第23話 連合
分霊室。第三回廊区。
踏み入れたのは、ラウラ。
広がるのは、白い回廊だった。
長い一本道に、無数の扉が連なる。
天井には、明かりもあるし、暗くない。
光源は発光する鉱石。天井に埋まっている。
天井の高さは、無駄に高く、数百メートル規模。
一方、回廊の道幅は狭く、四人分が限度ってところ。
扉は時代感が異なり、古臭いのと、真新しいのが混ざる。
「一応、問題なし、か……。入っていいぞ……」
両開きの門扉を開き、ラウラは声をかける。
門扉は第二森林区に繋がる大門と連動している。
奥には、第一王子と第二王子。その配下たちがいた。
順当にいけば、順路だろうが、罠の危険性も十分あった。
先に何があるのか分からない以上、斥候を申し出た形だった。
「うわっ、眩しっ。影が濃い方が好みだったんすけどね」
手で庇を作り、眩しがるのはメリッサだった。
予想通りというか、昔と変わってないというか。
こいつとは、同じ死刑囚で、同じ牢屋の中にいた。
当時は色々あったが、勝手知ったる仲というやつだ。
「第三回廊区……。噂には聞いていたが、奇妙な空間だな」
次に感想を漏らしたのは、ミネルバ。
背負った大剣から手を放しつつ、反応する。
察するに、ここの詳細は知らされてねぇみたいだ。
第一王子が知らされてねぇなら、他の王子も同様のはず。
「時代感が違う扉が複数あるね。どこに繋がってるのかなぁ」
第二王子のアルカナは、扉の違和感に気付く。
予想してる時点で、知らないのは、ほぼ確定だ。
王子による情報格差は、現時点ではなさそうだな。
嘘をついてる可能性もあるが、気にしても仕方ねぇ。
「これは、戦獄時代の将軍家の紋様ですね……」
「片っ端から、いらうってわけにもいかんね……」
丁寧な口調で話すのはアミで、方言が強い方が広島だ。
いらうの意味は、広島弁で、いじるとか触るだったはず。
ややこいが、広島出身の広島弁で広島という名の女らしい。
(臥龍岡アミと毛利広島……。帝国でジェノと一緒にいたやつだな……)
この二人はアルカナ陣営であり、帝国出身だ。
隠密部隊『滅葬志士』に属し、棟梁の地位につく。
総棟梁が頭で、各都道府県の隊長格が棟梁って形だな。
直接、手合わせしたことはなかったが、実力は確かだろう。
(しっかし、こいつメリッサに顔も声も似てるな。姉妹か……?)
ラウラが視線を向けたのは、アミだった。
紫色の髪と、ナガオカという名字までもが一緒。
口調と服装と髪型が違うが、それ以外は同じに見えた。
「ダヴィちゃん見てみて! ホワイトハウスの扉だよ!」
次に反応を示したのは、ミネルバ陣営の侍従の一人。
長くスラッとした高身長の体に似合う、黒スーツ姿の女。
緋色の髪に蒼色の瞳、長い髪をポニーテールにしたソフィア。
前髪を横に流し、左目が隠れ、後ろ髪を黒色のシュシュで留める。
後から聞いたが、こいつはどうやら『ブラックスワン』の所属らしい。
先輩なのは確定で、地位は不明。組織内に階級制度があるかも聞いてねぇ。
「はしゃぐな、馬鹿。ピクニックに来たわけじゃないんだぞ」
冷静に止めるのはミネルバ陣営の侍従。黒服を着る男。
蒼色のツンツンした短い髪に、緋色の瞳をしたダヴィデだ。
体格はがっちりしてるが、背は170cm程度で、ソフィアより低い。
やつも『ブラックスワン』所属みたいで、素性も実力も得体が知れない。
(何度見ても、身のこなしがハンパじゃねぇ。二人とも格上だろうな……)
ただ、見た感じでは、かなりのやり手だ。
センスの扱い方も、長けているように感じた。
「いいか。私の見立てでは、この扉の中に一つだけ正解の道があると踏んでいる。そこにいる門番を倒せば、先に進め、それ以外はダミーだとみる。この無数にある扉の中で、正解だと思えそうなものはあるか?」
すると、ミネルバが場を仕切るように、考えを述べた。
妥当な判断だった。ここで、うだうだしても始まらねぇ。
考察を落として、攻略を進めるのが一番効率がいいからな。
「はーい。うちは、あれだと踏んでるっす」
そこで、元気よく手を挙げたのは、メリッサだった。
そのまま近くにある扉の方に、人差し指を向けていった。
見えたのは、ライオンと白い鎖で繋がれたユニコーンの紋章。
中央には盾があり、背景が赤青黄白の四分割された絵が描かれる。
絵の内容はライオンだったり、ハープだったり、十字架だったりした。
(こいつは……どっかで見たような……)
思い出せるようで、思い出せない。
喉に魚の骨が詰まったような気分だった。
「いかにもあからさまだが、悪くはないか……」
「だね。というか、最初に選ぶのはこれ以外ないよ」
ミネルバとアルカナは答えを分かった様子で、反応する。
しかも、かなりの好印象。やっぱり、あれには意味があるな。
思いつくまで悩んでもいいが、そんな余計な時間は、存在しねぇ。
「……待てよ。話についていけねぇ。この紋章って、なんなんだ?」
ラウラは、議論に参加するため、疑問を挟む。
一斉に好奇の視線が集まり、嫌な沈黙が満ちていく。
「正気か……? 浅学にもほどがあるぞ」
「うーん、もしかして、君の侍従って、すっごく馬鹿?」
そのすぐ後に、王子二人は、馬鹿にするように言った。
どうやら、そう反応されるぐらい、教養として常識らしい。
(ちっ……。ムカツクなぁ……。知らなくて、何が悪ぃんだよ……)
馬鹿なのは自覚してるし、馬鹿にされた状況も理解した。
だけど、少しぐらい足並み揃えてくれてもいいと思うんだがな。
「イギリスの国章っすよ。イギリス王室とも密接に関係してるはずっす」
そこで、メリッサは答えを告げる。
(なんだ、そういうことか……)
そのおかげで、喉のつっかえが取れた。
この辺は、こいつのいいところなんだよな。
分け隔てなく接して、人を決して馬鹿にしない。
変わってねぇな。それ以外は、欠点だらけだけどよ。
「……では、国章が彫られた扉から攻略する。異論はないな?」
そう考えていると、ミネルバは話を進める。
その問いかけに対し、口を挟むものはいなかった。
(ちょっとばかし、もやっとしたけど、決まりだな。何が出てくるのやら)
ラウラは心構えを決め、状況を見守る。
伸るか反るか。どっちに転んでも最善を尽くす。
失踪したジルダのため。死んだ父親の行方を捜すため。
そのためにも、第一王子を何がなんでも王の座に導いてやる。
「よし。全員同意と見なす。……早速だが、攻略開始だ」
ほどなくすると、ミネルバは全体の指揮を執る。
そして、扉に手をかけ、新たな世界を広げていった。
紋章の形状の描写を少し追加しました。




