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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第28話 本域

挿絵(By みてみん)



 

 分霊室。第二森林区。中央北に位置する場所。


 拳と蹴りが高速で繰り出され、空を切り続ける。


 パオロが一方的に攻め、武道家が避け続ける展開。


 荒い呼吸音が聞こえ始め、やがて二人は距離を取る。


「……はぁ、はぁっ」


「…………………………」


 息を切らしているのはパオロだった。


 それに対し、武道家は息を切らしてない。


(あれだけ威勢が良かったのに、もう息切れ……?)


 サーラは少し離れた位置で、それを見ていた。


 正直、接近戦は不得意。語れるほどの知識はない。


 ただ、素人目で見ても、パオロが劣勢のように思えた。


「……鍛錬不足のように見える。……武術は本域ではないか?」


 武道家は涼しい顔をして、欠点を指摘する。


 霊体の体力が無尽蔵なだけなのか、鍛錬の差なのか。


 どちらにせよ、専門家っぽい人が言うなら現実味を帯びてくる。

 

(もしかして、あの人、弱い?)


 パオロの戦闘力は、どれほどのものか分からない。


 達人の域かもしれないし、組織の上澄みかもしれない。


 だけど、武道家と比べれば、相対的にパオロが弱く見える。


 ハッキリ言って、ここから逆転できるビジョンが見えなかった。


「……安心してくれ。広東省で叩きこまれた、七星螳螂拳(しちせいとうろうけん)。ここからが本域だ」


 対し、パオロは両腕をカマキリのように構え、言った。


 広東省と言えば、中国。武術の本場で習った格闘スタイル。


 さっきよりかは期待できそうだったけど、同時に不安もあった。


(口だけじゃないといいけど……)


 さっきも威勢のいいことを言って、息切れしていた。 


 今度も同じ末路を辿り、あっけなく負けるんじゃないか。


 気が気じゃない気持ちで、サーラは戦いの行く末を見守った。


 ◇◇◇


 分霊室。第二森林区。西端に位置する場所。


 矢が飛び交い、爪が空を裂き、剣が地を砕く。

 

 第四王子パメラと狼男ガルム対聖騎士との戦闘。


(抑えろ……。今は、その時じゃない……)


 ジェノは、疼く体を抑えつつ、戦況を観察していた。


 注視するのは、パメラの大弓から放たれた一本の木の矢。


 普通の矢なら、避けられたら終わり。新しい矢が必要になる。


(……あの矢。意思の力で操作できるのか)


 誘導ミサイルのように、矢は標的を追尾し続ける。


 それに加えて、迫る斬撃を回避しているようにも見える。


 予備動作を察知し、意思の力で操っているとしか思えなかった。


「次で仕留めるよ、ガルム」


「……承知、いたしました」


 パメラが声をかけ、ガルムは剣を避け、大きく後退。


 何か技を放とうとする前触れ。決着がつきそうな空気感。


 二人とも落ち着いていて、一切の油断も慢心も感じられない。


(これで、二人の実力が分かる……)


 こっちは、エリーゼ陣営から離れるリスクを背負った。


 並の実力じゃ困る。アレを難なく倒せるぐらいが望ましい。


 離れて良かったと言い切れるぐらいの、本領を発揮して欲しい。


「……遺伝子増幅ジーン・エンハンスメント


 パメラがガルムの肩に手を置き、センスを送る。


 それにより、ガルムの骨格と筋肉が膨張し、体積が増える。


 元の180cm程度の身長から、約三倍ほどの大きさの黒狼に至っている。


(第三者の肉体改造……。シンプルだけど、強いな……)


 恐らく、パメラの系統は肉体系。


 一目で、彼女の能力の本質が理解できた。


 デカければ強い。これなら、期待できそうだった。


「……ハァァ」


 ガルムは膨れ上がった肉体で、四足歩行になる。


 荒々しい息を吐き、巨大な大腿に力を込めていく。


 ただでさえ太い両脚が、さらに大きく膨れ上がった。


 それで、地面を強く踏み込み、前屈態勢になっている。


 筋肉は膨張をし続け、今か今かと、解放される時を待つ。


跳狼跋扈ちょうろうばっこしょう】」


 そして、膨張が限界に達した瞬間、ガルムは駆けた。


 黒い毛並みが風になびき、黄色の眼光が高速で過ぎ去る。


 あの巨躯を完全に制御して、目で追い切れない速さに至った。


 巨躯、膂力、脚力、理性。全てを兼ね備えた狼男としての理想系。


 滅多にはお目にかかれない、能力と能力の連携。重ね掛け。相乗効果。


 昔だったら、この展開にテンションが上がっていただろうけど、今は違う。


(もし、あの鎧の中身が知っている人だったら、どうしよう……)


 ジェノが思うのは、敵対している相手。聖騎士の心配。


 狂戦士とルーカスが一緒だった時と、似た可能性を危惧していた。

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