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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第151話 邪眼

挿絵(By みてみん)




 悪魔の邪眼が、サーラを見る直前のこと。


 その数メートル後方には、青髪の女性が立つ。


 足元には、折れた大剣が無造作に放置されていた。


(無理だ……。これ以上、黙って見てらんねぇ……)


 落ちた大剣を拾い上げ、ラウラは再び前を向く。

 

 心は一度へし折られた。勝てないと思い知らされた。


 悪魔を見逃せば、多少のメリットがあるのも分かってる。


 それでも、どうしても動かないといけねぇ理由があったんだ。


(こいつは縛りを結んだところで……約束を破る。そういうやつだ!)


 自分の直感を信じ、ラウラは地面を強く蹴りつけた。


 これでも感覚系だ。相手に裏があれば、声色で大体分かる。


 言葉尻から感じる空気は最悪。このまま見て見ぬ振りはできねぇ。


「くたばれ外道が……っ!!!」


 思いの丈を乗せ、大剣を横一閃に振るう。


 剣身は青いセンスを纏い、悪魔の頭部に迫る。


 脳をスライスするイメージで、渾身の力を込めた。


(……っ!!?)


 接触と同時に生じるのは、手応えと違和感。


 火花がバチリと散り、異なるセンスが衝突する。


 それが暗い王墓所内を淡く照らし、相手を映し出す。


「止めさせてもらうよ。僕の王道に必要なパーツだからね」


 白い司祭服を着ている、短い金髪で細目の男。


 右手には白い杖を持ち、大剣を軽々と受け止める。


(こいつは……)

 

 サーラが能力により呼び寄せた霊体。


 それは分かるが、それ以上に知っている。


 王位継承戦前に、一通りの説明を受けた人物。


「初代王マーリン……っ!! 何を企んで――」


 ラウラは名を叫び、目的を問い質そうとする。


 しかし、顎に衝撃が走り、脳が揺れたのを感じた。


「心配しなくても、すぐに終わる。それまで、お眠りなさい」


 視界が明滅する中、マーリンのウゼェ言葉を聞き、意識は途絶えた。


 ◇◇◇


 王墓所に集まった精鋭の大半は果てた。


 気絶していないという意味なら、残り一人。

 

 ただ、しばらくの間は戻ってこられないだろう。


「さて……悪夢の邪眼は機能しているんだろうね」


 マーリンは振り返り、状況を確認する。


 見えたのはサーラと、頭を掴まれた悪魔の姿。


 そこで時間が止まったかのように、互いは動かない。


「えぇ、問題ありません。内容までは詮索できかねますが」


 取ってつけたような敬語を使い、悪魔は辛そうに語る。


 切り札はギリギリまで使わない。『転写体』らしい反応だ。


 彼と同じ立場に置かれたとしたら、全く同じことをするだろう。

 

「…………」


 一方、その傍らのサーラは、目を開いたまま動かない。


 軽い吐息は聞こえるものの、意識は上の空といったご様子。


 悪夢の邪眼は、文字通り、対象者に悪夢を見せることができる。


 今や術中にハマり、寝覚めの悪い夢をしばらく見続けることになる。


「二人とも執拗に脳を狙ってる。君のことだから、弱点を素直に話したのかな」


 やるべきことはあれど、マーリンは余裕の雑談に興じる。


 久方振りの再開だ。ほんのひと時ぐらい、ジュニアと話したい。


「おかげで行動を絞れました。Ⅰ世でも、同じことをされたのでは?」

 

 ジュニアは軽く笑みを浮かべながら、会話に応じる。

 

 首から上しか動かせないだろうに、よく付き合ってくれる。


 滅多にない異なる自分との対面に、向こうもノリ気って感じかな。


「まぁね。下手な嘘は感覚系に気取られるし、ヒリつかない」


「やはり、想像通りのお方だ。受け答えから、考え方まで同じと見える」


 ジュニアは声に熱を乗せつつ、反応を示している。


 100%の精度の死者交霊約定リビングデッド。それが互いの共通目的。


 今現在の魂の精度は、彼の肌に触れた瞬間に照合される。


 触れる前なのに、過度な期待を抱いているのが見て取れた。


「気になって仕方ないか。だったら、早く済ませよう。万が一もあるからね」


 気持ちを汲み取り、マーリンは早速、左手を伸ばした。


 ジュニアは意図を察し、瞳を閉じて、その時を待っていた。


 障害物も邪魔者もなく、手は順調に迫り、自ずと頭部に触れる。


 サーラが握り込んだ手の上を包み込むようにして、地肌に到達した。


「――――ッッ!!」


 すると、脳に電流が走ったような反応をジュニアは示す。


 魂の照合開始。脳で処理されるから時間は大してかからないはず。


「僕の魂は、いかがだったかな?」


 急かすようで悪い気はしたが、結果を催促した。


 駄目で元々だが、今回のケースは非常に稀有な事象だ。


 空触是色の精神感応+魔法に昇華された状態の死者交霊約定リビングデッド


 自分の手から離れたからこそ、可能性として低くないように感じる。


 ジュニアの期待感も相まって、それ相応のものを求めてしまう自分がいた。


「Ⅰ世、これは……」


 目を見開き、ジュニアはおおげさな反応を示す。


 他人なら、どちらとも取れる反応だが、彼は『転写体』。


 言わずとも分かる。手に取るように理解できる。魂で通じ合う。


「とうとう成ったか……」


 悲願を前にして、人生の絶頂に近い幸福感を味わう。

 

 空触是色には精神を通じ、魂を知覚する副次効果がある。


 しかも、継承戦時の80%の霊体から読み取り、抽出した情報。


 観測の魔眼を超えた観測。魂の解像度の至高にたどり着いた能力。


「サーラさえ手中に収めれば、この世界は……」


 マーリンは彼女の手に触れ、全能感を覚える。


 他人の能力で、ここまで興奮を覚えたことはない。


 残った課題はとうとう、現実味があるものだけになった。


「――債務不履行」


 ただその瞬間、手を握り返される。


 聞きたくなかった言葉が、耳朶を打つ。


 サーラは目覚め、霊体の弱点を突いていた。


 ――彼女が下した命令は『力を貸して』。


 その命令に反した場合、霊体には罰が下る。


「………ふっ。夢の実現はお預けか。いずれ、取り返しに来るからね」


 消えかける体で、マーリンは苦し紛れの言葉を残す。


「二度と呼ばないから問題なし。夢も幻もない場所で、一生眠ってろ」


 対するサーラの冷たい反応を聞き届け、希望を持って現世を去った。


 

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