表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/156

第32話 仲裁

挿絵(By みてみん)




 

 第二森林区。西端に位置する場所。


 目の前には、巨大狼と化したガルムが駆ける。


 その先には、黄金の鎧を纏う聖騎士が剣を上段に構える。


 接敵寸前の状況。何もしなければ決着がつく、一足一刀の間合いだ。


(いいのか、見ているだけで……)


 ジェノは圧縮された時間の中で、胸騒ぎを覚えていた。


 一枚ずつコマが切り取られたように、ゆっくりと時は進む。


(間に合うはずだ。今なら、まだ……)


 ガルムを止める手段はいくつか思い浮かぶ。


 問題は、そこまでする必要があるのかどうか。


 利用価値がないなら、介入する必要なんてない。


(あぁ、理由は後から考えろ……。今は直感に従え!)


 流れる冷たい思考を払い、ジェノは覚悟を決める。


 本格的に戦闘には参加できない。体が恐らく持たない。


 そもそも、移動して戦う前提だと、物理的に間に合わない。


「――」


 そこで取り出したのは、〝悪魔の右手〟。


 血と生体電気を媒介に、発するのは赤い光。


 物質分解能力があり、射程は右手が届く距離。


 本来なら届かないけど、狂戦士戦で見せた輝き。


 赤い雷光なら、センスを代償にして射程が伸びる。


 初速は雷と同じ。今からでも介入できるほどの速さ。


 ただ、操作精度が甘くて、飛ばすだけで精一杯だった。


 だから、初速で間に合っても、二人を止められはしない。


 止めるためには、変化が必要。成長が不可欠。改善が必須。


(問題は山積み……。だけど、アレをイメージすれば……っ!)


 意思の力の基本は、できると思えばできる。


 お手本を目にすれば、成功率は飛躍的に向上する。


 空中歩行の時がそうだった。成功事例を見たからできた。


 今回も同じようにすればいい。すでに、お手本は観測している。


「――意心伝雷マインドボルト


 イメージを可視化するため、言葉を口にする。


 ジェノは放つ前から、手応えと成功を確信していた。


 同時に理解する。自分自身で編み出した、初の独自技オリジナルだと。


「「―――」」


 その間にも、ガルムは両爪を振るい、聖騎士は剣を振り下ろす。


 そこに入り込んだのは、赤い雷光。両者は意に介さず、立ち合いを続ける。


(……こうして、こうっ!!)


 お手本は、パメラが放ち、意のままに操っていた木の矢。


 同じことをすればいい。他人が出来るなら、自分もできる。


 赤い雷光は、聖騎士の上空で姿形を変え、妄想を具現化する。


雷霆の鉄槌(トールハンマー)っ!」


 生じたのは、赤い雷を纏うハンマー。

 

 赤い雷光で接点を繋ぎ合わせ、作られた。


 本来なら質量がない。中身のない張りぼてだ。


 ただジェノは、成功を確信して、槌を振り下ろす。


 張りぼての表面をそのまま、聖騎士の兜に叩きつける。


 ただ、このままだと外れる。頭を接触面がすり抜ける瞬間。


「……ッ!!!?」


 突如、稲光が走り、兜に直撃する。


 質量を持たないはずのハンマーの接触。


 雷は金属に集まりやすいという迷信の利用。


 ジェノは、誤ったイメージを逆手に取っていた。


 結果、鎧兜を分解し、聖騎士を地面にめり込ませる。


 自ずと両者の攻撃は空振り、思い通りの展開が実現した。


(やった! 上手くいった!)


 ジェノは、それらを全て無意識下で処理する。


 自分自身を騙せるほどの想像力が成せる、離れ業。


 本人は、難易度と自由度の高さに気付いていなかった。


「……」


 空振りに終わったガルムは、数メートル先で着地。


 それと同時に、ぐぐぐっと大腿に力を込めるのが見える。


(待って……これって……)


 嫌な想像が膨らみ、背筋がぞっとする。


 ガルムは、攻撃を邪魔されたと思ってる。


 白き神に操られた可能性も頭にあるはずだ。


 近くには、彼の主人であるパメラの姿がある。


 そうなれば、どうするか。容易に想像がついた。


「――」


 瞬間、巨大狼は地面を蹴って、驀進。


 聖騎士に目もくれず、一直線にこちらへ迫る。


(もう一度アレを……。いや、間に合わ――)


 成功して、気が緩んでいた隙をつかれた。


 自ずと体の反応が遅れてしまっているのを悟る。


「――ッッ」


 すかさず、迫ってくるのは巨大な牙。回避不能の必殺。


 動く暇も考える暇も避ける暇もなく、急速に死に近づいていた。


「ガルム、お座り」


 そこに響いたのは、パメラの言葉だった。


 直後、ガルムの動きは止まり、地面に着地。


 強制的なお座りが、主により行使されていた。


(たす、かった……)


 何度目か分からない、死の気配と、そこからの脱却。


 パメラには、間接的とはいえ二度も助けられたことになる。


「念のため聞かせてもらうけど、まだ正気は残ってるんだよね?」


 しかし、まだ安心するのは早かった。


 パメラは大弓に矢を番え、頭を狙っている。


(そうか……。まずは、誤解を解かないと……)


 すぐに状況を察し、言葉を探す。


 あまり長ったらしい言い訳は逆効果。


 短い言葉で、的確に伝えないといけない。


「まだ狂ってません。聖騎士の正体を確かめたくなったんです」


 とにかく、ここは誠心誠意、本当のことを伝える。


 嘘はつけないし、それ以外の手段は今のところ考えられない。


(これで、大丈夫だよな……?)


 矢が引かれているのを目視しながら、対応を待つ。


 パメラが何かを口にしようとした時、それは起こった。


「くく……っ、はははは……っ」


 聞こえてきたのは、笑い声だった。

 

 もちろんパメラが発したものじゃない。


 その背後。それも聞き覚えのある声だった。


 本物より声色が低い気がしたけど、間違いない。


(嘘……。この声って……)


 パメラが正面に立っているせいで、見えない。


 だけど、確かに聖騎士が埋まる方向から聞こえた。


 パメラは後ろを振り返り、視線は聖騎士に向けられる。


 彼女が動いた隙間から、埋まっている聖騎士の顔が見えた。


「相変わらず、甘ちゃんだな。……ジェノ・アンダーソン」


 短い金髪に碧眼の少年ではなく、青年。


 十代後半から二十代前半の容姿をした男性。


 挑発的で、人を見下すような態度を見せている。


 初めて、出会った頃と同じような対応。関係の逆行。


 聖騎士の正体は、大人になったパオロ・アーサーだった。




開始地点 中央北→西端に修正しました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ