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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第149話 衝突必須

挿絵(By みてみん)




 悪魔がいる上空で煌めくのは、薄紅色の閃光。


 センスを飛ばす。その基本を徹底的に煮詰めた技。


 手心を加えている気配はなく、まともに食らえば即死。


(いいセンスだ……。偽装工作に余念がない)


 マーリンは涼しい顔をして、様子を見ていた。


 すでに肉体は滅んでいる。死に対して恐怖はない。


 それよりも恐れているのが、思惑を見抜ぬかれること。


 中途半端に加減されるぐらいなら、全力で来る方が助かる。


(その調子で頼むよ。どうせ、これぐらいじゃ僕は死なない)


 視線を送る先には、勇ましい主人の姿。


 悪魔と同じように手のひらを向け、こう言った。


「色触是空!!!」


 サーラの掛け声と共に迫り来るは、黒い手。


 物質に干渉できる手を操る。ただそれだけの能力。


 至ってシンプルだが、少し工夫さえすれば、十分使える。


「…………」


 すると、黒い手は上部で開き、傘のように展開。


 降り注ぐセンスの洪水を、撥水するように飛び散らせた。


 威力は分散され、閃光は消え去り、倒れる味方の二次被害は無し。


(守られた上に、分散する角度も計算されてる。……やるね)


 見違えた成長を果たすサーラを、内心で賞賛する。


 修羅場を何度も潜り、千年前を経験し、飛躍的に伸びた。


 継承戦開始時とは比べ物にならない。まるで別人のようだった。


(でも、君の真価はこんなものじゃないだろ?)


 手放しで褒めつつも、サーラにかける期待は超えてない。


 本命は別にある。色々な意味で、この後の展開に胸が躍った。


「陰影、停止、減退。天運退く、空亡の果てに、我は希望を見出さん」


 その期待に迫る勢いで、彼女は上空に手を向ける。


 詠唱による乗算バフ。恐らく、未踏の領域に挑戦した。


 成長と変化を余儀なくされた状態だからこそ、花が開いた。


「――色触是空【大殺界】」


 サーラが放つのは、巨大な黒い手。


 飛べないながらも、空中戦に持ち込む戦法。


(どちらを応援するべきか。今の戦況だとジュニアの方かな)


 悪魔の中身は、十三代目の自分自身。


 マーリンジュニアと呼んで遜色ない相手。


 特に情はないが、計画に必要なパーツだった。

 

 役目を果たすまでは、簡単に壊れてもらうと困る。

 

「――――」


 ジュニアは迎撃態勢を取り、手のひらを向ける。


 今度は片手ではなく、両手。単純計算で威力は二倍。


 センスの量で勝負できる、肉体系らしい戦闘方法だった。


(悪魔化の弊害か……。隣の芝は青く見えるね)


 彼は自分であって、自分ではない。


 悪魔化により、センスの系統は変化する。


 同じ魂を宿しながら、別の道を極めつつあった。


「「―――――ッッ!!!」」


 そう考えている間にも、二人の大技は空中で衝突を果たす。


 激しい火花を散らし、絡め手なしの真っ向勝負が始まろうとしていた。


 ◇◇◇


 王墓所上空では、両手でセンスを放つ悪魔がいた。


 顔色に焦りは微塵もなく、淡々と起きた事象に対応する。


 位置。経験差。センス量。敵性存在の情報。あらゆる面で有利。


 目に見えた勝負に興味はなく、それよりも別の問題の方が厄介だった。


(Ⅰ世との接触はマスト。次点で生贄の取り立て。次点で勝負の決着)


 悪魔は思考を整理し、やるべき事の優先順位をつける。


 マーリンⅠ世の魂の照合は至上命題。生まれた意味に等しい。


 精度100%の死者交霊約定リビングデッドが確認できたのなら、死んでも良かった。


 もし成立すれば、死の概念は壊れる。その瞬間が個人的に見たくもあった。


(……しかし、最大出力でこんなものか。もう少し歯応えがあると思ったが)


 そこで感じるのは、サーラの当たりの弱さ。


 あれだけ条件を揃えた割には、押しがいまいち。


 気合が入った技に思えたが、肩透かしもいいところだ。


(いや、おかしい……。少なくとも、以前の彼女であれば、素直に終わらない)


 脳内には、かつての主の面影が蘇る。


 神算鬼謀を駆使し、用意周到に計画を立てる。


 直球勝負はあり得ない気質。行動には必ず裏があった。


「…………」


 悪魔は、誰もいないはずの上空を警戒する。


 魔人化は時間制限があるとはいえ、飛行が可能となる。


 先の戦闘でコツを掴んでいれば、奇襲される危険性は十分あった。


(飛び道具はブラフ。本命は奇襲による脳の破壊……)


 不測の自体に直面し、優先順位が入れ替わる。


 全ては、エリーゼという面影の大きさによるもの。


 脳が同じなら、思考回路も似通るはず。警戒に値する。


「…………」


 悪魔は片手の放出を止めて、上空の警戒を続ける。


 奇襲に気付かない振りをして、全力のセンスを叩き込む。


 不穏な動きを察知すれば、即座に対応できる準備はできていた。


(来るならいつでもどうぞ。ただ、奇襲を選んだ時点で詰みだけどね)


 細心の注意を払い、神経を張り詰める。


 閃光の衝突音が、緊張感をより高めていった。

 

「……」


 すると、ほんの些細だが、気配があった。


 背後に何かが忍び寄る感覚。詳細は掴めない。


 肉体系は、感覚による気配の察知が苦手な部類だ。


 目視でなければ、事細かに情報を知ることはできない。


(まだだ、まだ早い……)


 悪魔は振り向かず、ギリギリまで引き付ける。


 察知していることをいかに隠すのかが、肝になる。

 

 今は、センスに集中する愚鈍を演じなければならない。


(あと少し、ほんの数瞬……)


 息を潜め、タイミングを見計らい続ける。


 待ち受けていた時間は、一秒にも満たなかった。


 それにしては、異様に長く感じるも、終わりは訪れた。


(今……)


 頃合いを見極め、悪魔は振り返る。


 空いた片手を向け、センスを集中させる。


「――――惜しかったね」


 そして、苦言を呈し、眩い閃光を放つ。


 直撃すれば、まず助からない、全力の一撃。


 光の明滅により目視不能だが、手応えはあった。


(順番は前後したが、これで――)


 悪魔は、眼下に発していたセンスを緩める。


 その瞬間、血の気が引いていくのを確かに感じた。


 光の明滅が消えて、奇襲を試みた黒い手が見えたからだ。

 

(奇襲はブラフ……。本命は……っ!!)


 すぐさま切り返そうと、悪魔は両手を向ける。


「……っ!!!!」


 しかし、気付いた時には遅かった。


 巨大な黒い手はセンスを破り、体に到達。


 ぐしゃりと握り込まれ、青い血がほとばしった。


 エリーゼの頭脳を信頼し過ぎてしまったがゆえの末路。


 羽根を砕かれ、飛行能力を失った悪魔は重力に引かれていく。


「――裏の裏は表だよ」


 そんな愚か者には、勝者による敗因が告げられる。

 

(Ⅰ世と中身は同じでも、同じではなかった。エリーゼ様もまた……)


 今までやってきたことへの報いを受け、悪魔は墜落した。

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