表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/156

第42話 霊体アルカナ戦②

挿絵(By みてみん)




 分霊室。第三回廊区。怪異の城。吸血鬼の間。


 味方が倒れてもなお、孤軍奮闘を見せる女性がいた。


 青髪ショートで黒服を着た、高身長で男勝りな元マフィア。


切り取り(カット)切り取り(カット)切り取り(カット)ッ!!!」


 ラウラ・ルチアーノは、迫る青い球弾を裁ち続ける。


 左手には、裁ちばさみ。刃を開いて、閉じるを繰り返す。


 相手の狙いは、単純明快。必殺に頼らねぇ、理に適った戦術。


(……手数勝負か。望むところだっ!)


 思惑を理解した上で、ラウラは駆ける。


 霊体アルカナとの距離は、約五メートル弱。


 魔術師は、近距離戦に弱いと相場は決まってる。


 だから、接近戦インファイトでケリをつける。それまでは耐えだ。


「――どうして君だけが倒れてないか、教えてあげようかぁ?」


 杖から青い球弾を放ちながら、霊体アルカナは言った。


(耳を貸すな……。ただの戯言だ……)


 ラウラは無視を決め込み、距離を詰め続ける。


 口を動かさず、はさみを動かし、前へ前へ進み続ける。


「この中で一番、君が弱かったからだよ。雑魚は最後にしたのさぁ」


 それでも、聞こえてしまう。


 嫌でも、耳に入ってきちまう。


(雑魚、か……)


 アルカナは魔術の達人。ミネルバは剣術の達人。


 ソフィアは体術の達人。ダヴィデは戦闘補助の達人。


 アミは刀の達人。広島は拳の達人。メリッサは糸の達人。


 みーんな、やられた。当分、起き上がってはこれねぇはずだ。


(……んなことは、言われなくても分かってる)


 裁ちばさみの達人。と言われればそうでもねぇ。


 技は最近、覚えた。習熟度は、他の奴と比べたら劣る。


 だから、後回しにされた。強い奴から叩かれ、弱い奴が残った。


(何をやっても中途半端だ。他人に誇れるようなものはねぇ)


 幼少期は、男として育てられた。


 女の作法を教えられることはなかった。


 その反動で髪を伸ばした。腰程度まで伸びた。


 創作物にハマった。裁縫とコスプレが趣味になった。


 お嫁さんになるのを夢に見た。人並みの女になりたかった。


 だけど、刀で髪を切り落とされた。女の命は、あの日、殺された。


(だとしても、『女』には、やらなきゃいけねぇ時があんだよ)


 それでも、女として生きたい。


 男のような生き様でも、心は女だ。


 絶対に曲げねぇ、自分だけの軸なんだ。 


切り取り(カット)


 足を進める度に、心が洗練されるのを感じる。


 余計な雑音はねぇ。やりたいことは決まってる。


 あいつに打ち勝って、女としての価値を証明する。


 これは、そのための一歩。そう思えば、悪くはねぇ。


「ここで降参するなら、命だけは助けてあげるよ」


 霊体アルカナは、球弾を飛ばしつつ告げる。


 相も変わらず、拳大サイズの弱っちい球弾だ。


 手数は多いが、一発一発は大した威力じゃねぇ。


(世迷い言だな。降参なんか、するわけねぇだろっ!!)


 ラウラは答える代わりに、はさみを閉じた。


 裁断してやった球弾の数は、おおよそ二十発。

 

 全て貯蓄に回した。たんまり溜まってる状態だ。


「うーん、駄目かぁ。もう少し利口だと思ったんだけどなぁ」


 相手の澄ました顔がよく見える。


 あと一歩ほど踏み込めば、得意の距離。


 しかも、迎撃する様子なし。隙だらけときた。


(誘ってんのか? ……上等だ。乗ってやる)


 罠である可能性は、かなり高い。


 ただ、ここまで来て後退はあり得ねぇ。


 前進一択。罠だとしても、それごとぶち抜く。


「……武装添付(エンチャント)


 ラウラは、溜めたエネルギーを右拳に集中。


 さらに、自分のセンスも重ね合わせ、高める。


 相乗効果は数倍以上。足し算じゃなく、掛け算。


 その集大成が、青鱗の小手に変化し、右腕に装着。


(乗せる……。僕の思い、全部だ……)


 継承戦のことを考えれば、余力を残すべき。


 そんなことは、頭で分かってる。理解してる。


 だけど、ここで手を抜くわけにはいかねぇんだ。


 やらなきゃ女が廃る。命を張るのはここしかねぇ。


「……」


 霊体アルカナは何もせず、ただ見ていた。


 驚いた様子もなく、警戒する様子もなく、傍観。


 まるで他人事のように、ぼーっと眺めているだけだった。


(防御型かカウンター型か、それとも舐めてるのか。いずれにせよ、ぶっ潰す)


 ピキリと額に青筋を浮かべつつ、ラウラは右拳を振りかぶる。


 相手がどうしようが関係なかった。心の内は、すでに決まってる。


一斉総送信オールバーストッッ!!!!」


 ラウラは、青鱗の小手を纏った右拳を振るう。

 

 自身最高威力を誇る必殺の一撃が、解き放たれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ