らく真実。


 だから、あえて聞いた。奥の情報は仕入れておきたい。


 問題は中身だけど、何を言われても動じない自信があった。


「……ジェノとエリーゼだよ」


 霊体リーチェの発言に、拳がぴくりと動く。


 無意識だった。意図せず体が反応してしまった。


 ぞくぞくとした何かが体の奥底から込み上げてくる。


(さすがは私……。ゆすりのネタは一流ね……)


 問題の焦点は、諦めれば、反転で状況がどうにかなること。


 復活するのか、時間が巻き戻るかは不明だけど、助けられる。


 しかも、大罪伝世鏡が欠けるリスクもない。メリットは、十分。


「その様子なら、聞くまでもないか。……『反転』使うけど、いいよね?」


 すると、念押しするように霊体リーチェは尋ねる。


 拳の震え、眼球の動き、沈黙、あらゆる要素から分析。


 その上で交渉成立と判断した。何も間違った発言じゃない。


「――」


 だけど、返事はしてやらなかった。


 代わりにリーチェは腰の入った右拳を放つ。


 ひねりとセンスを加えた、正拳突きをお見舞いした。


「……交渉決裂、かな。理由を聞いてもいい?」


 ただ、そんな不意打ちで倒せる相手じゃない。


 後方に宙返りをして、器用に攻撃をかわしている。


 その後に生じる衝撃波も、ケアする形で回避していた。


「どうやら、私の知らない未来からきたようね。だったら、よく聞きなさい」


 同じ自分なら、気付かないのはあり得ない。


 同じ自分なら、震えた意味をはき違えるわけがない。


 同じ自分なら、この込み上げる熱を理解できないわけがない。


「あの二人は私が見込んだのよ。一度死んだぐらいで、終わるわけがないでしょ」


 リーチェが寄せるのは、絶対的な信頼。


 死に追い込まれてから力を発揮する、可能性の獣。


 心配よりも、成長をこの目で見れない後悔の方が勝っていた。

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