第130話 勝負の行く末
王墓所内で独創世界が開かれた同時刻。
第三回廊区にある二つの扉が同時に開かれる。
現れたのは、扉の攻略数を競い合った二つのチーム。
マルタは前を向いて、ラウラは足元に視線を落としている。
この時点で互いに決着を悟っていた。攻略できる扉の数は十種類。
カウントするまでもなく、過半数である六つ目の扉を攻略した方が勝つ。
「悪いね。勝負はあたいの勝ち……」
勝者のマルタは笑みを浮かべ、勝ち誇ろうとしていた。
「あぁ、分かってる。あいつは……」
敗者のラウラは、敗北した事実を受け止めようとしていた。
同時に視線を向けたのは、廊下中央。争奪戦の景品に目を向ける。
その人物を目に焼き付け、良くも悪くも結果を受け止めようとしていた。
「「…………っ!?」」
しかし、互いの表情は凍り付いた。
不測の事態が、目の前には存在していた。
廊下の中央に横たわるのは、ガルムとヘケヘケ。
互いに瞳を閉じており、意識はなく、生死不明の状態。
問題はそれだけではない。二人は口を揃え、事実を口にした。
「「ジェノが、いない……」」
◇◇◇
独創世界【永遠の国】。マーリン朝時代の王国の具現化。
ただそこは、王国と呼ぶには、あまりに質素な場所だった。
漆喰の白い壁を円状に覆った小さな住居。それが複数見える。
畑が存在するも小規模。井戸は一つで、住民は二十人程度のみ。
出力の限界なのか、元々の人が少ないのか、別の都市にいたのか。
不明。この目で見たのは、白銀の鎧が集落を襲った後の光景だった。
ただ事実はどうであれ、やらなきゃいけないことは全く変わってない。
「……空触是色【浄界】」
サーラは地面に両手を置き、無数の白い手を出現させる。
守護霊召喚の消費量でパンクして、気絶してた頃が懐かしい。
過去に飛んだ以前と以後じゃ、センス総量は比較にならなかった。
(やることは裁判の時と同じ。精神に干渉して、住民を味方につける)
清々しい気分のまま、明確な意思を持ち、白い手を操る。
独創世界であろうとも万能じゃない。攻略法は必ず存在する。
「無駄だよ……」
すると、マーリンは哀れむような目を向け、語り出す。
手には霊杖はなく、必要最低限のセンスすら纏っていない。
余裕の表れなのか、独創世界で発動する能力に自信があるのか。
「やってみなきゃ、分からないっ!!」
敵愾心を燃やし、サーラはグンと白い手を伸ばす。
体中に熱い血が巡り、精神はこの上なく安定してる。
必ず技は通用する。そんな底抜けの自信だけがあった。
「違う……。技の内容でも、センスの問題でもない」
マーリンは、哀れむ表情を崩さない。
勝つことを確信しているような態度だった。
(強がりに決まってる。だって、もうすぐ手は……)
強い意思に従い、無数の白い手は住民に迫ってる。
対処する素振りはなく、このままいけば、命中する。
独創世界のルールが『攻撃無効』でも貫ける気がした。
「――君の体は、もう限界だ」
マーリンが放つ言葉と共に、視界が揺れる。
足元がふらつき、立っていられなくなってくる。
それに従って、伸びた手が徐々に消えるのが見えた。
(あぁ……そっか……。わたし、頭を……)
思い出したかのように、後頭部には痛みが走る。
霊杖の先っぽで、頭を貫かれた時の傷が悪化したんだ。
ここまで耐えられたのはきっと、アドレナリンが出たおかげ。
起きた現象が理解できると、次にやるべきことが頭に思い浮かんだ。
「手柄は、ゆずって、あげる……。だから、後は、まかせたよ…………おにい」
サーラは思いを伝えると、体はバタンと倒れて、意識は途絶える。
場に残った挑戦者は、残り一人。運命を託されたのは、一人の王子。
イギリス現国王直系の血族であり、サーラにとっての兄にあたる存在。
「…………」
アルカナ・フォン・アーサーの物語が始まろうとしていた。




