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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第148話 マッチポンプ

挿絵(By みてみん)




 死者交霊約定リビングデッド。元は霊杖に秘められた力。


 死者の魂を認識して、現世に呼び、取引する。


 魔術か魔法かはさておいて、精度にはムラがある。


 数十年連れ添う妻でも、夫の魂を理解するのは難しい。


 その条件なら30%が限界だ。それほどまでに魂は奥が深い。


 観測の魔眼を使った当時でも、100%の再現率には至れなかった。


 ――この身体と魂は果たして、何パーセントなのか。


 現状は不明だが、予想を立てることはできる。


 40%未満なら廃人。60%未満なら機能不全に陥る。

 

 現状、体に支障はなく60%以上の精度は確定している。


 80%未満なら記憶障害に陥るが、自分で確かめる術はない。


 観測の魔眼でも、自分の記憶を観測できない面倒な縛りがある。


 ――だから、生きている間に100%のコピーを作った。


 『転写体』なら、自分の魂を正しく認識できる。


 それが、長年の研究の末に行き着いた結論だった。


 後はいかに接触するか。下ごしらえは既に済んでいる。


「最初のオーダーは、『悪魔の彼を倒せ』かな?」


 マーリンは、悪魔が自分の『転写体』と知りつつ、シラを切る。


 全ては自分の魂の精度を確認するため。当然、相手も承知のはず。


 軽いボディタッチさえできれば、魂が照合される手筈となっていた。


「ううん。あいつはこの手で倒す。今回はサポートに回って」


 しかしサーラは、予期しなかった方向に成長している。


 継承戦開始時の彼女なら容易に接触できたが、今は違う。


 記憶を忘却されながら自分を掴んだ。少々、厄介な相手だ。


 命令権が彼女にある以上、勝手な行動を取ることはできない。


 下手に命令を無視すれば、せっかく呼び出された体は消滅する。


「やれることが限られるけど、いいのかな? 僕なら――」


「いいって言ってるでしょ。何か不都合なことでもあるの?」


 押し切ろうとするが、サーラは甘くない。


 確信はないだろうが、本能で陰謀を察している。 


 日頃の行いが悪かったかな。地道にいくのが賢明そうだ。


「いいや、何も問題はない。今の僕ができることと言えば――」


 マーリンは思考を切り替え、従う方向に意識を割いた。


 相手は悪魔であり、全盛時代における自分の『転写体』だ。


 いくらでも機会は作れる。例え、全力でサポートに回ってもね。


「『攻撃の無効化』……違うな。今だと条件が甘いから『攻撃の軽減』でしょ」


 能力を開示しようとするも、見透かされていた。


 さすがは、継承戦時のマーリンを追い込んだだけはある。


「ご名答。最大50%のダメージ軽減が限界だよ。今のままならね」


「それで十分だから、早くやって。小手先の縛りも条件もいらない」


 縛りの方へ上手く誘導しようとするも、失敗する。


 ハメ技は通用しないか。今のところ抜け目がないな。


 今の彼女の信用を勝ち取るのは、簡単じゃなさそうだ。


「……話は終わったかな? そろそろ警戒するのも飽きてきたんだけど」


 声をかけてきたのは、痺れを切らした悪魔だった。


 もちろん演技だ。未だに仕掛けてこないのが良い証拠。


(さぁって……バレれば、債務不履行だ。頼むよ、もう一人の僕)


 マーリンは最悪のパターンを想定しつつ、サーラの肩に手を置く。


「――幻想結界(ファンシーヴェール)


 そして、短文詠唱を果たし、主のご機嫌取りが始まった。


 ◇◇◇


 見えない衣が全身に纏われる感覚があった。


 温かくて、サラサラして、着心地の良さを感じる。


(ひとまず、従ってくれたか。でも……まだ安心はできない)


 サーラは、悪魔とマーリンの顔を交互に見る。


 他人にしては顔が瓜二つだし、口調も性格も似ている。


 偶然にしては出来過ぎだ。巧妙に仕組まれた罠のように感じる。


(二人の間には何かある。接触させるのは避けつつ、倒すのがベスト)


 サーラは山を張り、目の前の相手に意識を向ける。


 目下の課題は何も変わってない。あの悪魔を倒すこと。


 魔人化が解けた以上、自力でどうにかしないといけなかった。


「――来なよ。どうせ、まともに戦えるのは君だけだろうし、とことんやろう」


 悪魔はどっしりと腰を据えて、待ち受ける。


 受け身の姿勢。何か仕掛けてくるような気配はない。


(考え過ぎだったかな。まぁ、ともかく――やるっきゃない!)


 サーラは安い挑発に応じて、地面を蹴った。


 接近戦は苦手だけど、少し試したいことがある。


「――――」


 悪魔の懐に迫り、放つのは右ストレート。


 バレバレの軌道で、なんの技巧も凝らしてない。


 でも、今はこれでいい。問題はこの後の反応にあった。


「……」


 悪魔は過剰なほど警戒し、上空に避けた。


 ただの予想が、少しだけ確信に近付いていく。


(とことんやろうと言った割に回避。能力を知ってる動き)


 空触是色による白い手は、相手の精神に感応する。


 右ストレートを受けた時点で発動したとすれば、必中。


 相手の肉体、精神状態、過去、隠す能力を事細かに知れる。


 能力がバレているからこそ回避した、と考える方が自然だった。


(これは、ほぼ黒確かな。あいつに能力を見せた覚えはないしね)


 サーラは上空で飛行を続ける悪魔を見て、次の一手を考える。


 魔人状態じゃないから飛行はできないし、能力に対するメタでもある。


「とことんやろうって言った割に、逃げるんだ。そんなにわたしが怖い?」


「……君、感覚系だろ。センスの具合で分かるよ。接触は危ういと判断した」


 挑発するも、悪魔は言い訳を用意する。


 的外れな意見じゃない。一応、筋は通ってる。


「じゃあどうするの?」


「こうさせてもらう――っ!!」


 問いかけに対し、悪魔は手のひらを向ける。


 その先にいたのは、こっちじゃなく、マーリン。


(攻撃軽減の効果を読んで、その発生原因を……)


 合理的な判断に、身の毛がよだつ。


 この後に起こる展開は目に見えている。


 足をもいでから、最後に頭を潰すつもりだ。


「――――」


「色触是空!!!」


 悪魔から眩い閃光が放たれ、後を追うように黒い手を放つ。


 直後、マーリンがいた場所は焼け焦がれ、焦土と化していった。 



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