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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第44話 霊体アルカナ戦④

挿絵(By みてみん)




 目の前には、ラウロが所有していた物がある。


 あの日、焼き払われたと思ってた、遺体の右腕がある。


 包帯に封印術式が組まれた魔術書。ネクロノミコン外典がある。


 白骨の表面には、黄金色の瞳。大量の魔眼が植え付けられた異形がある。

 

(どうして、こいつがアレを持ってやがる……っ!!!)


 ラウラは、状況を誰よりも理解する。


 霊体アルカナを倒すより、優先すべき事案。


 対処を誤れば、確実に殺されてしまう状況だった。


「……知ってても、どうにもならないと思うけどなぁ」


 霊体アルカナは、包帯を払いのけながら、語る。


 ぽとりと包帯は落ちていき、腕の魔眼と目が合った。


 選ばれる能力は未知数。ただ害意があるのだけは確実だ。


(あぁ……ごちゃごちゃ考えてる暇はねぇ。『目を潰せ』だったなっ!)


 思い出すのは、親父が遺した最期の言葉。


 それに従い、ラウラは狙う標的を切り替える。


 右拳を完全に停止して、左手に意識を向けていく。


「――」


 ラウラが、動かしたのは裁ちばさみ。


 あらゆる物体や事象を切り取る能力を持つ。


 その刃先は、脅威の根本である魔眼に向いていく。


 魔眼の数は約三十。右腕の白骨の至る所に生じている。

 

(右手は使えねぇ。脅威を排除してから、叩き込む)


 溜めた力を解放すれば、恐らく、右腕ごと破壊できる。


 ただ、使えば気絶する。魔眼を潰せても、本体を倒せねぇ。


 だから、フィニッシュブローは最後にとっておく必要があった。

 

「……」


 その間に、にやつく敵の表情が見える。


 予想通りと言わんばかりの余裕を感じられた。


(……いや、待て。間に合うのか)


 それが、一瞬の躊躇と戸惑いを生む。


 切り取りは、対象を指定する必要がある。


 右腕を対象にしたら、右腕は恐らく、消える。


 ただ、右腕の魔眼は対象外。残る可能性があった。


 かといって魔眼を対象にした場合、複数指定は不可能。


 目は二つだと認識してる以上、一回の攻撃で、二つが限度。


 魔眼の数は見えるだけで三十。十五回の切り取りが必要になる。


(無理だ。どう考えても間に合わねぇ。切ってる間にやられちまう)


 裁ちばさみの達人なら、恐らく可能。


 魔眼の能力が発動する前に、終わらせる。


 ほんの一瞬の間で、瞳を十五回ほど切り刻む。


 ただ、残念ながら、そこまでの腕には至ってねぇ。


(このままじゃ終わる……。何か別の手を打たねぇと……)


 ラウラは、急速に思考を回す。

 

 裁ちばさみを開きながら、考える。


 選べる選択肢は、そこまで多くはねぇ。


 時間は限られてる。ワンアクションが限度。


 問題はどんな行動を取るか。それが重要だった。


(無理を押し通すとしても、押せるだけの理由がいる……)


 一回の行動にベットするのは、人生。


 思いつきで動けるほど、命は安くねぇ。


 直感も大事だが、今回の場合、話は別だ。


(待てよ……。これなら……)


 肌がひりつくのを感じながら、ラウラは光明を見る。


 時間と選択肢が限られた状況だからこそ、思い至った。


 命を張れる。人生を賭けられる。それだけの価値がある。


切り取り(カット)ッ!」


 ラウラが選んだのは、裁ちばさみの利用。


 正気とは思えない行動の裏には、理由があった。


「……っ」


 霊体アルカナの表情が青ざめていくのが分かる。


 血なんて通ってねぇはずなのに、顔色が悪かった。


 ただ、演技の可能性はあるし、まだ油断はできねぇ。


&貼り付け(アンド・ペースト)ッ!!」


 ラウラは裁断したものを、発生させる。


 淀みない一連の流れは、ワンアクション。 


 この動作だけは、達人の領域に達していた。


(さぁって、命を張った甲斐があったかどうか、次で分かる)


 ラウラが裁ったのは、魔眼ではなく、落ちゆく包帯。


 封印の術式が刻まれた、ネクロノミコン外典そのもの。


 それを貼り付け、右腕と魔眼を覆った。封印してやった。


 包帯の効力が残ってるかは不明。それを今から試してやる。


一斉再総送信オールバースト・リダイレクト


 言葉の意味は、意思の力に直結する。


 止めた技を始動させるためには理由がいる。


 これは、その意思表示。命を張った覚悟を乗せる。


「……起動アウェイクン


 遅れて、霊体アルカナは右腕の力を頼る。


 もう一度、外典を起動させようと試みていた。


 その行動から見えてくる。墓穴を掘ったのが分かる。


(やるんなら、再起動リウェイクンだったな……)


 ラウラは冷ややかな目を向け、右拳を振るう。


 青鱗の小手に全てのセンスを込め、惜しみなく放つ。


 加えて、これまで切り取った出力を乗せ、必殺に変換する。


「件名:破邪顕正(ヴィア・クルシス)


 拳が霊体アルカナの頬を捉え、発するのは相手の技。


 お見舞いしてやるのは、あの吸血鬼を数瞬で屠った一撃。


 空中には無数の白い十字架が出現し、降り注ごうとしている。


 恐らく、魔物や怪異に特攻がある必殺。霊体にも効果抜群と見た。


 だから、再現してやった。そのために厳しい条件をいくつか満たした。


「……ま、待って。それは、聞いて――」 


 霊体アルカナは、拳を受けて、足元がふらついてる。


 この様子じゃ、まともな反撃も回避もできねぇだろう。


 魔術師は、接近戦(インファイト)に弱い。その読みさえも当たった形だ。


「お前の敗因は、言語センスの差だ。もっと言葉には気を配るこったな」

 

 ラウラは背中を向け、敵の敗因を言い放つ。


 直後、無慈悲なる十字架が霊体アルカナを襲った。


「――――――ぁぁぁあああああ……ッ!!!」


 子供っぽい断末魔を上げ、霊体アルカナは消滅。

 

 杖とネクロノミコン外典をぼとんと落とし、敗北した。


(終わったか……。一人でも意外となんとかなったな……)


 ふと見た場所には、大きな窓があった。


 カーテンが開かれ、外の景色が見えてきた。


 そこには、涙をこぼしたような赤い月があった。


「月が、泣いてる……?」


 ドクン。と心臓が高鳴るのを感じる。


 何か条件を満たした。そんな気配があった。


(なんだ……? なんか、体がおかしい……)


 その思考を最後に、ラウラは地面に倒れ込む。


 視界は揺らぎ、景色は歪み、意識は飛んでいく。


「――白き神の器。一丁上がりっすね」


 善人を救い、流血を止める。


 簡易的な月の儀式が満たされた。


 その一部始終をメリッサは見ていた。

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