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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第129話 切り札

挿絵(By みてみん)




 第四小教区。分霊室の最北。王墓所。

 

 王の棺が鎮座するだけの、陰気臭い空間。


 暗い。冷たい。悲しい。恐ろしい。息苦しい。


 死というマイナスのイメージが暗さを加速させる。


 ――元来、墓とはそういうもの。


 墓参りでも、その本質は変わらない。


 後ろ向きで、冷たい印象は決して覆らない。


「さぁ、僕を殺してくれ!!!!!!」


 しかし、その場所は、異様な熱気に満ちていた。


 後ろ向きな言葉に感情が乗り、狂気に染まっていた。


 その渦中にいるのは、初代王マーリン。鎮座される霊体。


 王位継承戦の火付け役であり、王位を決めるための舞台装置。


 役目は、王子の守護霊に殺されること。そうすれば、封印される。


 百年後に起こる王位継承戦まで、霊体という不安定な存在は保たれる。


 ――分霊室は、そのために作られた。


 その一端に加担した。千年前の当事者だった。


 だからこそ、責任を持って、終わらせないといけない。


 長きに渡った下らない八百長に、終止符を打たないといけない。


「マーリン!!!!」


 彼と同等の熱意で応じたのは、サーラだった。


 背後には、守護霊である白銀の鎧が召喚されている。


 鎧は両手を掲げ、正面にいる敵に対し、狙いを定めている。


「王になるのは、僕だっ!!!!」


 その熱に乗せられるように、アルカナは反応する。


 背後には、守護霊である巨大な赤鳥が召喚されている。


 背中から生えた両翼を、今にも羽ばたかせようとしていた。


「――――」


 それぞれの視線の先にいたのは、黄金の鎧だった。


 マーリンが召喚した守護霊であり、二本の刀を構える。


 その二刀は、主人に対し、今にも振るわれようとしていた。


 ――目的は自殺。


 守護霊に殺されれば、封印されるシステム。


 そのルールの穴を突いて、マーリンは自殺を試みた。


 一度目は失敗した。二度目も失敗に終わらせないといけない。


「「――――――――」」


 先に、二体の守護霊の能力が発動していく。


 巨大な赤鳥は『熱風』。黄金の鎧は『次元切断』。


 それぞれが狙う対象は同じ。マーリンに迫っている。


 ――両方を止める必要があった。

 

 普通の守護霊なら絶対無理。どう考えても成し遂げられない。


 だけど、成長して現れた守護霊は、普通という物差しでは測れない。


「――――――――――」


 白銀の鎧。白教が信仰する唯一神の外見。


 起源は不明。なぜ、現れたのかは分からない。


 神は信じてないし、信仰にも全く興味がなかった。


 ただ、こいつが持つ能力だけは、何よりも信頼できた。

 

「「「――――」」」


 三体の守護霊の能力が、一斉にぶつかり合う。


 主人の意思に従い、守護霊は存在を証明し合った。


 決着は一瞬だった。瞬きをしている間にケリがついた。


「…………」


 残っていた守護霊は、たったの一体のみ。


 黄金の鎧は潰され、巨大な赤鳥は消え失せた。


 残った白銀の鎧も、活動限界を迎え、光に変わる。


 ――守護霊戦の完全勝利。


 マーリンは生き残り、他二名の守護霊は葬った形になる。


 再召喚には時間がかかる。インターバルは必ず存在している。


 そんな限られた時間の中で、やらなければいけないことがあった。


「自殺の種は尽きた。追い込まれてるみたいだけど、気分はどんな感じ?」


 残った難題は、通常攻撃を無効にするマーリンを通常攻撃で倒すこと。

 

 それが実現すれば、王位継承戦の歴史は途絶え、初代王の存在は消滅する。


「守護霊以外の攻撃では倒せない。君が一番よく分かってるんじゃないのかな?」


 対するマーリンは、焦りの色を一つも見せない。


 彼が有する能力の大半は、『攻撃無効』に依存している。


 能力の範囲を王墓所内に限定することで、無茶を実現していた。


 自殺を阻止できても、通常攻撃で殺せないなら、意味がないことになる。


 ――ただ。


「体、透けてきてるよ。アルカナに神聖樹を燃やされて、困ってるんでしょ」

 

 サーラは起きた状況から、前後関係を考察する。


 過去の世界から戻ってきて、ようやく頭が回ってきた。


 戻った当初は、情報が錯綜してたけど、ここにきて繋がった。


 過去の世界の分霊室で、画策していたことを色々と思い出してきた。


「……それで勝ったつもりかい? 君には知らせてない能力もあるんだよ」


 半ば事実を認めながらも、マーリンは余裕の姿勢を崩さない。


 たぶん、嘘じゃない。そういう下らないハッタリはしないタイプ。


「わたしも知らせてない能力はある。第三回廊区の進行度が分かる結界とかね」


 サーラは一切動じず、秘めていた手札を晒す。


 相手の精神を追い込む、とびっきりの情報を与える。


「…………っ」


 そこで初めて、マーリンの表情が崩れた。


 焦りと不安が、手に取るように伝わってくる。


 知られてはいけない情報を知っている確信がある。


「攻略度は100%。『攻撃無効』の効力は失った。今なら殴って倒せる」


 サーラは拳を握り込んで、残酷な事実を告げる。


 すると、隣にいるアルカナは、ハッとした表情を作った。


 今のやり取りで、さすがに気付いた。マーリンは今、裸同然だと。


「…………ふっ、ふふっ、ふはははははははははは」


 そこで響いたのは、マーリンの高笑いだった。


 気でも狂ったのか、追い込まれた現状を悟ったのか。


「抵抗しないなら、痛くしないけど、どうする?」


 どちらでも構わない。残ったのは、無防備に近いマーリン。


 あれだけ遠く感じたゴールが、すぐ近くにあるように思えた。


「……認めるよ。君たちは今まで戦った人間の中で、最も僕を追い込んだ」


 持っていた霊杖を捨て、彼は一方的な評価を下す。


 内容はどうでもいい。褒められても、嬉しくはない。


(まずい……。この展開は……)


 それよりも、嫌な予感があった。


 考えもつかない切り札を切られる凶兆。


「アルカナ! あいつを倒すから手伝って!!」


 すぐさま、サーラは拳を握って、飛び掛かる。


「う、うん!!」


 直後、アルカナの返事が聞こえ、杖にセンスを集中させる。


 だけど、遅い。倒す判断を下したのが、あまりにも遅すぎた。


「――――独創世界【永遠の国(ネバーランド)】」


 広がるのは、分霊室とは一線を画した仮想空間。


 心象風景の具現化。芸術系を極めた先にある秘奥の技。


 マーリンの心が映し出したものは、見覚えのある景色だった。

 

 白亜の崖。白い教会。集落。そこに住んでいる、耳が長い住民たち。


「……………………………………………………シチリア、島」


 イタリア半島における西南に位置する島。シチリア島。


 マーリンが侵略し、支配した後に発足した王国があった。


 シチリア島内でも南部に位置し、純血異世界人が住まう国。


 ――『永遠の国(ネバーランド)』と呼ばれていた。

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