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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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155/156

第155話 エピローグ③

挿絵(By みてみん)





 バッキンガム宮殿。幻想遊戯室。


 そこには、六畳一間の空間が広がる。

 

 ブラウン管と大量のカセットとゲーム機。


 画面の発光だけが、辺りを淡く照らしている。


「……僕さ、次期国王に選ばれたんだぁ」


 アルカナはコントローラーを握りながら、ぽつりと語る。


 画面に映るのは、あの日と同じ、スパイ脱出ゲームだった。


 閉じられた空間から、先に脱出するのを競い合う内容のもの。


「マーリン倒したの、お兄だもんね。妥当でしょ」


 隣に座り、同じゲームをプレイするのはサーラ。


 幼少期の記憶がないらしいけど、あの頃と変わってない。


 強いて違う部分を挙げるなら、脱出の進行度が負けてるぐらいだ。


「うん。そうなんだけどさ……」


 続く言葉が出てこない。言いたいけど、言えない。


 『強い心を持った王になる』。その正反対の言葉になる。


 一度口にしてしまっただけで、心が腐ってしまう気がした。


「言いたいことがあるなら言ったら。たぶんこれが最後の機会だよ」


 サーラの操作キャラは鍵を揃え、出口にたどり着く。


 後は決定ボタンを押すだけで脱出する。外側の世界に出る。


 現実でも恐らく同じことが起きる。チャンスは一度切りしかない。


(言うか言わないか。頼るか頼らないか。後悔しない方は――)


 アルカナは自分に問いかけ、選択を強いる。


 取れる選択肢は多くない。やることは単純明快だ。


 後は思い切って前に一歩進むだけ、それで道は開かれる。


「あのさ……僕の相談役になってよ! 君さえ良ければだけどさ」


 思い切ってアルカナは本題を切り出した。


 王という役割から逃れることは、もうできない。


 ただ、脇に誰を置くかは自由だ。ある程度融通が利く。


 外の世界の住人だとしても、同じ王子なら連絡を取り合える。


「よく言えました。仕方ないから協力してあげる。血縁者だからね」


 対するサーラは、決定ボタンを押して、脱出。

 

 一人用の飛行機に乗り、閉鎖空間から飛び立った。


 相手は自由を勝ち取り、こっちは幽閉。不運な結末だ。


 現実と重なっているように見えるけど、それは捉え方次第。

 

「あぁ……良かった。サーラが味方なら、この国は安泰だ」


 王に徹するのは対戦型じゃなく、協力型のゲームだ。


 強い心を持ちたいからといって、孤高である必要はない。


 信頼できる人が一人でもいれば、どこまでもいける気がした。


 ◇◇◇


 9月2日、朝方。バッキンガム宮殿前の大門。外は生憎の曇り空。


 門を守る衛兵の敬礼に見送られ、サーラはイギリス王室に背を向ける。


「……今度は、自分の人生に目を向けないとな」


 誰かが聞いてるわけもなく、独り言をぽつりとこぼす。


 王位継承戦を通して、やりたいことがかなり明確になった。


 分霊室の住民の居場所を作る。組織の借りを返して、脱退する。


 この二つ。王と接点を持ち、ぬくぬくと生きるだけが人生じゃない。


「……?」


 歩みを進めるうちに、人気がないことに気付く。


 天候不良で朝方とは言っても、ここは有名な観光地。


 住民も観光客も一切いないのは、どう考えてもおかしい。


(あれは……)


 慎重に辺りを見ると、道路の中心に何か見える。


 ぽつんと立っていたのは、一匹の黒い蝙蝠だった。


『俺に触れ』


 爽やかな青年の声を発し、飛ばすのは命令。


 こちらを人間と認識しているような言葉と態度。


 九官鳥のような馬鹿さもなく、確かな知性を感じた。


「…………」


 サーラは吸い込まれるように、蝙蝠へと手を伸ばす。


 罠の可能性を考えながらも、気になって仕方がなかった。


 気付けば、声に操られるようにして、黒い羽根に触れていた。


「…………ッッッッ!!!!!」


 瞬間、脳内に駆け巡ったのは、大量の知らない情報。


 外されたパズルのピースが、無理やりハマっていく感覚。


 すぐさま状況を理解する。否応なく、起きた現象を把握する。


(あぁ……ここまで計算付くか。恐れ入ったな……)


 忘却された記憶の復元。エリーゼの記憶がここに蘇る。


「…………出迎えがない、なんて言わないよね」


 二つの記憶が入り混じる一人の少女は、虚空に問いかける。


 あるべき道に戻るための発言。これは予想ではなく、確定事項。

 

「お帰りをお待ちしておりました……エリーゼ様」


 現れたのは、白い修道服を着た金髪の女性。


 恭しく頭を下げ、来たるべき時と主の復活を喜ぶ。


 しかし、それでは、情報が足りない。説明にはならない。


 白教の上から二番目の地位。大司教が畏まる理由にはならない。

 

「――いいえ、エリーゼ()()。我らが白教を再びお導き下さいませ」


 大司教ユリアにとっての唯一の上司。


 最初から道は一つしか存在していなかった。

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