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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第150話 悪魔の顛末

挿絵(By みてみん)




 王墓所上空には重力に抗えず、墜落する悪魔がいた。


 真っ逆さまに落ち続け、自慢の羽根は全く動いていない。


 手を差し伸べる者は誰もおらず、やがて地面と接触を果たす。


「…………ッ」


 ダンと痛々しい音を立て、悪魔は身体を強く打つ。


 何度も石畳を転がり続け、仰向けの状態で停止する。


 身体の損傷は激しく、裂傷と骨折が複数箇所に見えた。


 辛うじて五体満足なものの、手足と羽根は折り砕かれる。


「――」


 そんな瀕死の悪魔に近寄る、一人の少女がいた。


 名前はサーラ。姓はなく、肩書きは、組織の代理者エージェント


 ボサボサの短い金髪で、ボロボロの黒ワンピースを着る。


 みすぼらしい格好で、背は低く、とても強そうには見えない。


 ただ彼女は、その身なりからは想像もできない戦果を上げていた。


 ――最上位級の悪魔討伐。


 実力者揃いの継承戦メンバーの中で、唯一の勝ち星を拾う。


 まさに偉業。組織の昇進に必要不可欠な要素を密かに満たす。


 その事実に気付くことなく、彼女は淡々と次の行動を開始した。


「二つ頼みたいことがあるんだけど、聞いてくれるよね」


 サーラは悪魔の頭を右手で掴み、語りかける。


 これは取引じゃなくて、一方的な考えの押し付け。


 悪魔の弱点は脳。今、彼の命は、この手が握っている。


 脳だけ残したのは、頼みを断れない状況を作り上げるため。


「……仕方ないから、聞いてあげるよ」


 想定通り、常人離れの生命力で悪魔は答える。


 今のところ順調だけど、再生されるリスクもある。


 手短に済ませるのがベスト。長い時間はかけられない。


「地獄に落ちたミネルバの待遇を良くすること。生贄の取り立て対象者は、余命一年以内の人間に限ること。以上の要求を、一生涯守ってくれる縛りを結べるなら、代わりに見逃してあげる。もし、破ったら……死んでもらう」


 単刀直入に、サーラは本題を告げる。


 悪魔を殺せば、どうなるのかは分からない。


 完全消滅か、時間経過で蘇るか、地獄に戻るのか。


 色々と考えられるけど、試行錯誤している暇なんかない。


 それよりも、亡き姉のことを気にかけるのが、第一優先だった。


「……なるほど。情報開示には多少の効果があったわけだ」


 対する悪魔は、どちらでもない反応を示す。


 肉体を回復するための時間稼ぎにしか思えない。


「次、余計なこと言ったら、脳漿をぶち撒けることになるよ」


 サーラは右手に白光を纏い、最後通告をする。


 悪魔の強靭な肉体を破れるのは、すでに証明済み。


 これ以上お茶を濁すなら、手心を加えるつもりはない。


 ――問題は反撃が間に合うか。

 

 相手が動く前提なら、速度勝負になる。


 距離は密着で、悪魔の反応と体術は脅威的。


 万が一の場合、立場が逆転する可能性もあった。


「……」


 ごくりと唾を飲み込み、サーラは細心の注意を払う。


 目線、呼吸の揺らぎ、身体の微細な動き、センスの予兆。


 一挙手一投足を見逃せない。片時でも気を抜けば、殺される。


 感覚系を極めたら、触った時点で分かるんだろうけど、今は無理。


 とどめを刺すにしろ、心を読み取るにしろ、技に出力する必要がある。


 選ぶなら、前者。出力には時間がかかるから、両方ってわけにはいかない。


(修羅場上等……。やれるもんなら、かかってこい……)


 神経を研ぎ澄ませ、集中力を高めていく。


 もう数秒は経つ、選択は近いような気がした。


「答えはイエスだ。……実に悪魔的だね。取り立てに向いてるよ」


 しかし、意外にも悪魔は、話を受け入れた。


 身体は再生する気配もなく、ピクリとも動かない。


 この時点で、縛りは成立。センスが繋がる気配があった。


 約束を破れば、死が訪れるはず。波風が立たない平和的な解決。


(……これで終わり? なーんか嫌な予感がするなぁ)


 油断を誘う罠か、杞憂だったのか、別の思惑があるのか。


「交渉成立なら、さっさと地獄へ帰ってくれる?」


 あれこれ考えつつも、サーラは話を続ける。


 気を抜いたわけじゃない。見届けるまでがセット。


「あぁ、喜んで。――やることをやったらね」


 悪魔は快く了承するも、不穏な言葉を言い放ち、目を見開く。


 瞳の色は赤。魔眼の特徴ではないものの、思い当たる節があった。


 ――邪眼。


 それは、地下世界で見た魔物が持つ、異能の出力装置。


 外敵排除、生理的嫌悪のような悪意に紐づき、災いを呼ぶ。


 魔眼とは違い、対象者に一切の得はなく、必ず悪い方向に転じる。


「色触――」


 理解と同時に、サーラは処刑の判断に踏み切った。


 良くて相打ち、悪くて一方負けの、後手に回った対応。


 致命的に遅く、相手は交わした縛りを破ったわけじゃない。

 

(駄目だ……。間に――)

 

 最後まで言い切れるはずもなく、邪眼は赤く煌めいた。


「くたばれ外道が……っ!!!」


 その時、男勝りな声と共に、一筋の斬閃が走る。


 空を薙ぎ、悪魔の頭部をスライスし、脳を叩き斬った。


 青い鮮血が飛沫を上げ、頭部と胴体が切り離され、倒れ込む。


(合った?)


 邪眼の視線から外れ、ぶち撒けられた脳漿を浴びる。


 能力が発動したかは不明。ただ、悪魔が死んだのは確かだった。

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