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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第19話 蚊帳の外

挿絵(By みてみん)




 第二森林区には、静けさが戻る。


 森がさざめき、自然な形で揺らいでいる。


 幾多の戦いを終え、正常な空間に戻ったように見える。


 場に残ったのは、一人。肩に乗るニワトリの頭を撫でる男がいた。


「蚊帳の外か……。さて、どうするか……」


 ベクターは、エリーゼ陣営の一部始終を見届ける。


 残るのは、死闘の繰り広げた鹿の悪霊と、狂戦士の残骸。


 地面には金と黒の鎧が転がり、持ち主は粒子となり消えていく。


 自然と足が赴くのは、黒い鎧の方。戦う意思すら削がれた強者の末路。


「頭を一撃……。並みの使い手じゃなかったな……」


 黒い鎧の首元を指でなぞり、感触を確かめる。


 センスは芸術系。感覚の読み取りは感覚系に劣る。


 ただし、鈍い肉体系に比べれば、遥かに適性があった。


(ん……? こいつは……)


 ほんのりと残ったセンスの残滓を読み取る。


 そこから多少は、使い手の感情が分かってくる。


 言動から考えれば、それは違和感が残るものだった。


「濃い殺意……。身内に向けていいもんじゃないだろ……」


 目線は、ルーカスと呼ばれた男が去った方に向く。


 放置すれば、あの少年を確実に殺す。それぐらいの殺意。


 止めるだけのように見えたが、明らかに裏があるように感じる。


 狂戦士を殺すためなら納得がいくが、漂う残滓がそれを否定している。


「おいおい、継承戦の裏で何が行われようとしてる……」


 悪霊よりも、真に恐れるべきは、人間。


 実体があり、陰謀を企てられる厄介な存在。


 そんな当たり前のことに気付かされてしまった。


 ◇◇◇


 第二森林区の西端に位置する場所。

 

 そこでは、敵陣営同士の談合が行われていた。


「あなたと組むって……つまり、味方を裏切れってことですか?」


 第五王子陣営のジェノは、聞き返す。


 相手は、第四王子パメラ・フォン・アーサー。


 白き神と体の情報を餌に引き抜きの交渉をされていた。   


 その場にはパメラが従えている唯一の側近。狼男の姿もあった。


「そうだねぇ。継承戦が終わるまで、第五王子とは縁を切ってもらおうかね」


 パメラが提示したのは、情報に対する対価。


 互いの損得が釣り合わないと交渉にはならない。


 こっちにとって、情報が得なら、縁切りは損になる。


(情報は喉から手が出るほど欲しいけど、その分、リスクも高いな……)


 提示された条件を前に、ジェノは思い悩む。


 縁を切れば、サーラと敵対してしまうことになる。


 そうなれば、白き神に操られた誤解は解けないままだ。


 つまり、止めるという名目を保つルーカスに殺されてしまう。


 これがリスクだけど、話に乗れば、症状を改善できる可能性もある。


 一長一短。思い悩めるのが、操られていない証だけど、正直、複雑だった。


(受けるかどうかも重要だけど、問題は……)


 ジェノは思考を回し続け、考えをまとめていく。


 即断はできない。それなら、選択肢は自ずと絞られる。


「あなたの持つ情報は正しいと証明できる、客観的根拠はありますか?」


 どちらかと言えば、交渉は得意な分野だった。


 だからこそ、思いついた。この確認は必須事項だ。


 縁切りが目に見えた損に対し、情報は目に見えない得。


 後から、情報は嘘だった、と言われたら目も当てられない。


 もし、これが答えられないなら、交渉する余地なんてなかった。

 

「あたいは、この狼人間……ガルムと感覚を共有できる。そこから、アルカナと侍従の会話を盗み聞いたのさ。ソースは言わば、人の噂。伝聞だね。客観的に正しいと証明できるだけの根拠はないよ。感覚共有の能力は証明できるけどね」


 パメラは、正直に思っていることを述べた。


 取り繕っている感じも、嘘をついてる気配もない。


 というより、不利になるような嘘をつく意味がなかった。


 最近知ったのなら、今になって仕掛けてきたのにも納得がいく。


「能力の件は信じます……。それより、侍従って、どんな人でした?」


 ただ、噂の出所が誰なのか。それが一番の肝だ。


 相手によっては、無条件で信じられるほどの価値がある。


(もし、噂の出所が彼女だったら……)


 ジェノは、ある人物の姿を思い浮かべる。


 適性試験の地獄を共に生き抜いてきた、仲間。


 最終試験にまで残って、唯一不合格になった相手。


 不器用で、我がままで、下手くそな敬語が特徴的な人。


「短い紫髪の、バニースーツを着た……名前は、確かメリッサだったかね」


 パメラの口から語られたのは、一人の名前。


 間違えようがない、外見的な特徴も揃っている。


(はぁ……。困ったな。損得で考えれば、ちょうどイーブンだ)


 それは、無条件で信頼できる人物の特徴と一致していた。


 彼女の口から出た言葉なら、ほぼ間違いないと思っていい。


 自分にしか分からないだろうけど、根拠としては十分だった。


(後は受けるかどうか、決めるだけだな……)


 利害関係を取るか、家族関係を取るか。


 目の前にあるのは、シンプルな二択だった。


 複雑な事情が絡み合うけど、避けられない事実。


 白き神の影響がどこまで思考に及ぶのか分からない。


「その提案、引き受けます。……ただし、一つだけ条件があります」


 ただ、ジェノはパメラの提案を引き受ける。


 結果として利害関係を取り、家族関係を捨てた。


 正しい選択になるかどうかは、この条件次第だった。


 ◇◇◇

 

 樹々の枝から枝を跳び移る。


 そこで見えるのは、銀色の義足。


 膝から足先まで繋がっている兵器だ。


 反発力と吸引力を操ることが可能になる。

 

 燃料はセンスと生体電気とイメージする力だ。


 素材は、超電導磁石が使われるが、あくまで部品。


 磁力を操るというより、想像できるかが決め手となる。


 だから、こいつの名は〝幻想の左足〟。センス依存の兵器。


 反聖遺物アンチレリックとも呼ばれる〝悪魔の右手〟のある種の、兄弟だった。


(さぁって、兄貴にはああ言われたが、とっとケリつけるか……)


 ルーカスは左の義足を踏み込む。


 頭でイメージするのは、反発する力。


 それを起点に人並みならない加速に至る。


「待てよ……。少し話がある……」


 そこに入り込んできたのは、一人の男。


 肩を掴み、隣に立っているのは屈強な王子。


 ベクター・フォン・アーサーが横槍を入れてきた。


「あぁ……? 悪いが、こっちは急いでんだ。邪魔するなら、蹴り砕くぞ」


 加速を止め、ルーカスは応対する。


 下手に動けば、後手に回る可能性がある。


 肩を掴まれた時点で、反応せざるをなかった。


(こいつ……何が目的だ……?)


 あの場では、気取られないようにした。


 止めるという名目のまま、戦いは終わったはずだ。


 声をかけてくる動機が見当たらねぇ。不自然極まりなかった。


「あの少年は殺らせない……。助けてもらった恩義があるからな……」


 ベクターが語ったのは、目的だった。


 しかも、ドンピシャで見抜いてやがる。


 面倒だけど、邪魔するなら仕方ねぇよな。


「……あぁ、そうかよ。だったら、ここで退場してもらうぜ。第三王子っ!」


 ルーカスは、問答無用で左足を薙ぎ払う。


 ベクターはそれを右腕で受け止め、戦いは始まった。

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