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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第25話 板挟み

挿絵(By みてみん)



 

 第二森林区。南西に位置する場所。


 森が不自然に揺らいでいるように感じる。


 眼前に立ち塞がるのは、リーチェと名乗る少女。


 霊体であり、続柄は初代王の娘。実力は折り紙付きだ。


(センスは残り三割程度……。騙し騙しやるしかないな……)


 疲弊した顔を見せるベクターは冷静に分析し、状況を受け入れる。


 勝利条件は、顔に一発入れること。敗北条件は、顔に一発入れられること。


「よく聞け……お嬢の回転が加わった攻撃は、必ず避けろ」


 少女の素性を知るルーカスの助言から、組手は始まる。


 恐らく、彼女の能力。詳細は回転が加わった攻撃の強化。


 だとすれば、シンプルゆえに強い。系統は肉体系だろうな。


 相対するベクターは、豊富な戦闘経験から仮説を立てていた。


「さーて。まずは小手調べ」


 霊体リーチェは、左足を軸にくるりと体を回転させる。


 ルーカスの忠告通りの攻撃。回転を入れ込んだ、回し蹴り。


(速度は並み……。センスは微弱……。手を抜いてるな……)


 迫る蹴りを、ベクターは目で捉えていた。


 狙いは頭。首を逸らせば、難なく避けられる。

 

 能力発動を考慮すれば、受けるわけにはいかない。 


 それに、連戦が続いて、センスの浪費は避けたい状況。


 回避一択。合理的に考えれば、それ以外の行動はなかった。


(舐めやがって……。こっちにも意地ってもんがある……)


 これは、タイマンじゃない。


 負けてもプライドは傷つかない。


 そう思っていたが、違ったみたいだ。


「へぇ……。面白いね、君」


 聞こえてきたのは、敵への賛辞だった。


 迫った蹴りは引っ込み、相手は後退していく。


「お嬢が、引いた……っ!? お前、何をやった?」


 横で見ていたルーカスは、理解が追いついていない様子。 


 旧知の仲だか知らんが、信を置きすぎて、盲目になっている。


 相手の力をリスペクトしすぎるがゆえに、欠点に気付いていない。


「縛りには必ず穴がある……。回転が条件なら、回転軸が弱点だ……」


 長々と話す時間はない。簡潔に分析結果を伝える。


 この情報で、今の攻防が理解できなければ、頭打ちだ。


 成長の見込みはない。こいつは捨てて、一人でやってやる。


「……そうか。カウンターで軸足を狙って、お嬢が引いたのか」


 ルーカスは、そこでようやく理解する。


 さっきは、相手の軸足に足払いを放った。


 結果、避けられたが、収穫もあったわけだ。


 及第点だな。これなら共闘してやってもいい。


「よく気付いたね。……でも、これなら」


 敵は跳躍し、木の上に立っている。

 

 両指には、木の枝を大量に挟んでいた。


(おいおいおい……)


 血の気が引いていくのが分かる。


 もし、枝全てに回転が乗るなら、欠点は。


「どうかな!」


 考え終わるよりも早く、敵は両手を振り下ろす。


 直後、無数の木の枝が、直上から降り注いできた。


 木の枝自体は問題ない。問題は能力が乗るかどうか。


(全ては対処しきれない……。それなら……)


 ベクターは被弾覚悟で待ち構える。


 急所の一撃だけを避け、受けてやる。


 致命傷さえ避ければ、問題ないはずだ。


 能力が乗るとしても、センスで防御する。


「馬鹿、野郎……っ! 避けろつったろ!!」


 ルーカスの声が聞こえた瞬間、体は浮き、弾かれた。


 明後日の方向に否応なく飛ばされ、回避した形になる。


 その後、無数の木の枝が立っていた地面を貫いていった。


 受けていれば、急所じゃなくとも致命傷になり得る一撃だ。


(磁力の反発……。そういう使い方もできるのか……)


 ただ、ベクターの関心は他にあった。


 ルーカスに直接運ばれたわけじゃない。


 手や足で触れられず、体が浮き上がった。


 軽い念力で体を吹き飛ばされたイメージだ。


 人間の磁力は微弱だが、想像で補えるらしい。


 というのも、体内の六割を占める水分は反磁性。


 強い磁力に反発する性質を微弱だが、持っている。


 本来なら不可能のところを、意思の力で可能にした。 


 〝幻想の左足〟という名前から考えても、間違いない。


「さっきの技……もう一度やれるか……?」


 感謝する時間すら惜しい。


 ベクターは、淡々と問いかける。


 それはタイマンをしない前提の話だった。


 関係の浅いこいつを、認めつつあるのかもしれない。


「分かんねぇ。直感的にやったんだ。できる保証はねぇな」


 驚いた。知識もなく、感覚的にやったのか。


 追い込まれてから、真価を発揮するタイプだな。


 タイマンでは、その片鱗はなかったが、開花したか。


 いや、それより問題は、あの霊体女をいかに倒すかだな。


(一か八か……。他人に命を任せるのはあり得ないが……)


 今の一撃で、回転の威力は十分理解した。


 一対一で、正面から戦うには、身に余る相手。


 かといって、直感頼りの技に身を任せるのは博打。


 タイマンに心中してやるか、信念を曲げて共闘するか。


 今はその中間地点にいる。どちらを選ぶか、試されている。


「次弾装填完了。その様子なら、私の敵じゃなさそうね」


 そこで、霊体リーチェは、両指に木の枝を挟む。


 恐らく、手傷を負わせ、隙を作り、顔を狙ってくる。


 不利になる近距離戦を避け、中遠距離で詰めてくる戦法。


 二対一の状況なら、理想とも言えるような立ち回り方だった。


(理に適った戦法の上、能力も厄介……。一方、こっちは万全じゃない……)


 奇跡的に手傷はなかったが、それでも、センスの消耗は激しい。


 回転が加わった木の枝をかいくぐり、勝利条件を満たすのは困難。


「あぁ、くそ……っ! 合図したら、俺をあいつの方に飛ばせ! いいな!?」


 タイマンの状況でないにもかかわらず、感情が乗る。


 危機的状況と圧倒的強者を前に、心が昂ぶるのを感じる。


 ただ、この感情を受け止める時間も、分析できる時間もない。 


 共通した敵を倒す。それ以外に思考できる余地は残ってなかった。


「……お、おうよ。自信はないが、やってやる!」

 

 一方で、ルーカスは若干、困惑気味だった。


 言葉通り、できるかどうかは不明といった様子。


(焼きが回ったな……こんなやつを信用するなんて……) 


 ただ、自分で決断した以上、変えられない。


 ここまで啖呵を切って、引っ込みがつくわけもない。


「これで決めてあげる!」


「今だ……。やれ……っ!」


 木の枝が飛来し、ベクターの体は反発する。


 最悪の結果は免れたが、反発した上でも、まだまだ博打。


 堅実な戦法か、一か八かの戦法か。手札を切るのは、ここからだった。

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