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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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143/156

第143話 創意工夫

挿絵(By みてみん)




 北辰流。江戸時代後期に生まれた古流剣術。


 千葉周作とマルタ。二人の開祖による共同流派。


 周作は剛、マルタは柔の型を立案し、剛柔併せ持つ。


 パオロが選んだのは前者。敵を合理的に駆逐する剛の型。


 帝国で暗躍する鬼の殲滅に尽力し、駆逐艦の由来にもなった。


 中でも【薄雲】は奇襲に長け、鬼を最も殺した技と言われている。


「ふぅぅ……」


 パオロは息を吐き、刃が通った手応えを感じる。


 辺りには青い血潮が飛び散り、足元を異色に染める。


 そこにいたサーラとソフィアは血を浴びながらも、無事。


 最低限の働きをした形になるが、決着がついたわけじゃない。


(及第点、といったところか……。雲耀には程遠いな……)


 斬った右腕を横目で見ながら、実戦の難しさを悟る。


 知識と経験をトレースしても、完璧には再現できない。


 場、空気、緊張、体調、相手、様々な要因が絡んでくる。


 それらに上手く順応しないと、雷光に匹敵するのは不可能。


 剣術というよりも、自力を高めた先にある、高等技術だった。


(ただ、嘆いてばかりもいられない。初太刀が駄目なら、二の太刀で――)


 パオロは意識を切り替え、正眼の構えを取る。


 向いた切っ先の奥には、片腕を失った悪魔がいた。


「悪くない太刀筋だ。……だけど、まだ遅い」


 知ったような口を叩き、放つのは横蹴り。


 なんの技術も感じられない、野蛮な攻撃だった。


 ただ、とんでもなく速い。返しの一手が間に合わない。


 トレースした知識と経験が頭の中で囁き、最適な行動を選ぶ。


「――っっっ!!!」


 選んだのは、剣身を盾代わりにした防御。


 直後、芯に響く衝撃が伝わり、体は吹き飛ぶ。


 ビリビリとした感触と共に、王墓所内の風を切る。


 結末を悟りながらも、その間に考えるのは、今の一撃。


 防げたのは奇跡に近かった。身構えていたから、助かった。


(こいつ……雲耀を生身で……) 

 

 考えに至った瞬間、パオロは壁面と衝突し、気を失った。


 ◇◇◇


 パオロが剣を切り上げ、片腕を飛ばす。


 怯むことなく悪魔は反撃し、蹴りを放った。


 結果、パオロは戦線離脱。復帰は恐らく難しい。


 それが悪魔に踏み込んだ、一瞬の間に行われていた。


(どうするよ……。このままじゃ……)


 ラウラは愚かな前進を続け、思考する。

  

 標的とは接敵間近。止まろうにも止まれない。


 幸い、ソフィアの殺害は阻止できたが、他は最悪だ。


「さてさて……」


 悪魔は斬り飛ばされた右腕を掴み、こちらを見る。

 

 続けて、肩の切断面に右腕を当て、蒸気を発していた。


 その隙間から骨と肉と神経が結びついていくのが目に入る。


(振り出しに戻すってか。……させねぇよ)


 尋常じゃない反応速度を誇る悪魔と言えど、行動過多だ。


 斬られる。蹴り返す。腕を掴む。警戒する。傷口に当てる。


 一瞬の間に複数の動作をした。隙が生じないわけがねぇんだ。


切り取り(カット)


 神経を研ぎ澄まし、ラウラは裁ちばさみを開いて、閉じる。


「見え見えだよ」


 悪魔は引っ付いた右腕をひょいと上げ、難なく避ける。


 はさみは空を切り裂き、無防備な隙を晒してしまっている。


 すでに相手は迎撃態勢に入り、空いた左手を振りかぶっていた。


 このままいけば、拳に腹を射貫かれて終わる。そんな未来が見えた。


 防御に意識を割いたところで、センス量は相手が上。貫通されるだけだ。


(だろうな……。本命はそっちじゃねぇよ)


 だからこそ、ラウラは機転を利かせる。


 防御を捨てて、ある一点に意識を集中させる。


 エクストラターン。命を捨てる覚悟で得た二回行動。


 それは、一瞬で五回行動した悪魔の速度をわずかに上回る。


「――――切り取り(カット)


 再度動かしたのは、裁ちばさみ。


 空振っても、動作自体がコンパクト。


 大振りな動きに比べて、立ち直りが早い。


 問題は、何を狙うか。どう能力を活用するか。


「……」


 悪魔の表情が、明らかに強張ったのが見える。


 それを横目に見ながら、裁ちばさみは標的に接触した。


「――――」


 接触された対象は消え、別の空間に送られる。


 ただこれは、今まで一度も試したことはなかった。


 上手くいく保証はなかったが、結果的に上手くいった。


 悪魔の拳は腹の手前で止まっていて、確かな効力を感じた。


「僕を殺せば、ソフィアは二度と出てこねぇ。吐かせたいなら加減しろや」


 ラウラが取った行動は、ソフィアの全身を切り取ること。


 彼女の身体を取り出す鍵は、この世で一人しか持っていなかった。

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