表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/156

第31話 怪異の城③

挿絵(By みてみん)




 怪異の城。最上階。国章扉前、廊下。


 窓のない廊下にある、ろうそくの灯が揺れる。


 語られたのは、王室の先祖。純血異世界人の三つの説。


 エルフの一族。退魔の一族。そして、魔族とその詳細について。


「じゃあ、奥にいる敵は、先祖が使役するペットってわけか……?」


 ラウラは詳細を聞いた上で、状況を察する。


 魔族は魔を使役する者。怪異や魔物を操れる。


 だとすれば、敵の背景は、自ずと予想がついた。


「恐らくな。先祖を魔族と断定するなら『眷属』という表現が正しいが」


 ミネルバは肯定した上で、内容を一部修正する。


 呼び方はなんでもいいが、王室の思惑が見えてきた。


 怪異にしろ、眷属にしろ、使役するためには調伏は必須。


 戦って、相手に力を示すことで、協力を得られるのが一般的。


(あぁ……。継承戦って、そういうことかよ……)


 継承戦の真の目的は、先祖が実力で使役していた眷属との力比べ。


 その程度の相手に負けるような雑魚王子を、口減らしするための儀式。


 ひいては、眷属を継承できる実力があるか。それを、見極めるための試験。


「王位にふさわしいのは、王じゃなく、魔王ってか……。笑えねぇ……」


 ラウラは、今までの意見をまとめ、結論を出す。


 確証はないが、現時点では一番可能性の高い説だった。


「その認識で合ってると思うよ。真実は初代に聞かないと分からないけどねぇ」


 当事者の一人であるアルカナが同意し、信憑性が高まる。


 この様子だと、現国王からは何も聞かされてねぇみたいだな。


 継承戦をフェアに行うために、事前には知らせないっつう形式か。


(きな臭ぇ……。感覚的には、もう一波乱あるって感じだな……)


 説は十分理解できたし、詳細も見えてきた。


 ただ、スッキリしたような感じは一切なかった。


 むしろ、引っかかる。別の陰謀が渦巻いてる印象だ。


 それを全員が感じ取っているのか、場には静寂が訪れる。


「はい、議論終了っす。……奥の相手を倒す。今はそれだけ考えるっすよ」


 そこで響いたのは、パンと手を叩いた音と、メリッサの声。


 絶妙なタイミングで入れ込んだことで、嫌な空気は払拭された。


(まぁ、深く考え込んでも、仕方ねぇか)


 その言葉に全員が前を向き、現時点での目標は一つに絞られる。


 メリッサに仕切られるのは癪だが、士気が上がるならなんでもいい。


「その通りだな。気を引き締めて、勝つぞ!」


「ついて来れないなら、置いていくからねぇ」


 ミネルバとアルカナは声を張り、扉に手をかけた。


 ◇◇◇


 二人の王子と一行は決意を固め、城の終点に迫る。


 重々しい扉を開いた先には、一つの棺桶が置かれていた。

 

 棺桶の蓋はすでに開かれていて、ただならぬ気配が漂っている。


 室内は暗く、部屋の構造を把握するのも、敵を探るのも目視では困難。


「……来る」


「いるねぇ」


 ただ二人の王子は感覚的に気付き、構える。


 ミネルバは大剣。アルカナは王霊守護符を持つ。


 終点を察し、事前に部屋ごとに交代する縛りは解除。


 ここにきて、両陣営で初の共闘が行われようとしていた。


「そこ……っ!」


「召喚……っ!」


 二人は振り返り、背後を攻撃する。


 大剣が空を薙ぎ、赤鳥が風を巻き起こす。


 両陣営の侍従たちは察知していて、左右に回避。


 全員がセンスを纏って、部屋が明るく照らされていく。


「――」

 

 見えたのは、黒いマントを羽織る男。

 

 髪は白でオールバック。背は190cm程度。

 

 犬歯は鋭利に尖り、紫色の肌が特徴の化け物。


 怪異の王。吸血鬼。終点を飾るには遜色ない相手。


 二人の狙いは、正しかった。適切な先手を打っていた。


「「……っ!!?」」


 しかし、大剣は右手で折られ、赤鳥は左手で握りつぶされる。


 一瞬にして、互いの得物を破壊できるほどの力を発揮していた。


 しかも、能力を行使していない。単純なフィジカルで起きた現象。 

 

((レベルが違う……))


 ミネルバとアルカナは、同時に悟る。


 直に接したからこそ理解できてしまう。


 圧倒的なまでの実力差がそこにはあった。


「――」


 男は不気味な笑みを浮かべ、臨戦態勢に入る。


 このままでは全滅する。室内の全員が感じていた。


「おいミネルバ、指示を出せ!!!」


 ラウラは声を上げ、要求する。


 両陣営の指揮権は、王子が有する。


 一度は、命令を催促する決まりだった。


「あ、あぁ……」


「ぼ、僕の、守護霊がぁ……」


 しかし、二人の王子は心が折れてしまっている。


 頼りにしていた得物を一瞬で葬られ、戦意を喪失している。


「腰抜けが! 二人を救うぞ!!」


 ラウラは思考を切り替え、指示を飛ばす。


 同時に侍従たちは王子の方に向かい、駆けた。


「――――」


 その間にも、吸血鬼は指先を伸ばし、突くように両手を迫らせる。


 狙いは、両王子の胸元。無防備な人間なら、容易く貫ける威力を誇る。


(ちっ……。間に合わねぇ……)

 

 ラウラは全力で地面を駆けるも、物理的な距離が遠い。


 このままでは殺される。王位継承戦どころではなくなる。


 接敵してたった数秒で、両陣営全滅の危機に直面していた。


(どうする……。王子は諦めて、次の手を打つか……)


 冷たい思考が、ラウラの頭に満ちていく。


 打算的で、人情味の欠片もない短絡的な考え。


 ただそれが、一番現実的であり効率的でもあった。


「……っ」


 ラウラは歯を食い縛り、懐に手を伸ばす。


 他の侍従は諦めないのに対し、足を止めていた。


(あぁ……これで合ってんのか分かんねぇ……っ!!)


 自己嫌悪しながら、ラウラは懐から青色の蛇を取り出す。


 聖遺物レリック。人の魂が宿り、異能の力を秘めた意思を持つ物質。


 能力を引き出すには詠唱が必要。助けてからだと後手に回る。


 そう判断した上での行動。現場を一番に考えた、合理的な選択。


「邪を以て邪を禁じ、毒を以て毒を制し――」


 ラウラは、聖遺物レリックの起動詠唱を始める。


 自分の選択を信じながら、王子を見捨てる。


(すまねぇ……。この過ちは、勝って償う……っ!)


 罪悪感を覚えながら、ラウラは次の語句に集中した。


「……ッッッ!!!??」


 瞬間、バリンという音が鳴り、吸血鬼は青い炎に包まれる。


 両手で頭を抱えて悶え苦しんでいて、王子への攻撃は止まった。


(あ……? 何が起こった?)


 ラウラは詠唱を止め、辺りを見渡す。


 ダヴィデと広島が二人の王子を救出する。


 アミ、ソフィア、メリッサは臨戦態勢に入る。


 視線は吸血鬼ではなく、その奥側に注がれていた。


「……破邪顕正ヴィア・クルシス


 直後、苦しむ吸血鬼の背後から聞こえてきたのは、短文詠唱。


 突如として、宙には無数の白い十字架が出現。吸血鬼に降り注ぐ。


 無慈悲なる光の鉄槌が、再生する皮膚を焼き、穢れた魂を浄化させる。

 

「――――――ァァァァァアアアア……ッ!!!」


 怪異らしい断末魔を上げ、吸血鬼は消滅。


 王子連合はあっけにとられ、呆然としていた。


(なんだ、これ……。どうなってやがるんだ……)


 息のつく暇もない、怒涛の展開。


 ラウラは確かに度肝を抜かれていた。


 他の侍従も驚きを隠せず、停止していた。


 ただすぐに全員が、光を上回る異常に気付く。

 

「やあ。遅かったねぇ。待ちくたびれたよ、過去の僕」


 背丈は129cmほど。青と黒のローブ服に、木彫りの両手杖。


 両目には黒縁の眼鏡をかけ、目を細めながら、一行を見る存在。


 アルカナ・フォン・アーサーと瓜二つの存在がそこには立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ