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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第41話 必殺

挿絵(By みてみん)




 独創世界。街路王。舞台は、夜の凱旋門前。


 霊体ベクターによる能力の発露。心象風景の具現化。

 

 サーラはそれに巻き込まれ、一対一の戦いを強制されていた。


エリーゼ

体力『□□□』

必殺『■』


霊体ベクター

体力『□□□□□□□□□□』

必殺『■■■■■■■■■■』MAX


 こちらの体力は残り三割を切っている。


 敵の体力は満タンな上、必殺が上限に達した。


(はぁ……。こっちは武闘派じゃないんだけどな……)


 サーラは、戦闘は不得意分野だと自覚しながら思考する。


 一度は、前世の記憶を引っ張り出して、八極拳を繰り出せた。


 だけど、あれは多分まぐれ。もう一度やれと言われてもできない。


(あー、本当なら、さっきので死んだようなものだったし、いいや)


 ただ、うだうだ考えていても仕方がない。


 というより、相手は百戦錬磨であろう武道家。


 格闘の分野で戦う以上、まともに向き合えば不利。 


(――直感に従え)


 だとすれば、開き直るしかなかった。


 ゆっくり考えられる時間はないんだから。


 ◇◇◇


 石造りの巨大なアーチ。凱旋門の真下。


 そこには、一人の華奢な少女が立っていた。


 肩にかかる程度の金髪と碧眼。黒のワンピース。


 王位継承順位第五位。エリーゼ・フォン・アーサー。


(……気配が、変わった)

 

 霊体ベクターは対する敵を見ていた。


 相手は目を閉じ、構えすらも解いている。


 あまりにも無防備。あまりにも無警戒すぎる。


(……まさか、無念夢想の境地)


 生前では、体得できなかった武の極致。


 意識を極めた先にある、無意識領域の支配。


 エリーゼは、そこに至ったような錯覚を覚える。


(……いや、あれは、一朝一夕で身につくものではない)


 ただ、すぐに頭を振って否定する。


 あり得ない。あり得えていいわけがない。


 武道は、直感だけで極められるほど浅くはない。


 可能ならば、武へ捧げた時間が無駄だったことになる。


(……我が全身全霊を以て、否定する)


 霊体ベクターは、両手に全センスを集中させる。


 必殺技ゲージは満タン。出力には恩恵が与えられる。


 世界の恩恵を受けたこの技で、倒せなかった敵はいない。


 文字通りの必殺。必ず相手を殺す、必中必殺の理想の具現化。


「デュオ・デュナミス・スェ・ミア」


 霊体ベクターは呪文を唱え、両手を握っていく。


 両手が握り終わった頃には、必殺の一撃が放たれる。


(……息切れの気配はない。……玉鏡星とやらの範囲圏外)


 唯一の懸念は、パオロにかけられたデバフ。


 方向感覚が狂い、体質が使用者と入れ替わる技。


 影響範囲内であれば、技を出せたとしても、不安定。


 体調の悪化はセンスに影響が出やすい。威力は激減する。


 その上で、独創世界は発動できたが、出力重視のこいつは別。


 もし、現実世界に引き戻されたら、失敗に終わる可能性はあった。


(……こいつを破る術はない。……消えてもらおうか)


 ただ、独創世界と現実世界は、別の空間。


 勝敗がつかない限り、世界が閉じる心配はない。


 空間を繋げる技があれば別だが、相手にその術はない。


「……涅槃(ニルヴァーナ)


 淡々と霊体ベクターは両手を握り込んだ。


 若かりし頃に感じた、勝利の熱も渇望もない。


 残ったのは行き場を失ってしまった、殺意と失望。


 強者をこの手で殺した時にのみ、生きた心地を感じる。


 歪んだ性格を自覚しながら、電磁を帯びた竜巻が放たれた。


 ◇◇◇


「ふぅぅ……」


 サーラは目を閉じつつ、息を吐く。


 頭と心を空っぽにして、呼吸に集中する。


 余計なものは見ない。考えない。耳に入れない。


 自分に没頭する。没頭した先にある答えを探し続ける。


(嫌な気配……)


 すると、嫌な風を肌で感じる。


 能力は不明。威力も範囲も分からない。


 分かるのは、敵が必殺技を放ったってことだけ。


 このまま何もしなかったら、殺されるのは、確実だった。


(今までの技は全て通用しないんだろうな……)


 サーラは本能的に技の性質を感じ取る。


 能力を無効にした上での、高出力の竜巻。


 恐らく、センスすらも纏うことはできない。


 二つの性質を併せ持った、二段構えの必殺技。


 攻めも守りもあらゆる事象さえも打ち破る一撃。


(参ったな……。何をしても殺されるじゃん……)


 諦めに近い感情が胸の内で満ちていく。


 今までは追い込まれても、なんとかなった。


 自分の力で、どうにかできる現象ばかりだった。


 だけど、今回ばかりはさすがに厳しいかもしれない。


 威力も能力も規模も桁違いすぎる。対処法が浮かばない。


(まぁでも、悪あがきぐらいはしてあげようかな)


 何の根拠も計画性もなく、サーラは懐に手を伸ばす。


 直感。思いつき。なんでもいい。高尚な理由は必要ない。


 ただ、生きたい。理由はそれで十分。後は思いを乗せるだけ。


「……召喚っ!!!」


 せめて、散り際は明るく元気よく。


 サーラは目を見開き、守護霊を呼んだ。


 背後には、白い装甲を纏った巨腕が現れた。


 不完全な顕現。まだまだ完全顕現には及ばない。


 むしろ、退化してる。前持っていた直剣がなかった。


(これが今の限界か……。情けないけど、受け入れるしかないよね……)


 サーラは全ての力を守護霊に注いだ。


 これ以上は何もできない。任せるしかない。


 守護霊がどうにかしてくれることを祈るしかない。


 霊は基本オート操作だ。人の意思が及ばない領域にある。


 だから、王霊守護符を使った時点で、結果を待つ以外なかった。


「――」


 すると、背後で巨腕が動き出す気配があった。


 恐らく、迫る竜巻に正拳突きをお見舞いするつもりだ。


(最後は、拳で殴るか。シンプルだなぁ。それも、嫌いじゃないけどね……)

 

 頭がふらふらしながら、サーラは思考する。


 センスを注ぎ込んだ弊害。立ち眩みが生じていた。

 

 最悪、見届ける前に、意識が飛んでしまうかもしれない。

 

(あぁ……どうなるかだけ……見届けたかったな……)


 すぐそばには、電磁竜巻が迫っている。


 負けるにしても負けた瞬間を見たかった。


 そう思っていた時、体には違和感が走った。


「……あ、れ?」

 

 胸にぽっかりと穴が開いたような感覚があった。

 

 心が痛い時に、じわじわ感じるようなものじゃない。


 もっと物理的で、もっと直接的で、もっと具体的なもの。


 サーラは、無意識的に胸元を見つめる。じっと観察してみる。


「――――」


 すると、そこには守護霊の太い指があった。


 白いはずなのに、赤く染まっているのが見える。


(あぁ……これは想像できなかったな……)


 起きた現象を理解したと同時に、サーラの意識は飛ぶ。


 この日、エリーゼ・フォン・アーサーは、守護霊に殺された。

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