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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第152話 勝者と敗者

挿絵(By みてみん)




「――――」


 霊体マーリンは光と変わり、消滅を見届ける。


 手に持っていた霊杖は地面にコロンと転がった。


 これで約束は無効。分霊室と霊杖の所有権は白紙。


 利用するだけ利用して、退場してもらった形になる。


 都合のいい結果だけど、マーリンの陰謀は不明のまま。


 万事解決とは言え切れないものの、騒動の決着はついた。


「……驚いた。君は悪夢の果てに何を見たのかな?」

 

 敗者に位置する悪魔は、瞳を閉じ、問いかける。


 邪眼には回数制限があるのか、使おうとはしてない。


 策を講じてる気配もなく、あくまで、興味本位に思えた。


「見慣れた景色だよ。偽物だと分かったから、何とも思わなかった」


 勝者のサーラは、余裕の態度で会話に応じる。


 あの邪眼は、見つめた対象に悪夢を見せるだけ。


 もう一度、仕掛けられたとしても、すぐに戻れる。


 覚えた魂と比較する。それで簡単に、見分けがつく。


「感覚系は天才肌が多いと聞くが、君はその中でも飛び抜けてるね」


 天才。そう言われて、正直、悪い気はしない。


 ただ、優越感に浸るより、他にやるべき問題があった。


「……お世辞はやめて。それより、約束は守る気あるの?」


 早速、サーラは本題を告げ、選択を迫る。


 さっきは、思惑があったから抵抗してきた。


 それがなくなった現在、彼の立ち位置は不明。

 

 どちらに転ぶとしても、確認する必要があった。


「悪魔は義理堅い。一度結んだ契約は、必ず守らせてもらうよ」


 すると彼は、快い返事と共に、右手を動かす。


 傷はすでに治りつつあり、そのまま地面に触れた。


 黒いインクが浮かび、スラスラと何かが描かれていく。


 ――現れたのは。


「……黒い門?」

 

 悪魔の身体を収める程度のものが、足元に描かれる。 


 戸惑っている間にも、空想の門は開かれ、悪魔は落ちた。


「じゃあね。エリーゼ様によろしく言っといてくれ」


 去り際にかける言葉もなく、一方的な伝言を受け、門は消えた。


(悪魔に地獄に取り立てか……。新しい要素てんこ盛りだな……)


 要点をまとめ、真面目に受け止めようとすると、頭がパンクしそうになる。


(まぁ、今はいっか。それよりも……)


 すぐに考えを切り替え、視線は上を向いた。


「終わったぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ……」


 ここが墓とかモラルに反するとか、どうでもいい。


 今やりたいことは、大の字になって泥のように眠ること。


 生き残りの回収は、後々にたどり着いた人がやってくれるはず。


(一人死んじゃったけど、他は守れて良かった……)


 プレッシャーから解放され、一番の収穫を頭に浮かべる。


 そこで意識は途絶え、サーラは糸が切れたように眠りについた。


 ◇◇◇


 樹々が揺れ、風を切る音が聞こえる。


 冷たい空気が肌を抜け、不意に目が覚めた。


「ここは……」


 ジェノは眼をこすりながら、ぽつりと言う。


 肩と腰には手を回され、人肌の温もりを感じた。


 誰かは知らないけど、第三者に運ばれてるみたいだ。


「お目覚めっすね、ジェノさん。ここは第二森林区っすよ」


 特徴のある話し方と共に、声が聞こえてくる。


 別に驚きはしないし、状況的にあり得るのは分かる。


 ただ、それらを踏まえた上でも、分からないことがあった。


「……継承戦は? 勝負の結果は? 他の皆は?」


 立て続けに、生じた疑問をぶつけていく。


 さすがのメリッサも、全部は把握してない。


 一つでも答えが返ってくれば、御の字だろう。

 

「さぁ……。全部知ったこっちゃないっすね」


 すると、メリッサは、曖昧な反応を示した。


 知っていて答えないのか、知らないだけなのか。


 確信はないけど、言い方からして前者の感じがした。


「じゃあ、俺を攫った理由は?」


 答えられないなら、質問を変えるまで。


 さすがにこれは、言い逃れできないはずだ。


「子作りのためっすね。今はこれ以上言えねぇっす」


 メリッサは何の恥ずかし気もなく、即答。


 理由にはなってるけど、説明不足にもほどがある。


 ただ、今までの情報から、推察できないことはなかった。


「つまり、お目当ては……『神の堕天』か」


 パメラに化けたマルタから、すでに説明を受けていた。


 神を宿す人間は、神格化により人間的な機能の喪失が伴う。


 進行すれば神に近付くが、その代わり、人間性が消失していく。


 ――その対策の一つが子作り。


 人間的な機能で誘惑し、神を堕落させる。


 そうすれば、神の力の一部を支配できるらしい。


 神格化も止まってくれるだろうし、十分な見返りがある。


「まぁ、そんなとこっすね。本命は別にあるっすけど」


 一部を肯定し、何かを匂わせる。メリッサらしい反応だった。


 適性試験の時からそうだけど、彼女が何を考えているか分からない。


 賢い時もあれば馬鹿な時もあるし、考えてるようで考えてなかったりする。


(積もる話もあるし、動向も知っておきたいし、ここは――)


 頭はメリッサにつく方へ傾き、答えを口にしようとする。


「……?」


 そんな時、近くの樹々が少し揺れた感じがした。


「――おっとと。恋敵のご登場のようっすね」


 メリッサも察し、跳躍しかけた足を止める。


 すると、目の前の木の枝には、二人の女性が立つ。


「悪いことは言わない。さっさとその子を返しな」


「さもなければ、少々、痛い目に遭ってもらいますよ」


 マルタは拳を構え、アミは刀を抜く。


 体には薄っすらセンスを纏い、戦闘態勢。


 返事次第では修羅場になる面倒な展開だった。


(止めたいのは山々だけど、ここは見守ってみようかな)


 メリッサは、相応の理由がないと人を傷つけない。


 そんな優しい女の子だ。きっと、なんとかしてくれる。


「だったら、ここは一枚噛まないっすか。ジェノさん中心の大奥形成に」


 期待したのが馬鹿だった。


 返ってきたのは、間の抜けた提案。

 

 返す言葉は、決まってる。たったの一言だ。


「「「はぁ……?」」」


 呆れた声が三つ並び、メリッサには冷たい目線が向けられた。

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