第33話 七星螳螂拳
第二森林区。中央北に位置する場所。
そこで立ち合うのは、パオロと武道家。
その様子を遠巻きで、サーラが見ている。
(妹が見てる前では、負けられないな……)
パオロは視線を受け、意気込みを改める。
組織に入った動機は、妹を捜すためだった。
そのために任務をこなし、ヒントを回収した。
9月1日にミュンヘン空港から指定した便に乗れ。
結果、記憶を失っている状態だったが、出会えた。
念願は叶った。次は、その先に進まないといけない。
「はぁ……ふぅ……」
パオロは肺に空気を送り、呼吸を整える。
『……鍛錬不足のように見える。……武術は本域ではないか?』
その間に、武道家が言い放った言葉が頭を巡る。
(勝手なことを言ってくれる。体質を見抜けない男が、武を語るな)
こっちは、肺が弱いという体質がある。
激しい運動は適していないし、向いていない。
だからあえて、武術を習得した。弱点と向き合った。
相手は知らない。分かったような口を叩き、武を否定した。
(とはいえ、一発も当てられてないのも事実。ここらが、腕の見せ所だな)
パオロが習得した武術は、七星螳螂拳。
俊敏な動きと、連続技が特徴的な中国武術の一つ。
カマキリのように脱力した腕で相手を崩し、攻めるのが基本。
「七星螳螂拳【玉鏡星】」
これは、その発展系。
センスを交えた、武術の本域。
パオロは緑色のセンスを纏い、仕掛ける。
螳螂手と呼ばれる脱力した右腕を、敵に伸ばした。
「……」
対する坊主頭の武道家は、右拳で突きを放つ。
伸びる腕を回避不能と判断したのか、迎撃していた。
拳には赤いセンスを集中させ、警戒度の高さがうかがえる。
(かかった……っ!)
必然的に互いのセンスとセンスが、密着で触れ合う。
それが能力の発動条件。武術の表層を警戒した敵の落ち度。
「…………??」
武道家の困惑したような表情が見える。
起こった現象を受け止められていなかった。
「――ッッ!!!」
パオロはすかさず、叩き込む。
拳の連打を主体とした、怒涛の四連撃。
最後に顎を蹴り上げ、互いの距離は大きく離れた。
(さて、まずは五発。ここからは、僕のペースだ)
相手は強い。今ので倒せるとは微塵も思ってない。
パオロに慢心はなく、受け身を取った敵だけを見ていた。




