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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第144話 戦う理由

挿絵(By みてみん)




「はぁ……はぁ……はぁ……」


 視界が揺らぎ、耳鳴りがして、意識が遠のく。


 息が切れ、肺が圧迫され、呼吸もままならねぇ。


 体のあちこちは痛ぇし、立っているのもやっとだ。


 ――なんで、戦ってんだっけ。


 ぼーっとする頭で、ふとそんなことを考える。


 必死こいて、戦う理由なんてないような気がした。


 今はとにかく休みてぇ。頭にあるのはそれだけだった。


「そろそろ、吐いたら、どうかな!!」


 そこで聞こえてきたのは、悪魔の声。


 すかさず飛んでくるのは、無数の拳だった。


 微塵もセンスを纏ってねぇ、通常攻撃ってやつだ。


 加減されてるのは明らか。それでも、苦戦を強いられた。


「ぐっ……!!」


 ただ単純に、生身の拳の威力がたけぇ。


 センスと肉体では、衝撃を緩和し切れねぇ。


 気付けば体は吹っ飛び、地面を無様に転がった。


「――」


 起き上がろうとするやいなや、上空に陰りが見えた。 

 

 頭部狙いのスタンプ攻撃。受ければ恐らく、顔は潰れる。


 死にはしねぇが顔の原型はなくなる。そんな無慈悲な一撃だ。


「……」


 ゴロンと転がり、ラウラは反射的に避ける。


 寝転んでいた場所に踵が直撃し、地面を容易く砕いた。


 生じたのは、一瞬の隙。休みたい思いに反し、体は合理的に動く。


「――切り取り(カット)っ!」


 ラウラが選んだのは、裁ちばさみによる能力の行使。


 二枚の刃を開いて閉じ、着地した左足のアキレス腱を狙う。

 

「認めるよ。君の能力は脅威だ。……だからっ!」


 余裕のある反応を見せ、悪魔は空いた右足を振り下ろす。


 速度重視の一撃。目に見えて威力はねぇが、対応できねぇ。


 パキリと音が鳴る。必要最小限の力で、致命的な結果を生む。


「――――ちっ」


 ラウラは起き上がり、後退して、舌を鳴らす。


 今の攻防によるダメージは軽微。それより問題は。


「これで頼みの綱はなくなった。諦めるのが身のためだよ?」


 悪魔の足元に転がるのは、裁ちばさみの残骸。


 指定した対象を切り取る能力は、もう使えねぇ。


 唯一、実力差を埋められる手札は使えなくなった。


 ――残された道は二つ。


 諦めてソフィアを引き渡すか、死ぬまで諦めないか。


 残念ながら、増援は望めない。残った戦力は自分のみ。


 状況は圧倒的に不利。相手は考えるまでもなく、格上だ。

 

 逆転する青写真なんて見えねぇし、これといった策もねぇ。


「……」


 ラウラは現実を受け止めて、一歩後退する。 

  

 それは質問に対する、ある意味での回答だった。


 その一連の動作だけで、高らかに宣言したのと同義。


 ――体は諦めたいと叫んでいた。


「…………」


 悪魔は一部始終を見届け、薄ら笑いを浮かべる。


 無理に選択は迫らない。答えは出ていると言わんばかり。


(諦める前提で、殺されないよう交渉するのが現実的ってか……)


 悪魔が欲しいのは、切り取りで保存したソフィア。


 貼り付けない限り安全だが、それだと交渉にならねぇ。


 ソフィア一人を差し出して、どこまで見逃してもらえるか。


 それが今の最善。人として最低だが、皆殺しよりはマシだった。


(……?)


 後ろ向きな方向に思考が傾く中、足に何かが当たる。


 いや、当たっていることに、やっと気付けたって感じだ。


 視線を送った先にあったのは、一部が欠けた鉄の塊と肉の塊。


 両方とも見覚えがあった。侍従として、忘れてはならねぇものだ。


『クラシックってやつか。こんな時代遅れの品物で王になれんのか?』


『……やめとけ。気安く触れると火傷する。と言っても手遅れか』


 思い返されるのは、武器庫での一連の会話。


 脳裏に浮かぶのは、無数の武器と持ち主の表情。


 目をぎゅっとつぶり、この後の出来事を察している。


『うっ。なんだ、こいつ……。持てねぇ……』


『こいつらはぜーんぶ王族専用さ。使い手を選ぶ。私なら……この通り』


 重くて落とした斧を、持ち主は軽々と拾う。


 王族専用の武器。選ばれし者だけが重さを感じない。


 身の丈に合わない武器だったしても、王族なら簡単に扱える。


『そういうカラクリか……。つまんねぇの……』

 

『本来なら持った瞬間に……。いや、詮無いことか……』


 持ち主は斧を棚に戻し、あらゆる武器の中から大剣を選ぶ。


 この時は気にも留めなかった。深掘りをしようとも思わなかった。


『王位争いに、そんな大層なもん、必要なのか?』

 

『王位継承の歴史は、今に始まったことじゃない。これがうちの、普通なんだよ』


 武器の持ち主だった第一王子を『王』にする。


 それだけを考えた。それ以外考える必要がなかった。


(そうか……。僕は……)


 そこでラウラは、戦う理由を思い出す。


 取返しのつかない失敗をようやく自覚する。


 侍従としての役割を果たせなかったと理解する。


(僕は……っ!!!)


 すると、腹の底から、とめどない怒りが湧いてくる。


 原因となった相手じゃなく、原因を作った自分への怒り。


 継承戦を軽く見なければ、王子を優先したなら、防げた問題。


「――――」


 ラウラは意を決して、手を伸ばす。


 主を失い、半分に欠けた大剣を握り込む。


 重いか軽いか感じる暇もないまま、持ち上げる。


 これは主への意思表示。物理的な重さは関係ねぇんだ。


「はぁ……。切り取った子を渡すなら見逃してあげるけど、どうする?」


 対する悪魔は、呆れた顔を作り、問いかける。


 数秒前だったら、ノータイムで乗った提案だった。


 だがこいつは、人の心理をなーんも分かっちゃいねぇ。


 数秒前と今は違う。もう戻れねぇところまで来ちまってる。


「人間にはな……通したい義理と人情ってモンがあんだよ」


 大剣の切っ先を悪魔に向け、ラウラは語る。


 曖昧な回答だが、答えに至るための必要な助走。


「だから?」


 きょとんとした顔を作り、相手は疑問符を浮かべる。


 やりてぇことは山ほどあるが、口にしたい言葉は少ねぇ。


「答えはノーだ、クソ野郎! 悪魔には一生分からねぇだろうがなぁ!!!」


 亡き主人の無念を晴らすため、ラウラは駆ける。


 形見の大剣を振りかぶり、雷光に迫る斬撃が放たれた。

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