第43話 霊体アルカナ戦③
「消し、飛べぇっ!!!!」
青鱗の小手を右腕に纏うラウラは拳を振るう。
その先には、初代王の刺客。霊体アルカナがいた。
得物の杖を構えてすらなく、隙だらけのように見えた。
「――」
すると、霊体アルカナは懐に手を伸ばした。
拳が衝突するまで、ワンアクションは起こせる。
それを魔術ではなく、別の何かに頼ろうとしている。
(関係ねぇ……。今さら引けねぇんだよっ!)
罠の可能性が高まった。それでも、拳は止めてやらねぇ。
罠ごとぶち破る。そう思えるぐらいの気概と自信を持っていた。
「……起動」
霊体アルカナが取り出したのは、右腕だった。
文字が刻まれた包帯が巻かれる、遺体の一部だった。
アルカナの言葉に従い、腕は赤く染まり、起動を果たした。
(こいつは……っ!!?)
包帯が解かれ、現れたのは右腕の白骨。
骨の表面には、大量の黄金色の瞳が浮かぶ。
瞳はこちらを見ている。目の焦点が合っている。
見覚えがあった。知っているからこそ手が止まった。
「……ネクロノミコン外典」
ラウラの意識は勝敗が決するよりも早く、過去に飛んだ。
◇◇◇
親父は、ラウロ・ルチアーノは遺体収集家だった。
未知の生物の遺体や、ミイラなどを特に好んで集めた。
遺体の状態を見て、歩んできた過去を探るのが好きらしい。
考古学者というより、バックストーリー中毒者って感じだった。
「絶対にソレとは、目を合わせちゃいけないよ」
屋敷内にある収集室で、ラウロは語り出す。
パーマがかった青髪で、黒の燕尾服を着ている。
背は高く、表情はいつも優しいが、険しい顔を作る。
室内には、ショーケースが並び、遺体が収容されている。
ラウロの視線の先には、包帯が巻かれた右腕が置かれていた。
「あ? 目を合わせる? ただの遺体の腕だろ、こいつは」
黒スーツを着る、長い青髪の少女ラウラは反応する。
当然の疑問だった。目は顔につくもの。腕にはつかねぇ。
いつもの話を盛る悪い癖が始まった。この時は、そう思った。
「これはネクロノミコン外典。遺体というより、包帯が書物になってるから、魔術書に近いね。包帯には封印の術式が組まれ、中には無数の魔眼があった。もし、起動したら、数ある魔眼の中から、その場に見合った能力が選出される。包帯越しでも、目が合ったら起動するかもしれないよ」
ラウロは、淡々と説明していく。
脅しのつもりか、悪ふざけのつもりか。
それとも、実体験を元にして喋っているのか。
どれなのかは分かんねぇし、いまいちピンとこねぇ。
「……見てきたような言い草だな。どうやって入手したんだよ」
ただ、ラウロの言葉には重みを感じる。
だからこそ、入手した経緯が気になってくる。
親父の影響だろうが、結果より過程が知りたくなった。
「王位継承戦というものがあってね。……まぁ、そんなことより、もし、万が一、こいつが起動するようなことがあったら、目を潰すこと。余計なことは考えなくていいから、指でもなんでも使って潰すんだ。いいね?」
しかし、語りたがりのラウロは言葉を濁す。
代わりに、このよく分からねぇ腕の対策を告げた。
話は眉唾で為になるかは分からねぇけど、興味深かった。
親父から収集品のうんちくと、背景を語られるのが好きだった。
この後、ラウロは黒い鎧を纏ったリーチェに殺され、屋敷は全焼した。




