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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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140/156

第140話 束の間の日常

挿絵(By みてみん)




 王墓所での戦闘が激化する前のこと。


 第四小教区。南端にある出入り口付近。


 ひび割れた地面を歩くのは、二人の男女。


 焦ることなく、念入りに周囲を探っている。


 辺りは暗く、似たような白い住居が建ち並ぶ。


「お前……パオロとか言ったな。剣術は誰に習った」


 ラウラは住居に目を向けながら、ふと尋ねた。


 気まずい沈黙に耐えられなくなったわけじゃねぇ。


 空いた時間の有効活用。仮想敵の情報収集ってやつだ。


「答えると思うか? 下らんこと聞いてないで、捜す方に意識を向けろ」


 すると、パオロは敬意の欠片もない反応を示した。


 不必要なコミュニケーションをする気は一切ない様子。


 意図は十分理解できたが、どうしても冷たい印象を受けた。


(一応、年上だし、同じ組織の先輩なんだがな……)


 人のことは言えねぇが、あまりの塩対応に舌を巻く。


 拒否るにしても、もう少し敬意があってもいい気がした。

 

「……まぁ、言えねぇし、言わねぇよな」


 言いたいことを飲み込み、ラウラは捜索に集中する。


 どのみち実戦になれば、実力はハッキリするだろうしな。


 仕方なく考えを切り替え、無言の間がしばらく続いていた頃。


「お前……ラウラとか言ったな。ジェノとはどこまでいったんだ?」


 似たようなフレーズで、パオロは尋ねる。


 しょうもないし、心底下らねぇ質問だった。


 それなのに、顔が急激に熱くなるのを感じる。


「ば……っ! 何言ってんだ!! あいつとは……何でもねぇよ」


 手をあたふたさせながら、ラウラは必死で否定する。 


 完全な不意打ちだった。意識外からバットで殴られた感覚。

  

(何やってんだ……。これじゃあ脈アリみてぇじゃねぇか……)


 予期せぬ感情に戸惑いながら、冷静に自分を見つめる。


 ジェノとは、一年にも満たない間、行動を共にしただけだ。


 それ以上でもそれ以下でもなく、過ごした月日は別に長くねぇ。


 背中を預け合える関係ではあるが、色恋沙汰の気配は全くなかった。


「大体分かった。あいつも罪な男だな」


「だから、そんなんじゃねぇって――」


 一方的に会話を切られそうになり、躍起になって否定する。


 なんでもない日常会話であり、ごくごく平凡な世間話だった。


 共通の話題はジェノ。それをとっかかりにすれば、話は広がる。


 そう思っていた時、小教区内の空間には目に見えた異変が生じた。


「「…………っ!!!」」


 視界に飛び込んだのは、まばゆい光。


 薄紅色の閃光が、辺り一面を染め上げる。


 夜空にデカい花火が打ち上がった感じに近い。


 それと同時に、北の方向から強い気配を感じ取る。


(王位継承戦も大詰めか……? いや、違う……) 


 光を通じて伝わってくるのは、死と絶望。

 

 不測の事態が起ころうとしている何よりの証。


「こいつは……勝負どころじゃねぇぞ」


 ラウラは考えるや否や、光った方へと動き出した。


 ◇◇◇


 第二森林区。北端に位置する出入り口付近。


 同じ歩幅で、南方に足を向けているのは二人の女性。


 互いに目を閉じ、森から異変を感じ取るようにジェノを捜す。


「つかぬ事をお伺いますが、帝国に在住されたことはありましたか?」


 目を開き、尋ねたのはアミだった。


 手掛かりを掴めないからこその、雑談。


 尖らせた神経を休めるための時間でもあった。


「……随分前に、そんなこともあったような気もするね。どうしてだい?」


 気兼ねなく答えるのは、マルタと名乗った女性。


 正体は不明。第四王子に化けていたのは聞き及んだ。


 本来なら、赤の他人。それなのに、浅からぬ縁を感じる。


「どこかの道場でお見かけしたような気が……いえ、忘れてください」


 アミは話を掘り下げるように質問を重ねるも、すぐに取りやめる。


 捜索には何の関係もない質問。敵とはいえ、妨害したくはなかった。


「あぁ、それなら、千葉家の道場に飾ってある写真とかじゃないかい?」


 ただそれでも、マルタは快く質問に答えた。


 後ろめたいことは一切ないような清々しい反応。


 おかげで記憶が思い起こされ、頭には映像が浮かぶ。


「そういえば、歴代の師範の……」


 千葉家の道場には、代々受け継がれる師範の写真が飾られる。


 思い起こされたのは、その左端にあった写真ではなく、写実画。


 飾られる順番から考えれば、千葉家の歴史上、最古参になる存在。


「師範というか開祖だね。千葉家相伝の『北辰流』は、あたいが作った」


 その重大過ぎる事実は、軽々しくも本人の口から語られた。

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