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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第133話 幼少期②

挿絵(By みてみん) 




 幻想遊戯室から外に出た後のこと。


 ガタンという音が宮殿内に突如響いた。


 辺りは暗闇に満ち、非常電源に切り替わる。


 最低限の照明が点灯して、廊下を淡く照らした。


「……脱出の実行日は今日、なんだね」


 アルカナは黄色のポロシャツの裾を握り、反応する。


 特に驚きはしなかった。前もって説明を受けていたからだ。


「一緒に逃げたいなら来てもいいよ。その代わり、失敗するリスクもある」


 いつもの白いジャージを着るエリーゼは、提案する。


 どうして、もっと早い段階から相談してくれなかったのか。

 

 そんな不満が出そうになるけど、計画が漏洩する可能性もあった。


 計画当日に誘うのは、むしろ正しい。当然のリスク管理のように思えた。

  

「急に言われても、困るよぉ……」


 道理は理解できるけど、決断できるかはまた別の話。


 この選択で、王子という身分を捨てるかどうかが決まる。


 安定を求めるなら、王子一択。自由を求めるなら、脱出一択。


 ただ、王子でいる間は自由がなく、脱出には不安定が付きまとう。


 一長一短。どちらも正しいだろうし、どちらも間違ってるとも言える。


「悪いけど、五秒で決めて。それ以上は待てない」


 エリーゼは時間を指定し、選択を迫る。


 刻々と時間が過ぎていくのを肌で感じる。


 廊下は騒がしく、複数の足音が響いていた。


(束縛された安定か、不安定な自由か……)

 

 答えは二択。良し悪しを踏まえて、改めて考える。


「王子の安全が最優先だ。各王子につき、最低二人は護衛をつけろ!」


 そこで響いたのは、近衛兵の声だった。


 聞こえた方向から考えれば、かなり近い。


 深く考え込む時間は、残されていなかった。


「…………あぁ、もう! 分かった!! 僕もついて行くよ!!!」


 五秒。ギリギリのタイミングでアルカナは決断する。


 一人なら怖いけど、二人なら不安定な自由でも楽しめる。


 さっきまで遊んでいた対戦型の脱出ゲームとは、真逆の立場。


「そうこなくっちゃ。ルートは決まってるからついてきて」


 エリーゼは満面の笑みを浮かべ、協力関係が成立する。


 こうして、詳細を知らないまま、王室脱出ゲームは始まった。


 ◇◇◇


 近衛兵を振り切るためか、色んな部屋を行ったり来たりした。


 先頭はエリーゼの侍従。次にエリーゼ。その後ろをアルカナが走る。


 ひとまず脱出するというよりも、見つからないことを優先していた感じだ。


「……あのさ、僕にもそろそろ具体的なプランを教えてくれない?」


 アルカナは背中を必死に追いかけながら、尋ねる。


 ゴールは決まってるけど、果てしなく遠く感じていた。


 どれだけ走ればいいか分からないし、体力にも限りがある。


 詳細な距離を把握して、気休めでもいいから、安心したかった。


「…………秘密。答えが分かってたら、つまんないでしょ」


 エリーゼは振り返ることなく、ぽつりと語る。


 彼女の侍従が現れた時と違って、答えは先送り。


 先が見えないまま、不安な逃避行は続いていった。

 

 ◇◇◇


 バッキンガム宮殿。一階。白の客間。


 白く塗られた壁に、金箔が施された部屋。


 来客者用の金のソファや、椅子が並んでいる。


 天井にはシャンデリアが飾られ、壁には複数の鏡。


 扉は二つで、背後には外に通じている窓が並んでいる。


 窓を開いて、飛び出せば、バッキンガム宮殿から出られる。


 ――なんて甘い展開になるわけがなかった。


「これも計画のうち……?」 


 額に冷や汗を浮かべながら、アルカナは問いかける。

 

 辺りには、紺の軍服に金兜を被る、王室師団最強の騎兵隊。


 窓の外には、赤の軍服に黒帽子を被る、近衛師団の兵隊が見える。


 逃走経路を読み、先んじて兵隊を配置した。そんな気配を感じてしまう。


「…………」


 返ってきたのは、深い沈黙だった。


 エリーゼは無視を決め込み、何も語らない。


「これは詰みかな。まともにやれば」


 一方、侍従はヘラヘラとした態度で状況を語る。


 計画通りなのか。策があるのか。追い込まれたのか。


 分からないけど、言葉を真に受けるなら詰んだことになる。


(どうしよう。何も手がないなら、僕の知人ということにすれば、まだ……)


 真っ先に考えたのは、王子の権力を使った問題の解決。


 エリーゼの存在は、王室の中でも一部の人間しか知らない。


 兵士目線で考えれば、侵入者に拉致されてる状況に見えるはず。


 だから、彼女を賓客という配役にすれば、誤魔化せるかもしれない。


 幸い、宮殿から逃げたわけじゃないから、なんとかなるような気がした。 


「あの……この人は……」


 アルカナは、思いつく限りの言い訳を並べようとする。


 ある意味で敗北宣言だ。脱走は諦めないといけないことになる。


「わたしの代わりに死んでくれる?」


「ああ。喜んでこの身を捧げるよ、我が主」


 主人と侍従との短い応答。


 その内容の濃さに言葉を失った。


(何を……するつもりなんだ……)

 

 見えたのは、黒い本を開いている侍従の姿。


 本に手を置き、赤いセンスを生じ、それは始まる。


「――――――『供儀』」


 その短い言葉と共に、地面には赤い五芒星が浮かんだ。


 そこから生じた巨大な黒い手が、侍従を握りつぶしていく。


 バキッと痛々しい音が鳴り、赤い血潮が辺り一帯を染め上げる。


「あ……あぁ……」


 言わずとも分かった。これは生贄の儀式だ。


 侍従はその身を捧げ、まともじゃない方法を選んだ。


「大義を得るには、犠牲は付き物だよ……おにい」

 

 次に聞こえたのは、エリーゼの声だった。


 初めて『兄』と呼んでくれた。認識してくれた。


 嬉しいような気がするし、初めて『妹』と認識できた。


 だけど、見えたのは、 黒い二本の角と黒い尻尾と黒い羽根。


「化け、物……」


 目の前にいるのは、『妹』の皮を被った化け物。


 そこで、エリーゼとは、道を違えることになった。


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