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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第40話 霊体アルカナ戦①

挿絵(By みてみん)




 分霊室。第三回廊区。怪異の城。吸血鬼の間。


 十二角形の室内には、十二枚の窓が存在している。


 赤いカーテンで閉められる中、一つの窓が開いていた。


 そこでは赤い月の光が差し込み、一人の霊体が照らされる。


「第一王子と第二王子の連合チームがこんなものぉ? 口ほどにもないね」


 霊体アルカナは杖を構えつつ、退屈そうに語る。


 こちらは八人がかりに対して、相手はたったの一人。


 それなのに大半が床に突っ伏し、戦闘不能の状態だった。


「勝手に終わらせんじゃねぇよ、ダボ。勝負はこっからだろうが」


 ラウラは一人立ち上がり、言い放つ。


 体はボロボロ。センスも万全じゃねぇ。


 それでも、戦わなきゃならねぇ時がある。

  

(あの時みたく、指くわえて見てるだけは御免だ……) 


 脳裏には、収容所での記憶が巡る。


 後輩がさらわれて、レイプされかけた。


 動けなかった。この手で助けられなかった。


 くそったれな思い出だ。忘れたい人生の汚点だ。

 

 それをここで、払拭する。後輩も見てることだしな。


「何度やっても無駄だと思うけどなぁ……」


 呆れた様子で霊体アルカナは語る。


 態度も発言も、完全に舐めてやがる。


 負けるとは、微塵も思ってねぇ感じだ。


 実際、聖遺物レリックもセンスも通用しなかった。


 大口を叩けるだけの実力は、確かにあった。


(……こいつを使う気はなかったんだがな)


 ラウラは、懐に手を伸ばす。


 取り出したのはソーイングセット。


 チャックを開いて、中身を物色していく。


「……」


 ラウラが手に取ったのは、裁ちばさみ。


 全長は約20センチほど。携帯性に優れた代物。


 本来の用途は、糸や布地を切り取るために使われる。


 携帯用のため、大きな布を裁断するのには適さない刃渡り。


「まさかとは思うけどさぁ……それで、戦う気だったりする?」


 馬鹿にするように、霊体アルカナは首を傾げている。


(まぁ、この反応も、無理ねぇわな)


 こいつは聖遺物レリックでも邪遺物イヴィルでもねぇ。


 一般家庭に普及する、ただの裁ちばさみだ。


 戦闘仕様でもねぇし、特別な素材も使われてねぇ。


 舐められて当然。ある意味では、想定通りの反応だった。


「御託はいいから、さっさと来いよ。ひよってんのか?」


 ラウラは、裁ちばさみを左手で握り、挑発する。


 その間に、ソーイングセットを懐にしまっていった。


「あぁ、はいはい。それもそうだね……っ!」


 霊体アルカナは杖の先を向け、語る。


 その先端は青い輝きを見せ、放たれる。


 迫ってくるのは、三発の青い球弾だった。


(わざと出力を落とした攻撃で、能力を使わせたら、儲けものか)


 今までの魔術の規模を考えると、お試しコース。


 軌道変化も、性質変化もない、低燃費の通常攻撃だ。

 

 これで相手の能力を探れるのなら、お釣りが返ってくる。


 まともに食らったところで、大した威力はねぇ攻撃のはずだ。


(ご期待のところ悪いが、手札を晒しても、なんの問題もねぇんだよな)


 迫る青い球弾の軌道を見て、ラウラは思考する。


 狙いは胴体。体に接触するまで、あと0.5秒程度。


 握る裁ちばさみにセンスを込め、刃の先を開いた。


切り取り(カット)


 接触する前に、ラウラは青い球弾を裁断する。


 裁ちばさみで両断し、迫る脅威を目の前から排除する。


 これで能力は半分。ただ相手は中身に察しがついているはずだ。


「……なるほどねぇ。君が自信を持つ意味が分かったよ」


 霊体アルカナは察し、次弾を放とうとしている。


 この後の展開に備えて、反撃を用意してるってとこだな。


(お察しの通り、こいつは万能。裁断できると思えるものなら、なんでもやれる)


 ラウラは考えつつ、右手を向け、頭に浮かんだ語句を言い放った。


&貼り付け(アンド・ペースト)っ!!」


 右手から放たれたのは、青い球弾。


 裁断したアルカナが放った瓜二つの弾。


「――」


 アルカナも即座に反撃し、衝突。


 同じ性質を持つ物同士、対消滅を果たす。


「便利な能力だねぇ。一家に一台欲しいぐらいだよ」


 ラウラの能力、『切り取り&貼り付けカット・アンド・ペースト』。


 裁ちばさみで能力を裁断、再利用を可能とする。 


 ネタばらししたところで、損がない万能な能力だった。


「悪いが、僕は物じゃねぇんでな。家庭科の前に、道徳から教えてやんよ!」


 ラウラは、手札を晒した上で、駆けた。


 手助けを期待できない、格上との一対一の勝負。


 昔なら震えが止まらなかったが、今は何も感じなかった。

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