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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第22話 遊び

挿絵(By みてみん)




 ベクターは、静かに拳を振るう。


 狙いを澄ませ、ルーカスに放った。


 思い描いた通りの理想の展開だった。


 つけ上がるように、弱ったフリをした。


 実際に、弱ってはいた。長期戦は苦手だ。


 そのおかげで、直線的な動きを誘い込めた。


 容赦なく、胸を貫いてやる予定のはずだった。


(どうなってる……)


 森が揺れた。不自然な動きをした。

  

 気付けば、眼前には少女が立っていた。


 長い銀髪に尖った耳に、黒のロングコート。


 容姿の割に、大人びた印象を受ける存在だった。


 拳と蹴りを、細い両腕で受け、涼しい顔をしている。


 手応え的には実体じゃなく、霊体。センスも微弱だった。


 肉体とセンスは足し算。体が小さければ、しわ寄せもでかい。


 その体のハンデを、センスで補うのは可能。だけど、量が少ない。


 必要最小限の力で受け止めている。センスの常識から、逸脱している。


「誰だ……。お前は……っ」


 ベクターは少女に対し、声を荒げた。


 相手は霊体だが、人の言葉を発していた。


 それもこちらの名前を知っているようだった。


 王子の一人として、顔が割れている可能性もある。


 ただ反応的には、旧知の仲であるような印象を受けた。


(知り合いか……? いや、それなら覚えているはず……) 


 性格上、人付き合いは極力しない主義だった。


 顔見知りは作らないし、必要がないと思っている。


 だからこそ、接点がある人間の顔は、忘れようがない。


 つまり、赤の他人だ。なんの接点もない相手に決まってる。


「私はリーチェ。続柄はご先祖様ってところね」


 少女が名乗りを終える頃には、拳を放し、距離を取る。


(先祖……。千年前の亡霊か……。道理で強いわけだ……)


 ひとまず、強さの疑問は解消された形だった。


 力の本質は掴めなくとも、先祖なら納得できる。


 それよりも問題なのは、こいつが敵なのかどうか。


「先祖かなんだか知らないが……。タイマンの邪魔、しないでくれるか……」


 ベクターは警戒心を高めつつ、声をかける。


 悪霊と違って、言葉が通じるなら、探りは有効だ。


 敵意がないなら引くだろうし、目的があるなら語るはず。


「それは無理。と言いたいけど、自我を出し過ぎると消えちゃうのか……。えーっと、お父さんの命令は『遊んでおいで』だった。だから、命令を忠実に守りつつ、消えない程度にやりたいことをやれる範囲を考えると……」


 リーチェは顎に手を当て、思考を垂れ流している。


 わざと聞かせたのか、天然でペラペラと喋っているのか。


 どちらにしても、言葉尻から、徐々に相手の背景が見えてきた。


(初代の直接干渉か……。続柄は娘……。厄介だな……)


 最奥にいるのは、初代王。


 王家の始まりであり、魔術の始祖。


 その娘とくるなら、実力は保証されている。


 まともに相手をすれば、分が悪いってもんじゃない。


(タイマン張れるなら本望だが……。そうも言ってられんのよな……)


 ベクターの視線は、リーチェの奥にいる相手。


 先ほどまで敵対していた、ルーカスの方に向いていく。


 少年への殺意。それが明らかになった以上、放置はできなかった。


(しかし、なんであいつは、黙りこくったままなんだ……?)


 ただ、ふとした違和感があった。


 さっきまでの威勢のよさが消えている。


 不気味なくらい沈黙を貫き、下を向いていた。


「そうだ。組手遊びにしよう。顔に一発でも当てられたら、去ってあげる。その代わり、こっちが二人の顔に一発ずつ当てられたら、一つだけ言うことを聞いてもらう。言っとくけど、これは王位継承戦の延長だから、縛りで断れないよ」


 すると、リーチェは手をポンと置き、告げる。


 身なりの割に、年齢相応の子供らしい反応をしている。


 大人っぽく見せるために背伸びした子供。そんな印象を受ける。


 まぁ、そんなことよりも問題は、このお子ちゃまが提案してきた内容だ。


(縛り……。断れば呪われる、どころじゃ済まないか……)


 分霊室と王位継承戦は、初代王の魔術と縛りにより成り立つ。


 内容は不明だが、能力の影響範囲を分霊室に限定しているはず。


 縛りは、センスや魔術の力を倍増させる。掛け算とも言える芸当。


 リスクはバネだ。縛りがでかいほど、限界以上の能力を引き出せる。


 その代わり、縛りを破れば、自他共にペナルティが与えられてしまう。


 初代は縛りを守り、王子が縛りを破れば、王子にだけ災いが降りかかる。


「仕方ない……。付き合ってやる……。少なくとも、俺はな……」


 ベクターは思考を重ねつつ、結論を出す。


 ただ、相手は『二人の顔に一発ずつ』と言った。


 つまり、ルーカスの返事次第で、展開が変わってくる。


 最悪、断りでもしたら、連帯責任になる可能性も十分あった。


(タイマンが好ましいが、やるなら組んでやる……。ただ、断るなよ……)


 面倒な状況を考えれば、贅沢は言っていられない。


 目先の一戦にこだわり、後の十戦を捨てるのは無意味。


 ルーカスがやると言うなら、手を組んでやるしかなかった。


 問題は、無口を貫き続けるルーカスの心情と、次の発言だった。


「俺っちが、お嬢と組手? 馬鹿言うんじゃねぇよ。勝てるわけねぇだろ」


 ルーカスは勝手知ったる仲なのか、諦め気味だった。


 ただ、断ったわけじゃない。これなら縛りに抵触しない。


(おいおい……。やる前から諦めるやつがあるか……)

 

 どんな強者でも、隙は必ず存在する。


 しかも、今回は、顔に一発当てるだけだ。


 あの少女を倒せ、とかいう無理難題じゃない。


 勝機は十分ある。実力はともかく、心が未熟だな。


「その義足……〝幻想の左足〟でしょ。適性あるし、勝算もあると思うけどな」


 すると、リーチェは、ルーカスの左義足を見て、語る。


 ただの超電導磁石(リニア)内臓の義足だと思っていたが、裏がありそうだ。


(詳細は分からんが……使いこなせてないのは確かだな……)


 あの義足は、未曽有のセンスを誇る狂戦士を一撃で葬った代物。


 不意打ちとは言え、速度も威力もピカイチ。工夫次第で大化けする。


 直線的な動きだけじゃなく、フェイントを混ぜれば、確実に伸びるはず。


「過大評価はしないでくれ。お嬢の実力は、俺っちが一番分かってる」


 ルーカスは、それでも後ろ向きな反応を示す。


 自分に自信がないやつの典型的なパターンだった。


 上を見すぎるがあまり、自分を低く見積もってしまう。


 自分と他人を比べた相対評価で、自分の価値を決めていた。


(惜しいな……。自分の得意を極めれば、意識は変わるはずなんだが……)


 手合わせをした時点で、ポテンシャルは十分感じた。


 それゆえに惜しい。自分の道を進めば、見える景色がある。


 他人と比べる必要はない。得意なものは人によって異なるからな。


 こいつの場合、着目すべきは足技だ。他のことは気にする必要すらない。


 サッカー選手の適性があるのに、野球選手と比較して、萎縮している感じだ。


「断ったら、悪霊化するよ? それでもいいの?」


 リーチェは、ルーカスに対し、デメリットを告げる。


 あまりにも重すぎる罰則だ。さすがにこれなら、受けるだろう。


「それでも、俺っちは……」


 しかし、ルーカスは断りを入れようとしている。


 眉間にしわが寄り、額の血管が浮き出た感じがした。


 本来なら、見捨ててもいい相手。殺そうとしていた敵だ。


 自信を喪失し、自分でやめる決断をしたなら、止めはしない。


「お前、それでも男か……? 玉ついてるんだったら、戦って死ねよ……」


 だが、こいつとの巻き添えは御免だ。


 破れば、同時に罰則を受ける可能性がある。


 それに、宝の持ち腐れだ。ここで殺すのは惜しい。


「お嬢の実力を知らねぇからそんなことが言えるんだ。無理に決まってんだろ」


 それでも、うじうじとルーカスは自己憐憫に浸る。


 あぁ、イライラしてきた。一発ぶん殴ってやろうか。


 左拳をぐっと握り、やるせない怒りが込み上げてくる。


「こいつは霊体だ……。オリジナルじゃない……。実力は本物の十分の一か、それ以下かもしれない……。それでも、諦めるってのか……。全力を出し切る前に死を選ぶってのか……。ふざけんな……。やってみなきゃ分かんねぇだろ……っ!」


 ベクターは、それを言葉でぶつけてやった。


 ありのままの思いを、包み隠さず伝えてやった。


 これで駄目だったら、悪霊でもなんでもなってやる。


 それぐらいの覚悟を込めた。こいつは、一蓮托生なんだ。


「そうか……。それなら……。そういうことなら……」


 すると、ルーカスの顔色が変わる。


 どんどんと血色が戻っているように感じる。


 もうこれ以上、背中を押すような一言は必要ない。


「男ならハッキリしろ……。共闘するか、しないか……どっちだ!」


 問題は、どちらを選ぶか。それだけだ。 


 後は返事を待つだけ。何もしてやらない。


 断れば、悪霊化も甘んじて受け入れてやる。

 

 だが、ルーカスの瞳に火が灯ったのが見える。


 センスに、やる気が漲っているのが感じ取れる。


 聞くまでもない。こいつの腹の答えは今、決まった。


「あぁ、仕方ねぇから、組んでやるよ! 追いつけなかったら、置いてくぞ!」


 そうして、始まったのは、敵との共闘。


 未知の少女リーチェとの、組手遊びが始まった。

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