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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第137話 仕切り直し

挿絵(By みてみん)




 


 第三回廊区。白い廊下の中央付近には人が集まる。


 ジェノが失踪したことに伴う、現場検証が行われていた。


「背後から一撃……。見事なもんだね。幸い命に別状はないみたいだが」


 そう語り出すのは、マルタだった。


 近くにはガルムと、丸っこい魔物が倒れる。


 両者は共に失神。こっちも確認したから間違いねぇ。


 ただ、どうも引っかかる。うさん臭ぇ匂いがプンプンしやがる。


「そいつら、両方身内だろ。一芝居打ったんじゃねぇだろうな……」


 ラウラは疑いの眼差しを向け、率直な意見を述べた。


 勝負にイカサマは付き物。可能性としては十二分にある。


 廊下を常に監視できてたわけじゃねぇし、策は仕込み放題だ。


「下らんことを抜かすな。勝負を提案した時点で、破る道理がない。そんな手の込んだことをするぐらいなら、最初から殺し合いで決着をつけている。むしろ、一芝居打ったのは、勝負に負けたそっちじゃないのか?」


 次に反応したのはパオロだった。


 もっともな返しだが、承知はできねぇ。


 濡れ衣を着せにきたようにしか思えなかった。


「あぁ? てめぇ……喧嘩売ってんのか」


 額にピキリと筋を立て、ラウラは体にセンスを纏う。


 一触即発の空気が流れ、それぞれがセンスを発していく。


 マルタ、パオロ、アミ。この場にいる、正気を保った全員だ。


「随分と威勢がいいようだが、忠告する。そこから一歩でも動いたら……斬る」


 パオロは腰の剣に手をかけ、抜刀術じみた構えを取る。


 冗談でも脅しでもなく、本気だ。明確な殺意の念を感じる。


 ヒヤリとした汗が額に浮かび、心臓がきゅっと締め付けられる。


(こいつ……。実力を隠してやがったのか……?)


 直接的な接点はなかったが、見れば大体の力量は分かる。


 あくまで直感の判断だが、経験上、大きく外したことはねぇ。


 少なくとも継承戦前に見た時は、平凡レベルにしか感じなかった。


 それなのに今は、上澄みの剣の達人に思える。威圧感が段違いだった。


「初心者にしては、筋が良過ぎますね……。何か裏技でも使いましたか?」


 違和感を覚えたのは、アミも同じだった。


 恐らく、剣術を扱う身として、変化を察した。


 仕草。間合い。足運び。呼吸の仕方や一連の動作。


 少なくとも、継承戦開始時点では初心者だと判断した。

 

 上澄みの剣士だったら、実力を隠し切れるわけねぇからな。


「さぁな。真偽を知りたいなら、試して見ればいいんじゃないか」


 対するパオロは、半ば肯定するような強気な態度を見せる。


 剣戟に慣れているはずのアミも、腰が引けているように感じる。


(まじぃな……。このままだと無理やり押し切られる……)


 武力の均衡があってこそ、対等な話し合いが可能になる。


 格下と判断されれば、不利な条件でも呑まざるを得ねぇ状況。


 ただでさえ勝負で負けてんのに、さらに面倒な問題がのしかかる。


(会話の主導権を握る方向に、シフトした方が良さそうだな……)


 不利な状況だと理解した上で、急速に頭を回す。


 肝を冷やされたおかげか、適切な言い訳が頭に浮かんだ。


「ばーか。試したのはこっちだよ。これで全員センスが使えるのが分かった。少なくとも、この中にユダはいねぇってわけだ。勝負を反故にしたなら、センスを一生涯使えなくなる。そういう縛りのはずだったろ?」


 ラウラはセンスを消し、状況を整理する。


 どうにかしてここは、言いくるめるしかねぇ。


 暴力沙汰になれば、割を食うのはこっちだからな。


「一応、筋は通ってるな。……だが、分かったところでどうなる」


 鋭い殺気を収め、パオロは話に乗る。


 ひとまずは順調。ただ、気は抜けねぇな。


「この中に犯人がいねぇなら、二手に分かれてジェノの捜索をしようぜ。それも今度は、先に見つけたモン勝ちってルールだ。元はと言えば、そっちが用意した監督役の管理不足が原因だし、仕切り直すぐらいの責任はあるんじゃねぇかな」


 ラウラは相手の非を指摘し、一方的に要望を伝える。


 通れば御の字。通らなくても、五分の状態で話し合える。


 即席で考えたにしては悪くないように思えた。後は反応次第。


「……敗者が図々しいにもほどがあるぞ。そんな我儘が通ると思うのか?」


 ある意味で想定通りに、パオロは忌避感を露わにする。


(思ってねぇよ。本題はこっからだ……)


 内心で返事しつつ、ラウラは次の一手を考える。


 ここから納得させるのは難儀だが、どうにかするしかねぇ。


「……いや、待ちな。その話、乗ってやるよ。非があったのは確かだしね」


 しかし、意外にもあっけなく、マルタは容認する。


 裏があるような気がしたが、ここは流れに乗るべきだな。


「だったら、北か南か、捜索範囲を選んでくれ。勝者の特権ってやつだ」


 畳みかけるようにラウラは、勝負の選択を迫る。


 どちらに選んだとしても、今のところ得しかねぇ。


 本来なら、あの瞬間で敗北が確定したわけだからな。


 仕切り直せた時点で、どう転ぼうと万々歳ってやつだ。


「おい……いいのか、好き勝手言わせて」


「状況は一刻を争う。他の手を考える暇はないだろ?」


 パオロは反論するも、マルタが言いくるめる。


 それ以上の文句が出ることはなく、相談は終了する。


「方向性は決まったみたいだな。答えを聞かせてもらおうか」


「あたいは南を選ぶ。ただし、互いの相棒を入れ替えるのが条件だ。いいね?」


 ラウラが問い、マルタはすぐさま答える。


 受ける代わりに提示してきたのは、一つの条件。


(どういうつもりだ? 監視が目的か? それとも……)


 一瞬、頭によぎるのは、後ろ暗い企み。


 それを除けば好条件だが、命の危険もある。


「ああ。いいぜ。その条件で受けて立つ」

 

 ただ、深く考える間もなくラウラは即断。


 そこで再び勝負は成立して、マルタとアミは南。


 ラウラとパオロは北に行き、ジェノの捜索が始まった。

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