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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第37話 聖騎士との勝負

挿絵(By みてみん)




 第二森林区。西端に位置する場所。


 森は不気味なほど、静まり返っている。


 頭には矢を向けられていて、鬼気迫る状況。


 ひりつくような空気感の中、声が聞こえてきた。


「相変わらず、甘ちゃんだな。……ジェノ・アンダーソン」


 地面に埋まる聖騎士が、初めて声を出す。


 高くもなく低くもない、声変わりした青年の声。


 黄金の兜は雷槌で分解され、その顔が明らかになった。


「パオロ、さん……?」


 ジェノは頭に矢が向けられている状況を忘れ、ぽつりと言う。


 その場にいた全員の視線は、自ずと聖騎士の方へ注がれていった。


「ああ。そのパオロさ。今、お前が思い浮かべたやつとは少し違うがな」


 そこで聖騎士は、開き直ったように名を認める。


(やっぱりか。あの狂戦士の中にいた人と似た原理、なのかな……)


 さっきまで一緒にいたパオロとは、別人。


 それだけは分かるけど、それ以外が分からない。


 襲ってきた理由を予想しようにも、情報が少なすぎた。


「へぇ、中身は落とし子だったわけか。でも、本人じゃないね」


「本物よりも数年、老けているようですね……。どうなさいますか」


 パメラとガルムの関心は聖騎士に向く。


 白き神に操られてる疑惑は、いったん保留。


 ある意味では、彼に助けられた形になっていた。


(いや、ともかく、止めて正解だった……。問題はここからだな……)


 聖騎士とパメラたちの殺し合いは、止められた。


 ただ、これは一時的。まだどちらにも転ぶ状況だ。


 両者を刺激しないように探りを入れないといけない。


「ひとまず、情報収集を優先しようか。指示するまで、手出し無用だよ」

 

 奇しくも、パメラとの意見が一致する。


 喋れるのなら、敵であっても意思疎通は可能。


 問題は、彼から何を聞き出すか。それが重要だった。


「……おいおい、今ので勝ったつもりか? 勝負はまだ終わってない」


 ただ、現場は早くも暗雲が立ち込める。


 聖騎士は地面から勢いよく跳び出し、着地。


 片手に直剣を構え、続きを始めようとしていた。


 ここから、話し合いの展開に持っていくのは、至難。


 失敗すれば、矛先がこちらに向いてしまう危険性もある。

 

(相手の興味を引く一言……。それに賭けるしかない……)


 それでも、ジェノは頭を回す。


 現実を受け止め、前向きに思考する。


 神に操られているのか、本来の自分なのか。


 境界は曖昧だったけど、やることは決まっていた。


「だったら、俺と勝負しませんか。戦う以外の方法で」


 ジェノは考えた末、結論を口にする。


 この後の展開は、そこまで考えていなかった。


 食いつくかもしれないし、止められないかもしれない。


 相手の反応次第で展開が変わる。流れに合わせるしかなかった。


「……その勝負を受けて、僕になんのメリットがある」


 意外にも、聖騎士は話に食いついた。


 裏を返せば、条件次第で受けてくれるはず。


(よし、まずは一歩前進。次は……)


 ジェノは手応えを感じつつ、思考を巡らせていく。


「負けたら、あなたに協力します。その代わり、俺が勝ったら協力してください」


 すかさず、ベットしたのは自らの身柄。


 今、賭けるものといったらそれぐらいだ。


 負けた場合のことを、考える余裕なんてない。


 それよりも、勝負を成立させることが優先だった。


「パメラ様……。やはり、こいつはもう……」


 聖騎士が反応するよりも早く、ガルムが爪を立てる。


 剣呑な空気を発し、襲い掛かる準備は万端って感じだ。


 その体躯は巨大で、今の状態だったらまず勝てない相手。


「手出し無用と言ったよね。それとも、被検体に戻りたいか?」


 ただ、パメラは、強い口調で止めてくれる。


 暴走の危険より、情報収集を優先した形かな。


 ともかく、これなら邪魔されないで済みそうだ。


「メリット自体は悪くない。……ただ、勝負の内容は僕に決めさせろ」


 聖騎士は答え、話が前進するも、すんなりとはいかない。


(口を挟める権利は十分。不安はあるけど、ここは……)


 複雑な心境の中、ジェノは思考を回す。


 ここまでくれば任せてもいいかもしれない。


 勝負の条件は、パオロなら守ってくれるはずだ。


 問題は、勝負の内容。どんな中身を提案してくるか。

 

「分かりました。内容はお任せします。ただし、条件は守ってもらいますよ」


 ジェノは覚悟を決め、話を進める。


 後は待つしかない。引き受けるしかない。


「あぁ、分かってる。僕が提案する勝負は……」


 聖騎士は肩をならしながら、もったぶるように語る。


 そのほんの一瞬。まばたきをした瞬間、彼は消えていた。


(あれ、どこに……)


 そんな時、体は妙な浮遊感があった。


 実際には浮いてない。気を抜いた時と似た感じ。

 

「殺し合いだ。僕とお前のなぁ……っ!!!」


 その間隙を聖騎士パオロは剣で切り裂いた。


 体は袈裟懸けに裂け、血の飛沫があふれ出ていく。


 状況を受け止める余裕がない。ただ、膝は崩れ、倒れた。


 地面に自分の血の池ができて、温かくて、冷たい感触があった。


 徐々に心臓の鼓動は弱まっていき、目の前が真っ黒に染まっていった。


「………………な、んで」


 勝負は殺し合い。それが急に始まって、急に終わる。


 ジェノ・アンダーソンは、この日、二度目の死を迎えた。

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