第29話 怪異の城①
分霊室。第三回廊区。イギリスの国章が描かれた扉の中。
その先は、見知らぬ城内に繋がり、化け物が溢れ返っていた。
現れた敵は、コウモリ、メデューサ、ミイラ男、フランケンなど。
まるで、怪異の城だ。上階に進もうとするほど敵の強さは増していく。
ただ、連合のおかげか、攻略は思いのほか順調に進み、手応え的には終盤。
「はぁぁぁっ!」
ミネルバは叫び、フランケンが真っ二つになる。
大剣による一刀両断。有無を言わせぬ、力技だった。
それにより、奥の扉が開いて、上階に続く階段が見えた。
今いる部屋は大食堂。中央に食卓と、囲うように椅子が並ぶ。
白いテーブルクロスの上に、銀製のナイフやフォークや皿がある。
皿の上には人間の頭蓋骨があり、とても趣味がいいとは思えなかった。
室内は薄暗かったが、目減りしないろうそくが辺りを照らしてくれている。
「さすがだな。……ただ、いいのか? あれから一度も守護霊使ってねぇだろ」
フランケンを一瞥しつつ、声をかけてきたのはラウラだった。
ここまで大剣で押し切った。守護霊の成長を考えての発言だろう。
(正論だな。頭では分かっている。分かってはいるが……)
脳裏に浮かぶのは、負傷したラウラの姿。
あの悪いイメージがどうしても抜け落ちない。
守護霊を使わなければ、起きなかった事故だった。
「さっきのを引きずってんなら、やめろよ。余計なお世話だ」
沈黙から心情を気取られたのか、ラウラは一方的に告げる。
実際、図星だった。一言一句、的確にひよった心を刺してくる。
(継承戦を優先するか、仲間を優先するか……)
目の前にあるのは、二択だった。
現在は、五対五という配分で戦っている。
ただ、この先のことを考えると、必ず偏りが出る。
敵の強さが増す以上、今の配分で戦える余裕はきっとない。
(王を目指すなら侍従は使い捨てろ。そういう趣旨か……)
継承戦の侍従は、外部から選ばないといけない仕様だった。
内部から選べないようにしたのは、捨て駒の扱いを覚えるため。
付き合いの長い者は情に流されやすいが、短い付き合いの者は別だ。
継承戦を口実に切り捨てやすい。そう考えれば、システムに納得がいく。
パメラの侍従は例外に近いが、準備期間内に用意できた外部の人間でもある。
(選ぶなら、早いうちが得策か)
連携を取るためにも、指針を決めるのは重要。
どちらつかずは、この先で全滅を招く恐れがある。
決めるのなら、今がちょうどいい頃合いかもしれない。
「――私はアレを二度と使わん。人命を最優先とする」
ミネルバは逡巡の末、答えを出す。
民を蔑ろにする者は、王になる資格はない。
ここにきてようやく、自分を掴めたような気がした。
◇◇◇
怪異の城。大食堂。食卓の隅。
そこにはアルカナ一行が立っていた。
このフロアでの戦いは、見守っていた形だ。
共闘は窮地の場合のみ。それまで部屋ごとに交代。
そういうルールを設けていて、律儀に守ってあげていた。
互いに経験値を稼ぐ必要もあるから、賢い作戦だと思っていた。
「馬鹿だなぁ。そんな甘ったるいこと言える状況じゃないのに」
アルカナは、ミネルバの発言を聞き、感想を漏らす。
相手は、姉にあたる存在。曲がりなりにも敬意はあった。
でも、今ので幻滅しちゃったな。底が見えたと言ってもいい。
「だったら、あんたはどういう方針で先に進むんすか?」
合いの手を挟んだのは、隣に立つメリッサだった。
敬っているようで、全く敬ってない態度を見せている。
最初は違和感があったけど、今ではもう慣れたものだった。
むしろ、この不遜な口調が逆に心地よく感じてしまうぐらいだ。
「王になるためなら、僕は喜んで君たちを切り捨てるよ。覚悟はしててね」
だけど、継承戦には必要のない感情だ。
第一王子のように、人名を優先し過ぎない。
第三王子のように、自分だけを優先し過ぎない。
第四王子のように、継承戦以外の謀略は巡らせない。
侍従を捨て駒にしても、勝つ。それがあるべき王の姿だ。




